「古典文学入門」

「古典文学入門」(吉田精一/新潮選書)絶版

→最近はこういう本が出版されることが少ない。
ひとりの学者がある領域を手広く概観する本を見ない。
全体を細分化し、それぞれ専門の学者に分担させる共著ばかりである。
一般読者の求めているのはそんなものではない。
学問というのは、なんだかんだいって愉しいのでしょう。それを分捕りたいのである。
記事の正確性など二の次、三の次。
わかりたいというより、わかったつもりになりたい。
「万葉集」のある歌の作者が判明したからといって、我われの生活にはなんの影響もない。
あるのは、大まかでいいから、ある領域を俯瞰(ふかん)したいという欲望。
日本古典文学とはどういうものか。どこが美味しい部分なのか。
こういった関心を本書は満足させてくれる。

正しいのかわからないが、著者の主張をまとめてみる。
まずは日本語の特徴から。

「だいたいにおいて漢語をまじえないかぎり、
やまとことばのみでは抽象的な用語、概念などの規定ができないのは事実であり、
比較的に云って語彙は貧弱であった。
これにことばの韻律がきわめてとぼしい性格をあわせると、
少なくとも詩語としての日本語は、英語、ドイツ語などにくらべて、
音楽的でなく、また論理的でもない。
古代の詩文におけるこの種の特色は、アストンをして、
日本語は壮大、崇高な風景、人事を歌うに適しない、と云わしめたのである」(P15)


そのため――。

「日本文学はいわゆる象徴性に富みながら、宗教的な深みをもたず、
超現実的な神秘性に欠けている。感情的にも平衡と中庸を重んじて、
怪奇と超自然をよせつけない」(P23)


ほんとかいなと思うけれども、日本の古典にそれほど親しんできたわけではないので、
よくわからない。まあ、そういうことにしておくと、なんだか落ち着く。
細かい批判は研究者がやっているのだろう。
この日本語ならびに日本文学の分析における正否が、
わたしの人生に関係することはまずない。これだけは確実である。

二項対立的に日本文学史を眺めるとわかりやすい。
たとえば「万葉集」と「古今集」。
「万葉集」は自然を目で発見した。
いっぽう「古今集」は耳を重んじ、ことばの響きから和歌が作られている。
随筆でいえば、「枕草子」と「徒然草」は対照的。
感覚的な「枕草子」に比して思索的な「徒然草」。
どちらもぜんぶ通読したことはないけれども、言われてみたらそんな気がする。
なら、そういうことにしておこう。
「源氏物語」と「平家物語」も好対照。
完全な虚構たる理知的な「源氏物語」。
「平家物語」は事実をもとにした叙事詩。こちらは仏教思想の強い影響がある。
いま3つの比較をした。この3対。みなさまはどちらが好きですか。
わたしは「万葉集」「徒然草」「平家物語」にそれぞれ軍配をあげます。

本書の構成は、有名古典の一部分を章の冒頭へ引用。
のちにそれを解説していくというパターンが16回、繰り返される。
井上靖がこの本の宣伝文を(裏表紙に)書いている。
いわく、古典入門はこのようなかたちがいちばんだ。
古典の美味なる部分を原文でつまみ食いするのが最良。

けれども、まあ、この吉田精一さんは助平(スケベ)である。
ねっとりとした老人の性欲が文面からにじみでている。
道行くナンパ師などより、よほど書物に囲まれた老学者のほうが好色なのだろう。
抜粋する古典がどれも極めつけにいやらしい。
王朝文学なんてどれもそんなものと言ってしまえばそうなのだろうが、
それでもやはり荒々しい老年のリビドー(性的活力)に圧倒される。
この国文学者が古典を愛してやまないのがよくわかる。
淫猥な舌でもって古典をなめつくそうとする姿勢はキモ……、
いや見習うべきものがある。これは井上靖がいうよう最高の古典入門書である。

COMMENT

111 URL @
10/17 12:48
. 井上靖さんの文学。本当にいいですよね〜。
私も大好きで、文学にゆかりのある場所を訪れたり、全集を図書館ですみからすみまで読んだりしています。静かな、そして暖かい、でもどこかものがなしい文体。ユーモアがあり、井上靖さんの視線を通して見る小説の世界は、私は作家さんの中で一番好きです。
http://blog.livedoor.jp/tarotohachinosu/
Yonda? URL @
10/17 21:57
111さんへ. 

ごめんなさい。わたしはダメな人間です。
どうして吉田精一の本の感想に、井上靖についてのコメントが?
もしや111さんは、あちこちにおなじコメントをしているのでは。
おかしな邪推をしてしまいました。疑り深い最低の人間です。
111さんのブログ拝見しました。社会系の情熱的なブログですね。
うちは視野が狭いのではないかと反省しました。








 

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文学をよく見てみると  文学をよく見てみると  2007/03/11 09:04
各帖の名前以上五十四帖の名は、紫式部自身がつけたとも、後世の人々がつけたとも言われている。後世では、香道#源氏香|源氏香や投扇興の点数などに使われ、また女官や遊女が好んで名乗ったり(源氏名)した。・[moto][magazine]『ユリイカ』2006年11月号。・聞香稽古(もん