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書かれなかった物語

あたしの人生を物語にしたら1冊や2冊では済まないわよ――。

この人ともう一生会うことはないとわかっている父かたの伯母である。
たくさんいた父のきょうだいの長女。
わたしがそれを今日ここに書かなかったら、かの女が存在したことも消えてしまう。
どこまで本当かわからないが80歳を超える叔母は言った。
5人きょうだいの長女である。

シベリアで父を亡くし満州から帰国するまでは地獄だった。
地獄といえば、日本に戻ってからも地獄。
母は食堂を経営したが、
代わりに下の4人きょうだいのめんどうを見なければならなかった。
自分どころじゃない。つねにきょうだいのことがあたまにあった。
当時、女が大学に行くという風潮はなく、男ふたりを明治と法政に行かせた。
気づいたら婚期(24、5歳)を逃していた。

結婚したのは36歳で後妻。相手には子どもがふたりいた。
楽しいことは、なんにもなかった。なんにもない。なんにもなかった。
旦那は晩年に認知症を発症して、その相手をするのがひどく辛かった。
それでも何度も海外旅行に行っていたというから金はあったのだろう。
人生勉強になったのは、海外ツアーでも、
片方が認知症でも、片方がそれをうまく隠せばばれない。
認知症の旦那の世話は8年やり去年死んだ。
典型的な認知症で、警察から呼ばれることは何度もあった。辛かった。

あたしの人生はいったいなんだったのだろう?
後妻のため子どもはいない。
下の4人きょうだいを育て上げたが、しかし見返りのようなものはない。
どうせ今日で会うのは最後だし、ほかに耳はないし,
答えなくてもいいですから、と高速で聞いた。「浮気したことありますか?」
「ない」と即座に否定された。

いまはどう家を処分してどこの老人ホームに入るかだという。
問うた。いまのままで好きなように生きたらいいじゃないですか?
答えは、それだとみんなに迷惑をかけるから。
いざ死んだときにみんなに迷惑をかけるから。
迷惑をかけたっていいじゃないですか? 好きなように生きましょうよ!
伯母はそれはできないと言った。みんなに迷惑をかけられない。
人生で本当にいいことがなかった。辛いことばかりだった。なんにもなかった。

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