「ハムレット」

「ハムレット」(シェイクスピア/福田恆存訳/新潮文庫)*再読

→数えてみたらこの「本の山」で「ハムレット」の感想を書くのはこれで6度目。
よし、今回は現代思想ふうに読んでみようじゃないか。
「ハムレット」をテクストとして読解する。
こちらのテクストにひきこんで、最大限にハムレットを誤読してみようと思う。

なぜ「ハムレット」を読んだのか。怖かったからである。
半年間文通をしていたメル友と会う直前に「ハムレット」を音読した。
ネットで知り合ったひととリアルで会うのは結構な勇気を必要とする。
とくに対人恐怖症に悩んでいるわたしはである。
ホレイショーはハムレットへ呼びかける。

「いけませぬ、ハムレット様。(……) 行ってはなりませぬ」

放せホレイショー。わたしは絶叫する。
ホレイショーのため息まじりの声を耳にしながらである。

「なにごとも天に委(まか)せるよりしかたはない」

待ち合わせの新宿へと「ハムレット」はわたしを叱咤(しった)する。
ハムレット気分のわたしを相手にしたかの人物はさぞ迷惑だったことと思う。

                    *

この経験を通して、「ハムレット」がいささかわかったような気がする。
ハムレットは観客ではなかろうか。
観客席にいた人間がいきなり予告もなしに舞台へあげられる。
父と名乗る亡霊から復讐を命じられる。
まいっちゃうよな〜が青年・ハムレットの感想である。
だが、自分はハムレットなのだから、どうにかして劇に仕立てなければならぬ。
どうすれば劇が発生するのかハムレットには皆目見当がつかぬ。
そのためあれこれとやってみる。どれも決定打にはならない。
うっかり憎んでもいないポローニアスを刺し殺してしまう。
かと思えば、イギリスへ追放される。
ハムレットには舞台上の事件が、さぞ不条理なものと感じられたのではないか。
ハムレットが覚醒するのは、5幕1場、墓場のシーンである。
王子はなにを悟ったのか。劇とは人間が作るものではない。
神と相談しながら、共同作業として造形するものなのだ。
墓場は死の象徴である。ここでハムレットは墓堀人と言葉を交わす。
30年前、ハムレット誕生時の挿話を墓堀人から聞かされる。
ハムレットが劇を了解した瞬間である。
人間は生まれ、そして死ぬ。
30年前に自分は生まれた。死ねばこの墓場に葬られる。なんのことはない。

生で開幕し、死で閉幕する。

たわいもない。劇とはこれであったか。
なにを迷っているのだ。言動はすでに決められていたのだ。
劇はもう完成しているのである。あとは台本どおりに芝居をすればいいのだ。
自由など、どこにもなかったのである。
生も死もままならぬ。ならば合間の劇が自由なはずがないではないか。
どうなるかはすべてもう決められているのである。
決定している。なにをしようが微塵(みじん)たりとも変えることはできぬ。
「ハムレット」のテクストは、ハムレットの存知せざる場所で完成しているのだ。
そうであったか。このときハムレットは、生まれて初めて自由を感得する。
いくら自分が自由にふるまおうと、それは宿命として決定されていることなのだ。
どこにも自由はない。森羅万象みなみな宿命である。
いや、いまこそ完全な自由を手にしているのだ。なにをしてもそれは宿命なのだから。
ままならぬ生と死にはさまれたハムレットが造物主と対峙した瞬間である。

                    *

ハムレットにならなければ、新宿へ行くこともかなわなかった意識過剰のわたしである。
この人生でだれと会うかは、もう決められているのだ。
それはがんばるつもりだが、成功するか失敗するかは、すでに決められている。
悪しき宿命論者とお笑いになるか。
すべてが決められているとあきらめたとき、ようやく演戯する余裕が生まれるのである。
演戯の自由はある。人間、それで充分ではないだろうか。
新宿からの帰途――。
そうか、これなのか。こういう台本だったのか。
大根役者のわたしだが、感動に打ち震えたことを告白する。

「つまりは、こうなろうか、
人の志と運命とはまったく相反して動き、
思い定めしことも、かならず覆(くつがえ)され、
思いは我がものなれど、結果はつねに手のとどかぬところに現われる」(P101)

COMMENT

シェイクスぴあ URL @
09/28 00:37
. >ハムレットが覚醒するのは、5幕1場、墓場のシーンである。
王子はなにを悟ったのか。劇とは人間が作るものではない。
神と相談しながら、共同作業として造形するものなのだ。
墓場は死の象徴である。ここでハムレットは墓堀人と言葉を交わす。
30年前、ハムレット誕生時の挿話を墓堀人から聞かされる。
ハムレットが劇を了解した瞬間である。

なるほど。そういう解釈がありましたか。勉強になりました。まあ、ハムレットは難しいですね。何を考えてるやら分からん男だ。それはそうと、Yonda?さんは安西徹雄訳のリア王は買いましたか。シェイクスピアファンのYonda?さんのことだから、ご存知かと思いますが、最近光文社文庫で出ましたよね。中身は電子ブックで前から売ってたのと同じでしょうけど。あと、「シェイクスピア大全 CD-ROM版」は高いけど、原文+代表的なシェイクスピア翻訳+江守徹ほかの出演の福田シェイクスピアの音声ファイル付きで、私個人は重宝してます。翻訳比較なんかもクリックひとつでできて面白いですよ。
Yonda? URL @
09/28 23:35
シェイクスぴあさんへ. 

>まあ、ハムレットは難しいですね。

なるほど、なるほど、どうでしょうかね。

>何を考えてるやら分からん男だ。

なるほど、なるほど、貴重なご感想であります。

光文社文庫の「リア王」は買っていません。
あれは何回読んでも(見ても)つまらないからです。
CDロムも入手していません。
活字をパソコン画面で読むと目が痛くなりますので。
買わなければなりませんかね。
シェイクスぴあ URL @
09/29 23:51
. >なるほど、なるほど、どうでしょうかね。
>なるほど、なるほど、貴重なご感想であります

あれ、何か気分を害するようなこと書きましたっけ?
嫌味を返されるとは、怒らせてしまったようですね。
Yonda? URL @
09/30 03:09
シェイクスぴあさんへ. 

いやみなんて、とんでもありません。
失礼しました。
ポローニアスに従ったまでなのです。
「他人の意見には耳を貸し、自分の判断はさしひかえること」(P33)








 

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シェイクスピア「ハムレット」(新潮文庫)  本の虫  2006/09/27 17:41
 シェイクスピア「ハムレット」(新潮文庫)を読了。いまさらシェイクスピア、いまさらハムレットと思われるかもしれないが、正真正銘初めて読む。
ハムレット  DVD!!  2007/01/22 12:46
ハムレット
感想:ハムレット  逆さメガネで覗く世界 -don't think, feel-  2007/07/01 11:05
動機:あまりにも有名だから 評価:★★★☆☆ 題名:ハムレット *角川文庫のものを読みました。 著者:シェイクスピア 洗礼日1564年4月26日 - 1616年4月23日(グレゴリオ暦5月3日) イギリス(イングランド)の劇作家、詩人。 エリザベス朝演劇の代表的な作家で、最も