「ひとめぐり」

「ひとめぐり」(サマセット・モーム/木下順二訳/新潮社)絶版

→戯曲。英国産。
これほどの傑作戯曲には、そうはお目にかかれない。さすがサマセット・モーム!
この作品も入手困難。たしか新潮のでかい全集にも入っていたから、
「おえら方」ほどではないと思うけれども。うん、もったいないよな。
しかし、よくない。どんどんマイナーなほうへいっている。
こういう傑作を読んでしまうと、最近の小説やらドラマでは物足りなくなる。
バカにするようにもなる。世間の価値観とは乖離(かいり)するばかりである。
すると、ひとと話せなくなるのである。困った、困った……。

戯曲「ひとめぐり」。
おもしろい。いや、おもしろいでは何もわからない。具体的にいう。
読んでいて何度もふきだした。先が知りたくてハラハラした。結末が意外で驚愕した。
読後、しばらく考えさせられた。こういう作品をわたしは傑作だと思っている。

登場するのは政治家の青年。かわいい奥さんがいる。
芝居である。劇的なことがなくてはいけない。
この青年は何十年ぶりかで母と会うのである。
母はかれが5歳のとき、息子を捨てて駆け落ちをした。それからずっと会っていない。
礼儀上、母だけを招待するわけにもいかない。駆け落ちした相手も呼ぶ。
かれは青年の父の友人だった。すなわちこの母は夫の友人と駆け落ちしたのである。
母を呼ぼうというのは青年の妻の発案であった。
これには理由があった。この妻も夫に不満を感じていたからである。
青年の妻も駆け落ちを考えている。劇的な行動に飢えている。

燃えるような恋をしたいと思っている。

だから夫の母を招待したのである。妻は夫の母を見習いたいと思っている。
唐突に登場するのが青年の父である。知らされていなかった息子夫婦は大慌てする。
なんとも喜劇的ではないか。30年ぶりに三者が対面するのだから。
青年の父。青年の母。その駆け落ち相手は、かつては父の友人であった。
ふたりは駆け落ちして幸せになったか。
見たところ、ちっともである。このふたりは夫婦喧嘩ばかり。旦那のほうはアル中である。
父は嬉しくて仕様もない。ざまあみろである。駆け落ちした罰があたったのだ。
おれがどれだけ苦しんだか。妻を友人に寝取られて。おかげで政治家生命も絶たれた。
情熱的な恋がなにほどのものか。結果はそんなものではないか。
愛など永続的なものではない。ほら、見たことか。
他人を不幸にしておいて幸福になれるわけがない。
父は不幸なこのふたりを見るのが楽しくてたまらない。わざと夫婦喧嘩をあおる。

息子夫婦の問題がおおやけに露見する。
夫の母にそっくりの美貌をもつ妻は告白する。駆け落ちしたい。愛に生きたい。
夫はなんとか妻をとどまらせようとする。両親の二の舞はごめんである。
あんな財産もないろくでなしの青年に恋をしてどうする? 先が知れているじゃないか。
それにおれはどうなる。いまきみに逃げられたら醜聞である。政治家として致命傷になる。
しかし、妻の気持ちはかわらない。

ここからがおもしろいのである。
青年の父は、あのふたりに嫁を説得してもらうよう依頼するのである。
どうか嫁に教えてやってくれないか。駆け落ちの興奮などほんのいっとき。
炎のような愛などそう続くものではない。それからは長く苦しい不幸が待っている。
きみたちはかつて駆け落ちをしたことをいまは後悔しているだろう。
男のほうだって、あんなスキャンダルを起こさなければ、
末は総理大臣にもなる器であった。
一時的な恋愛感情で短絡的に行動するのは得策ではない。
そう嫁に教えてやってくれんか。
実にうまいドラマ構造だと感服する。
そうか。母はおのれの失敗を、息子を幸福にすることで償(つぐな)うのか。
夫には迷惑をかけたけれども、息子夫婦の破談をとめることで帳消しにする。

母は嫁を説得する。息子のためにである。
嫁は嘆息する。

「ああ、人生っていやね。
どうして人を不幸にしなきゃ幸福になれないのかしら?」(P177)


嫁はどうするのか。駆け落ちするのか。説得に従い、元のさやにおさまるのか。
駆け落ちをさそう男のほうは無鉄砲である。愛がない人生なんてバカげている!
旦那だって、きみを愛しているのなら、きみが幸福になってほしいはずだろう。
問題なのは、他人を不幸にするか、それともじぶんが不幸になるか。
おれの答えはこうだ。

「誰かと僕が猛烈に腹がすいててだね、
二人の間に肉の切れっぱしがひとつきりあってだね、
その人が『食べたまえ』って云ったら、僕ァ議論で時間つぶしてなんかいないね。
相手が気持ちを変えないうちにがつがつ食っちまう」(P179)


いま何が問われているのか。どちらを選択するかである。
平凡だけどそれなりに幸福な人生か。
たとえ不幸になる確率が高くとも、劇的で激しい人生か。
将来を考えるか。一瞬の燃えるような思いに賭けるか。
嫁は葛藤する。夫の母は後者を選択した。今現在は不幸である。
このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。
嫁は相手の目を正面から直視する。すべてが終わった。決着が着いた。
駆け落ちしようと決意する。「人間・この劇的なるもの」である。
それまでは説得していた夫婦も、もはやこのふたりをとめようとはしない。
どこかうれしいのである。いいじゃないか。一瞬の燃えるような情熱に生きる。
だらだらと生きていてどうなる。それでいい、それでいい。我われの人生もこれでよかった。
駆け落ち経験のある夫婦は、若いふたりにあれこれとアドバイスする。
あの激烈に幸福だった一時期を思い返しながら。
残されたものもいる。かくして父も息子も女房に逃げられたことになる。閉幕。

COMMENT

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