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早稲田大学客員教授・原一男

2006.5.27

このブログをご覧になっているかたのどれほどが映画監督・原一男をご存じなのか。
たぶん8割方には聞いたこともない名前かもしれない。
代表作は「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」。
師匠をこういったらあれだけど、アングラのひとだから。鬼才とよばれるような。
告白すると、わたしも講義目録をみるまでこのドキュメンタリー映画監督を知らなかった。
授業をとってから(「演習」といっていたのだか)あわてて新宿ツタヤに走ったしだい。
卒業をひかえた大学生最後の年のことである。

原さんを知っているひとにだけたのしめる小話をひとつ。
原一男関係の検索でいらっしゃるかたも少なくないから書く価値はきっとある。
原さんは、おもしろいんだ。
この映画監督の根幹にあるのはコンプレックス。いじけ。ひがみ。ルサンチマン。
いまになって、ようやくわかる。定時制高校中退の原さんが、
早稲田大学の教授を依頼されたとき、どんなふうに思ったか。
満足感があったと思う。みたか、という反骨心である。
同時に気後れもあったはずである。それは気負いとなって現われる。

原さんは文学部の客員教授。
二文(第二文学部)は、まだ後ろ暗い雰囲気があるからよかったのかもしれない。
わたしの所属していた一文の「演習」では、完全に原一男さんが浮き上がるわけだ。
一文の学生は偏差値エリートばっかり。それも文学部ゆえ女子が大部分。
まあ、こういっちゃうと身もふたもないけど、みんなお嬢さまなんだ。
そんな中に投げ込まれた原一男。
劣等感をばねにひたぶるに表現を追及してきたこの映画監督と、お嬢さま軍団。
最高に笑えるシーンが繰り広げられる。そのひとつを書く。
いまでもこのネタを思い返して吹きだすことがある(笑)。

原さんは、年の暮れに旅行に行こうといいだすわけである。
ゼミ旅行というのかな。
文芸専修はそういう伝統がまったくない。
ぶっちゃけ、ほとんどだれも本心では行きたくないわけである。
原さんの理想郷というのは、ほらあの全共闘というやつ。
みんなで腹を割って話しあおうぜという。
だけどね、うちらとしては、そういうのは敬遠とまではいわないけれども、うん……。
結局、原さんの強引なプッシュでゼミ旅行に行くことになるわけである。
どこへ行ったのだったか。
原さんがしきりに温泉とくりかえしていた記憶がある。
どこかの温泉だったのだろう。

夜の宴会。どこかのお嬢さまが、お中元かなんかであまったと思われるウニをもってきた。
あの瓶詰めのやつ。なんでもってきたのだろう。ネタの一種だったのかな。
大学生たちとこの教授は、親と子ほども年齢が離れている。
女子大生の親たちは、なんというのかな。「勝ち組」というのか。
ぶっちゃけ実業家や一流企業づとめばかり。
女子大生の目には、原さんが珍獣かなにかに見えたことと思う。
もう原さんたらグレート! 女子の受けをとるためか、いきなりウニを食べはじめる。
瓶から直接。うまいうまいと。女子大生から笑われている。見るに耐えない光景であった。
進言したのを憶えている。絶句したのだったか。
「巨匠がそんなことをしていいんですか」
原さんはニコニコしながら「いや、いいんだ、いいんだ」。

一泊二日の温泉旅行の帰途――。
電車の中でのこと。
みると原さんが似合わない(ごめんなさい!)サングラスをかけている。
本人の自意識としては、過激な映画監督・原一男というのがあるのでしょう。
世界的に評価されているドキュメンタリー映画作家。
だが、国内では正当な評価を受けているとは言いがたい。
そのことを、この監督は実のところいささか誇ってもいる。
アウトロー。一匹狼。日本映画史の亜流。70年代の感性をいまも忘れていない。
表現をするとは、革命のようなもの。表現者・原一男のサングラスである。
このサングラスがお嬢さま軍団のまたとない好餌(こうじ)となる。

「原センセイ。なんでサングラスをしているんですか」
「あ、そういえば、ふしぎ。電車の中なのに」
「あの、その……そのだな」(口ごもる鬼才の映画監督)
「あ~、わかったぁ~。有名人だからですか!」
「たいへんなんですね。有名人って」
「いや、えーと」(どうしようもなく照れ笑いをするしかない過激な映画監督)

いまでも思いだすことがある。
笑いがとまらなくなる。
過激な映画監督。表現のためならなんでもする異才。
そういう演技が、お嬢さま女子大生にはいっさい通用しない。
住んでいる世界の違いから生ずる、この笑い。
原さんって、おもしろいな~としきりに思い返す光景である。
ふつうなら「うるさい!」と生徒を怒鳴りつけてもおかしくないのである。
しかし、原さんは、みごとキョドってしまう(笑)。

映画監督・原一男。
人生でこんなにおもしろい人間に会ったことがなかった。
はじめて目前の教壇にこの映画監督が立ったとき、
わたしの人生はかわったのかもしれない。
本心から「先生」とよびたくなるような巨人であった。

COMMENT

肛門太陽 URL @
03/13 21:55
. 原一男のような低学歴の田舎っぺに影響された世間知らずのお坊ちゃん(とは言ってもたかだか焼き鳥屋の倅にすぎない)が目の前で母親に自殺され、精神崩壊し、ワーキングプアとして裏街道の人生を歩んでいるのは痛快だね。

いい気味だから、もっと苦しむがいい。








 

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