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「女詞 太宰治アンソロジー」

「女詞 太宰治アンソロジー」(吉田和明・ 新田準編/凱風社)

→著作権フリーの太宰治の女性告白文体小説を集めたもの。
何度読んでも「恥」はすばらしく、今回読んだなかでは「葉桜と魔笛」が群を抜いていた。
「葉桜と魔笛」は小説の教科書と言いたいくらいである。
私的な意見だが、小説は「嘘と本当」の関係に尽きると思う。

短い小説ではあるが、物語を要約する。
中年女性の回想という物語形式である。
清らかな娘時代に妹がいた。病身で寝床におり、余命いくばくと言われている。
姉は妹宛ての手紙を盗み読んでしまう。
それは妹の女友達のていを装った恋文であった。
手紙を見ているうちに姉は知ってしまう。
いま病に伏せている妹が乙女ではなく、もう男性を知っていることを。
自分も経験していない男性を妹の身体は知っている。
最後は、病気のため、いわば捨てられたようなかたちで終わっている。
姉は妹への嫉妬やいろいろな思いを味わうが、
余命わずかの病身の妹が不憫でならない。
そこで恋文の筆跡を真似て手紙を書いてやる。
まだあなたを愛していると。
その証拠に夕暮れ、あなたの家のそばで口笛を吹きましょう。
これは思いやりから出た「嘘」ですよね。
寝床の妹から姉は呼ばれる。
姉が書いた手紙を見せられる。
姉が書いていたことがばれていたのである。どういうことか?
妹は言う。あの手紙は自分で自分に出したの。
「本当」は恋愛なんて一度も経験していないし、このまま長くないだろうし、
それではあんまりだ。なんの青春もなかった。さみしい。
だから自分宛ての恋文を書いたの。
これもまた「嘘」ですよね。
黄昏どきのそのとき、外でだれかが軍艦マーチの口笛を吹いているのが聞こえる。
姉妹のあいだに厳粛な沈黙が生まれる。姉は神がいるのではないかと思う。
どういうことかというと、姉の書いた「嘘」が「本当」になったわけである。

ネットで感想をちらほら見たが、だれもわたしと似た解釈をしているものはいなかった。
妹の告白が一世一代の「嘘」であったとも解釈できるのである。
妹の恋人は「本当」に存在していたとも読める。
そういう視点から見ると小説世界が一変する。
口笛は元恋人あるいは知り合いに頼んだ妹のお芝居だったのかもしれない。
こういういろいろな解釈ができる小説がいいのである。
そして、小説に正解はない。正しい解釈というものはない。

*青空文庫「葉桜と魔笛」
*青空文庫「恥」

COMMENT

久々利柿下入会 URL @
08/01 12:52
. 「恥」の姉妹作ともいえる「誰」も見事。特に終わり方がいい。「チャンス」は駄目だね。あれは太宰の「もて自慢」だ。








 

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