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「田園発 港行き自転車」

「田園発 港行き自転車(上)(下)」(宮本輝/集英社文庫)

→一流小説家の宮本輝の新刊文庫「田園発 港行き自転車」上下二巻を拝読する。
かつてコカという上司から「土屋さんは知的障害者以下だ」と指摘されたことがあるくらい、
当方の知力が低いためか、登場人物が多すぎて、視点がころころ変わり、
しかし、みながみな創価学会的メンタリティーを持つおなじような人で区別がつきにくく、
ある意味では読者を選ぶ難解な小説とも言えるだろう。
この小説では仕事が決まるときのことが複数書かれているが、
ひとりとして履歴書を書いて応募したものがいない。
全員、コネで仕事を決めているのである。
そういうところからみながみな創価学会員ではないかという疑いをいだいた。
一流の宮本輝は創価学会にどっぷり浸かりすぎているから、
それ以外の世界を知らないし書けないのだろう。

だれがだれだかよくわからなくなる難解な文学作品だが、
こちらの理解できた範囲内でわかりやすくストーリーを紹介しよう。
この文芸大作は、やたら無駄情報で水増しされている。
観光ガイドに書いてあるような、
富山の知識をそのまま書き写しているところがかなりある。
作者は自分の知った専門知識を書き写すことで(自転車やらグルメやら)、
原稿料収入継続および増加をねらったのだろう。
若手作家がこんなことをやったら選考委員の作者はキレるだろうが、
自分がやるぶんにはいいのである。
これは長老作家ならではの特権だから、そこを責めるほど冷たい人間ではない。
おそらくそういう観光情報、自転車知識、グルメ自慢を削除したら、
「田園発 港行き自転車」は1冊または1/3におさまるだろう。

ストーリーは15年まえ、裕福な会社社長が富山の田舎駅で突然死した(心筋梗塞)。
自転車会社の社長は宮崎へ接待ゴルフに行くと言っていたのに、
どうして富山でおっ死(ち)んだのか?
まあ、そんなことは「対岸の火事」で読者にはどうでもいいのだが、
創価学会員である作者の宮本輝には重大事らしい。
謎(なぞ)の答えは、
京都で芸妓をしている愛人と富山で逢っていたから(けっ、ブルジョアめ)。
で、この社長が死んだとき、じつは愛人は身ごもっていた。
そのことは商売女も死んだ男も知らなかった。
おそらく男が死ななかったら女は協議のすえ子どもをおろしていたことだろう。
男が死んだから女は男の子を出産する決意が生まれたのである。
これってひとつの「死」がひとつの「生」を生みだしたってことだから、
すげえ「生命のからくり」「宿命の彩り」「宇宙の法則」を書いているってことじゃねえか?
じつはこれは妙法(日蓮仏法)なんだが、
それを書ける学会員のおれ(宮本輝)ってすごいなあ。
社長令嬢はどうして宮崎に行くと言っていた父が富山で死んだのか知らなかった。
5年後のことである。
社長令嬢は株式収入で楽に食えることが判明し、コネで絵本作家になる。
彼女の描いた絵本を、例の富山の5歳の隠し子が読み作者に手紙を書いた。
作者は手紙の主が自分の義理の弟とは知らず丁寧な返事を書いた。
こういう美談が15年後の現在、みなの知るところになり、
みながみな感動しておいおいむせび泣く。
読者を泣かせるまえに登場人物がいっせいに感動して泣きはじめる。
いっしょに泣く読者と興ざめするものにわかれることだろう。
ふたりの手紙の内容はこうである。

「――ぼくのことをすきですか。
かがわまほせんせい、ぼくのことをすきになってくださいね。――
――わたしは、ゆうきくんをだいすきになりました。――
なんというやりとりだろう。人間の世界には、こんな奇跡に似たことが
あちこちでしょっちゅう起こっているのかもしれない。
人間はそれに気づかないだけなのではないか……」(上巻P291)


たしかこの女性絵本作家の祖父も浮気をして隠し子を生ませており宿命っぽいなあ。
みんながみんなお金持だから、金がわんさかあると2号を持ちたくなるのだろう。
宮本輝は浮気や不倫は悪だという倫理観を持っているらしいが、
わたしはそうは思わない。
自分がされたらいやじゃないかって、かえって寝取られ妄想で興奮するかも。
前提として自分なんかに女性をひとりじめする権利はないという客観的自己認識がある。
それにいまのわたしなんて人さまの奥さまに
ちょっとかわいがってもらうくらいしか希望がないので、浮気や不倫を否定できない。
創価長老作家の宮本輝の魅力は世間をよく知っているところである。
いま20代前半の女性が妻子持ちのIT会社経営者と双方同意で3年不倫して、
しかし別れるとなったときの慰謝料の相場は300万円だとよ。
若い女性っていうのはたくさんご馳走してもらいプレゼントをもらい、
しかも遊びに連れて行ってもらい、
年上からいろいろな床指導を無料で受け床上手にしてもらった相手に、
さらに副収入の100万を1年につき請求できるくらい価値があるんだなあ。
こんなおいしい思いをしたら、
その女性はこころがゆがんでいくのではないかと思うが、
宮本輝の小説世界ではそうなっておらず、
かわいい娘をさんざんおもちゃのようにもてあそばれた父親が、
あたかも世間をよく知った賢い市井の偉人のような教訓を垂れる。

「親としては、[娘に]もっと違う経験でおとなになってほしかったが、
やがて今回の失敗が麻裕[娘]という人間に
思いも寄らぬ豊かさを与えるかもしれないのだ。
失敗や災難や苦労が、そのままで終わってしまうのなら、
人間はなぜ人間として生まれ、
この猥雑で汚濁にまみれた社会で生きていくのかということになる」(下巻P38)


親父さんは友人の知り合いの弁護士に金の取り立てをやらせるのだが、
このときの描写がいまの宮本輝の真骨頂ではないかと思った。
宮本輝ほど世間(=金)のことを熟知した作家はそうそういないのではないか。
なかば脅迫のようなかたちで娘の件で300万円を獲得した家長は――。

「……弁護士に電話をかけた。弁護料を請求してこないので、
康平のほうから弁護士報酬の額と振り込み先を訊こうと思ったのだ。
「領収書は必要ですか?」
と弁護士は訊き、もし必要ないのなら二十万で結構だと小声で言った。
慰謝料の二割は払わなくてはならないのではないかと思っていたので、
「二十万……。それでよろしいんですか?」
と康平は訊いた。
「ええ。その代わり現金でいただきたいんです」
なるほどそういうことか。康平はすぐに理解した」(下巻P40)


宮本輝の文芸大作「田園発 港行き自転車」でいちばん感銘を受けたのはここである。
領収書を発行せず、その金が銀行を経由しなければ所得は税務署にばれない。
このわずかな文章で宮本輝は世間をよく知っていることがわかる。
この弁護士がやったことは、むかしのヤクザがやっていたこととまるでおなじである。
いま幅を利かせているコンプライアンスなんぞという横文字を、
あたかも毛嫌いしているような宮本輝のこういう創価学会精神がわたしは大好きだ。
お互い秘密にしておけば税務署(お国)に持って行かれることはないのである。
宮本輝は人情作家ともされているが、果たして人情とはなにか?
この小説で人情とはどういうことかを具体的にわかりやすく書いた箇所がある。
自転車会社カガワサイクルの社長が富山で突然死したあと妻が会長になった。
女性絵本作家にとっては母に当たる。

「母がカガワサイクルの会長に就任して約十五年間でやったことはひとつだけだ。
それはいまもつづいている。
母は会長になると、すぐに日本中の自転車販売店の店主に直接逢って
挨拶すると決め、それを実行に移した。
日本中の自転車屋といっても、カガワサイクルの製品を扱ってくれる店だけだが、
それでもかなりの数になる。
母はまずもっとも売り上げの少なかった四国から始めた。
四国を担当する営業部員に、一軒ずつの自転車屋の家族構成を調べさせた。
店主の年齢、配偶者の有無。
母はヨーロッパの高価なブランドのショールをデパートの外商部に発注し、
それを車に積んで各自転車屋を訪ね、店主や店長に挨拶してから、
これを奥様にとショールを渡して歩いた。
妻のいない人にはお母様にといった具合にだ。
それはエルメスやセリーヌなどの高級品だったから、経費もかかる。
一軒一軒を訪ねていくのだから日数もかかる。
けれども、カガワサイクルの会長、前社長の夫人が、
東京からこんないなかの自転車屋まで挨拶に来てくれて、
妻にこんな高価なおみやげも持参してくれた、という驚きは、
それまで店の奥に置いてあったカガワサイクルの自転車を
店先の目につく場所に移してやろうという心情に変わる。
そうしない自転車屋も多かったが、数年にいちど会長が訪ねて来て、
奥様かお母様にとショールや皮手袋などを置いていかれると、
やはり人情というものが生まれてくる」(上巻P170)


「人情=もの」

人の気持は「もの」でしかあらわせないという世間知を宮本輝は見抜いている。
人の気持は「言葉」で示してもうさんくさく(あとに残らず)、
気持を「金」で見せてしまうとどこか不潔感があるので、
気持は「もの」で表現するのがいちばん適切なのである。
これはいまの若い作家には書けない真理のひとつであろう。
「田園発 港行き自転車」では富山の若い女性が、
東京の元上司(妻子持ち男性)に2万円ぶんの魚の干物を送っている。
上司はお返しに元部下のあか抜けない田舎娘に2万のピアスを送る。
これこそ人情だが、正直わたしには人情が難しすぎる。
人にプレゼントするのが苦手である。
まず相手がなにをほしがっているのかわからない。
魚の干物なんて好き嫌いがわかれるでしょう? 
嫌いな人はいやがらせに感じるのではないか。
ピアスの穴も開けていない女性にピアスをプレゼントするのもどうだか?
「おまえはピアスでもつけて少しはおしゃれをしろ!」
というお節介めいたものを相手が感じる危険性は想像しないのだろうか?
そのうえ「もの」を上げると相手の負担になり、
お返しをしなければならないという気持にさせるだろう。
バレンタインのチョコなんてまさにそうで、
チョコが大好きな男なんてあまりいないと思う。
しかし、バレンタインのチョコはホワイトデーに倍返し、
3倍返しを女性から期待されているとも一部メディアでは報じている。
いまのわたしにとったらバレンタインのチョコレートは迷惑行為に近い。
(それがばれているのかここ10年くらいチョコゼロで嬉しい)
しかし、バレンタインのチョコのようなかたちでしか人の気持は表現できないのである。

このまえの日曜日、創価学会のお偉方の面談を受けたが、
宮本輝のこの小説を読んでいたため、
しっかりコージーコーナーのお菓子を手土産として持って行った。
わたしがいちばん影響を受けた小説家は宮本輝だろう。
しかし、あちらサイドからは嫌われているようでファンクラブ参加を拒絶されている。
こんど集英社気付で宮本輝先生宛に、
コージーコーナーのお菓子を2万円分くらい送ってみようかと思う。

COMMENT

日暮里舎人 URL @
02/20 20:05
. なぜ「伊丹市梅ノ木6-4-34」(072-781-5667)に送らないんだ?
Yonda? URL @
02/20 22:34
日暮里舎人さんへ. 

ちょっとまえファンクラブ入会を拒否されたとき、電話したけれど、だれも出なかったよ。二回。ここに送るより集英社のほうが安心では? どうせ著者に連絡して不要。集英社のみなさまでお食べになるのだろうから、ちょっとした功徳みたいなものを積むことになるしさ。








 

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