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「ハムレット」

2006.611

「ハムレット」(シェイクスピア/福田恆存訳/新潮文庫)*再読

→落ち込んだときは、決まって「ハムレット」を読む。音読する。
「ハムレット」は、あきらめる劇である。
自由が宿命のまえに敗れ去る構造になっている。
王子ハムレットは自由闊達に行動する。かれは自由の限界を推し量る。
宿命に到達するのは劇の終盤。
ハムレットは親友のホレイショーにあきらめの境地を告白する。

「一羽の雀(すずめ)が落ちるのも神の摂理。
来るべきものは、いま来なくても、いずれは来る――いま来ればあとには来ない
――あとに来なければ、いま来るだけのこと――肝腎なのは覚悟だ。
いつ死んだらいいか、そんなことは考えてみたところで、誰にもわかりはすまい。
所詮、あなたまかせさ」(P185)


                    *

自由律俳人・種田山頭火のことを語りたい。
この俳人には無二の親友がいた。木村緑平である。
職業は炭鉱の医者。山頭火とおなじく俳句誌「層雲」の同人。
木村緑平は乞食(こつじき)の俳人である山頭火を精神的・財政的に支えつづけた。
山頭火は大学ノートに日記をつけていた。
1冊終わると、かならずこの木村緑平宅へ郵送していたという。
山頭火全集のもとになっているのはこの日記である。
山頭火は俳号。本名は種田正一。
いわば種田正一は、山頭火の演技をしていたということになる。
そのとき必要だったのが木村緑平なのだ。
かの放浪俳人は、種田正一を山頭火と認めてくれるひとを欲した。
山頭火の劇(生涯)をしかと見守ってくれるひとの存在を求めた。
これはハムレットとホレイショーの関係とおなじである。
ハムレット=山頭火、ホレイショー=木村緑平。
木村緑平のあたたかな視線があったから、山頭火はおのが劇を完遂することができた。
ハムレットも同様である。ホレイショーは決してハムレットを非難することがない。

                    *

あるひとからいわれた。
「あなたのハムレットを書いたらどうですか」
ハムレットは、あきらめの劇である。あきらめろということか。
そのような深い思惑があっての意見ではないのはわかっているのだが、
ついおかしなことを考えてしまう。
ハムレットは思索する。ハムレットは行動する。
その結果としてのあきらめをこの王子は抱く。
わたしにはまだ思索や行動が足らないのだろうか。「ハムレット」を書くことができぬ。

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