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「問答無用」

2006.2,24

「問答無用」(中上健次/講談社)絶版

→この本はけっこうめずらしいのでは?
晩年の(といっても40代後半だが)中上が、ティーンエイジャーの質問に答える。
恋人の気持がわかりません。部活をやめようか迷っています。友情とはなんですか。
これは笑えそうだと思わず買ってしまった。

                    *

日本最後の文学者ともいわれる中上健次を読み込んだのは母が自殺した直後だった。
中上も、お兄さんを自殺で亡くしている。だからでしょう。
いくら文芸評論家がごちゃごちゃ難しいことをいおうが、おまえらに中上がわかるもんか。
そんな不遜なことを、いまでもどこかで思っているところがある。
中上に「修験」という短編小説がある(「化粧」所収)。
中上とおぼしき大男が、いきどころのない破壊衝動をもてあましている。
それは妻への暴力となって現われる。

「家に帰るや、女をひきずり出して、殴りつけ、本棚を壊し、椅子を壊した。
生きるということはいったいなんなのか? 
兄が自死した二十四歳という齢をこえて、しかも女房子供を持って生きる、
その生きるということはどういうことなのか、
死ぬということはどういうことなのか、彼は訊いてもみたかった」


大男は故郷・熊野の山に分け入る。

「大男は、杉の根方にへたばり、坐り込み、
深山いっぱいに籠(こも)った蝉(せみ)の幾重にも入り混じった声を耳にしたまま、
声をあげて泣いた。
教えてくれ、もう一度会わせてくれ、救けてくれ。
大きな泣き声だった」


調べてみたところ、熊野古道のひとつ「大雲取越え」に
「亡者との出会い」と名づけられた場所があった。
その山道を歩いていると、亡くなった親兄弟に会えるという。
行くしかないと思った。どうしても自裁した母にもう一度会いたかった。
なぜわたしの目の前で飛び降りたのか。あれは復讐だったのか愛だったのか。
どうして日記にわたしの悪口ばかり遺して去っていったのか。
あんなことされたら、遺されたわたしはどうやって生きていけばいいんだ。
涙で顔をくしゃくしゃにしながら山道を歩いた。だれとも会わなかった。
あれからもう5年か。
青年期の中上はこう書いている。

「次第にぼくは兄が死んだ年齢(二十四歳)に近づきはじめ、
死ぬということのほんとうの理由がわからないまま三十歳になり、
四十歳になり、そして老衰をはじめる。
ぼくはいまのいまを書きとめておきたい。
死んだ兄のことを百年後に生きている人々にも、木下郁平はこういう具合に生きていて、
首をくくって死んだとわからせてやりたい。
おめおめと歳をとってたまるか、と思うのである。
わかってくれ、わかってくれ、と叫んでみ、
その声に気づいてなれなれしくよってこようものなら、
簡単にわかってたまるか、と思うのである」(「犯罪者永山則夫からの報告」)


うんうん、わかる、わかるよ。
中上とおなじである。
お願いだから、だれかわかってくれよと言いたい。
大好きな母が、よりによってどうして上からふってくるんだ。
なぜわたしの目の前でつぶれて血まみれにならなきゃならないんだ。
のほほんと生きているやつらにつめよりたい、わかるか、こんな人生があるんだぞ。
わかるって? 冗談じゃない。わかってたまるか。わかるもんか。
自分も他人もぶち壊したくなる。
自殺か他殺か、そのすんでのところで中上は小説を書いた。
わたしは書けない――。

                    *

小説家になりたいのですが、どうすればいいのでしょう。
少年のこの問いに、晩年の中上は著書「問答無用」でこう回答している。

「絵描きだって(小説家と)同じだ。描きたくて仕様がないんだから。
描くのに何の理由もない。自然に描いていくものなんだよ。
芸術家の世界っていうのは、俳優になりたい奴も同じで、
自然に肉体が動くものなんだから。
小説家も人からあれこれいわれて書いたりするものじゃない。その勝負なんだよ。
だから学校で文学を教えているけれど、教えられるはずがない」


最後は、この少年に冷たく言い放つ。

「本当に好きな奴だけしか、生きのびられない。
たとえ、一作か二作書けても、それで終わってしまう。
こんな意識では絶対ダメだと思う。作家にはなれないね」


COMMENT

白石昇 URL @
03/01 15:15
懐かしいなあ。.  これ面白いよねえ。ちなみに光文社から文庫出てます。タイトル違うけど。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334721265/qid%3D1141193717/249-2336638-0437902
Yonda? URL @
03/01 22:22
けっ!. 

文庫化されていたのか。
光文社の分際で。
見たことないが。
「ジャズと爆弾」同様。

この本でおもしろかったのは中上が新興宗教OKと言っているところ。
それで救われるのならいいやんと。
新興宗教に反対している、ひろさちやごときとは不幸の捉えかたがちがう。
心底に地獄を見つめつづけた作家だと思います。
あとを継ぐのは白石さんかわたしか。
負けませんよ~。
Yonda? URL @
03/01 22:35
ちがいます!. 

白石さんのブログで悪さしたことなんてありません(必死)。
影男 URL @
03/13 17:21
. 高齢ニートの分際で「光文社の分際で」とはご挨拶だな。








 

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