FC2ブログ

「味覚小説名作集」

「味覚小説名作集」(大河内昭爾:選/光文社文庫)

→いわゆる文豪の食いもん小説のアンソロジー。
岡本かの子の「鮨」は何度読んでもいい。
いまのグルメ番組の根っこにある人情スタイルの元祖はこれだろう。
食はカロリーでも糖質でもインスタ映えでもなく物語である。
糖質制限中毒、糖質制限絶対正義の創価学会、
宮本輝はいくらお金を持っていても鮨(すし)を食えないんでしょう?
銀座の「久兵衛」でなくても、チェーン店「くら寿司」でも、うまいものはうまい。

このアンソロジーの「鮨」に次ぐ作品は矢田津世子の「茶粥の記」。
事前情報なんてぜんぜん得ないで読んでいるから驚いた。
最近の小説かと思ったくらいだ。
矢田津世子は、いまわたしが気になっている坂口安吾のイロ(恋人)で、
超絶美人ではないか。
矢田津世子なんて聞いたこともなかった。
人間の嗜好ってなんなのだろう?
たまたま「いいな」と思う書いた小説を書いた人が、気になる作家のイロ。
まったく(アマゾンのレビューのような)先入観がなくて読んで、
それでいいと思った小説を書いた人が矢田津世子という人で、
だれでもいいが、ちょっと気になって調べてみたら坂口安吾のイロかよ。
摩訶不思議なりミステリー。

矢田津世子「茶粥の記」は早逝した夫を妻が偲ぶという物語。
世間的にはつまらない小役人だった夫はやたらグルメに興味を持っていた。
食べてもいないもののグルメ記事を、さもうまそうに書くのである。
あたかも実際に食べたかのようにである。
そもそもからして食が大好きで、それを語る饒舌はみな舌を巻いた。
なかには実際に食べたと思っていた人も大勢いたが,
妻の自分は本当のことを知っている。
夫は法螺(ほら)を吹いているだけ。
しかし、その法螺話は現実よりも現実らしい。
現実に美食を口にするより、未体験の夫の美食談を聞くほうがおいしい。
あるとき夫はこう言った。

「想像してたほうがよっぽど楽しいよ。どんなものでも食べられるしね」(P51)

夫の死後、妻ははじめて小役人の旦那の書いたグルメ記事を読み思う。

「良人(おっと)の文章はまだ続いて、
土佐の「鰹(かつお)のたたき」のことが、
その料理の仕方まで懇切に述べてあるのだった。
読みながら清子は、
「嘘ばっかり、嘘ばっかり」
と見えない良人を詰(なじ)った。
食べもしないくせに嘘ばっかり書いていると
肚立(はらだ)たしい気分になったが、
しかし不思議に良人の文章から御馳走が抜け出して次つぎと眼前に並び、
今にも手を出した衝動に、
清子はつばが出てきて仕方がなかった」(P62)


みなさん女子さまも現実の男なんかより妄想のほうがいいでしょう?
そこをどううまく書くかだ。
矢田津世子は美人で、安吾より先に世に出ちゃったから(芥川賞候補!)、
無頼男子は怒って別れちゃったという説がある。
食レポって美女美男がやるでしょう?
あれは相乗効果で味も美味いと思ってもらえるからなの。
食品宣伝をやるのは美女美男でしょう? そういうことなの。

水上勉「寺泊」は旅行したとき、
下層民ががつがつ食らうカニがうまそうだったなあ、という食レポ。
ダンディーな水上勉だから成り立つ世界。
おれに食レポ文章を書かせたらうまいと思うが、顔がまずいのでまずい。
庄野潤三の「佐渡」も食レポだが、それは「プールサイド小景」(芥川賞)。
源氏物語で知られている「耳瓔珞」の円地文子の「苺(いちご)」は佳作。
女は好きな男の食べ物の好き嫌いに強い影響を受けてしまうって話。
こちら女っぽいのか、自信がないのか、似た傾向がある。
七味唐辛子が好きな子といたらおなじものが好きになり、
鶏の唐揚げがめっぽう好きな子といたらおなじになるが胸肉はダメ。
ももか皮、ぼんじり。
耕治人という人の「料理」は食事が人をつくるという本音めいた小説。
食べているものの影響って強いよね。仕事とも影響する。
耕治人は戦時中に豪華なメシを食いながら、
自分が仕事をできないのは(売文を書けないのは)
料理の作り手がよくないからだとか書いてしまうおかしな人。
しかし、そういう関係もあって、
いまガチンコ肉体労働10時間をしていると(人によって大したことはない)、
なーんかさ、コンビニの雑な味なものが食いたくなるんだよ。
大好きな刺身とかあんまりうまくない。
これをアマゾンでは生産性という。

矢田津世子が美人で安吾のイロで、
「放浪記」「晩菊」の林芙美子や
チェーホフの湯浅芳子と交友があったということを知ったのは今日の収穫。
こういうゴシップがいちばんおもしろい。
その方面の専門家の小谷野敦さん、住所を教えますから献本してください。
現代のマイナー文壇裏話をすると、
小谷野敦さんの「代理夫婦」――東大vs早稲田事件の、
本当の真相を知っているのは、モデルにもなった当方オンリー。
あれはね、あれなんだよ。

COMMENT

弥生 URL @
11/25 23:46
. 「代理夫婦」を読んだ小林夫妻は激怒発狂して小谷野を刑事告訴しようとした。小説はそれぐらいの狂気と破壊力がなければ面白くもなんともないね。

今、毒気が抜けてしまった小谷野には、無難な駄作しか書けない。ああなったらもう駄目だ。土屋くんも八王子を激怒発狂させ刑事告訴されそうになったが、それが作品のせいだとすれば、土屋くんの作品は本物である。








 

TRACKBACK http://yondance.blog25.fc2.com/tb.php/6646-8b19855a