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「彌太郎さんの話」

「彌太郎さんの話」(山田太一/新潮社) *再読

→これは単行本(ハードカバー)として出版されたときにすぐに購入(2002年)。
えらくおもしろかったなあ、という記憶だけが残っていた。
去年読んだ本で、けっこう繰り返し感想を書こうとしたのだが、書けず、
この小説をどうまとめたらいいのかわからなかったが、
山田太一作品のテーマは結局似たようなものであり、
「本当と嘘」「現実と虚構」「人はわかりあえるのか」なのだろう。
中年脚本家の主人公が30年ぶりに再会した、
子どものころの知り合いの12、3歳年上の波乱万丈な人生話をひたすら聞き、
そしてなにが本当か嘘か、現実か虚構か、人はわかりあえるのかの問題に悩む。
「彌太郎さんの話」――。

なにが本当か嘘か? なにが現実か作り事か? 本当にわからない。
いつだったかある人と10年まえにあったことで意見が相違し、
相手はこんなふうに記憶しているのかと他者に驚いた。
むかし職場で退職勧奨されたときも、
1週間後には「きみを辞めさせたくなくて退職届をしばらく上に出さなかった」
と工場長から真実味、人情味のこもった口調で言われ、
なにが真実なのかわからなくなった。
父と母の果てしなかった抗争も、なにが本当のことだったのかわからない。
そういう世界を実にうまく娯楽性も十分にそなえたうえで描いている。
僕はむかしから世界各国で身の上話を聞かされることが多く、
それは楽しくもときには辛くもあるのだが、
苦楽を超えた部分で人の話はおもしろい。「彌太郎さんの話」はおもしろい。
なにが本当で、なにが嘘だかわからないところがおもしろい。
人間ってこうなのね、と微笑も苦笑もしたくなるし深い哀憫の念を感じる。
私は「彌太郎さんの話」をこのような態度で聞く。

「妙なことをいうな、という気持だった。
とはいえ、私はBC級戦犯についての
彌太郎さんの「体験」を軽んじていたわけではない。
その時点(一九七九年)で、彌太郎さんは、ほぼ三十年前の話をしていたのである。
しかも理不尽な監禁状態の中での体験である。
記憶に事実以外のものがまざるのは仕方がない。
そのどこまでが本当かなどと問うより、
体験を彌太郎さんはいまどんな「話」にしたいのかと、聞くべきだろう。
おおかたの歴史家だって彌太郎さんとそれほどちがうことをしているわけではない。
そして彌太郎さんの話には、座興のホラ話とは違う、
切実で執拗な熱心さがあり、きっと彌太郎さんはそうした話をすることで
長いこと抱えていたものを解き放っているのだろうと思えた」(P75)


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