ええい、どうともなれ

ひとつまえの記事でハムレットの感想文を書いた。
また福田恆存にやられたか。
いま調べてみたらどうやら原文に「どうともなれ」はないような気もする。
いちおう原文は以下である。

O, that this too too solid flesh would melt,
Thaw and resolve itself into a dew!
Or that the Everlasting had not fix'd
His canon 'gainst self-slaughter! O God! God!
How weary, stale, flat and unprofitable,
Seem to me all the uses of this world!
Fie on't! ah fie!


福田恆存訳
「ああ、この穢(けが)らわしい体、どろどろに溶けて露になってしまえばよいのに。
せめて自殺を大罪とする神の掟(おきて)さえなければ。
ああ、どうしたらいいのだ、
この世の営みいっさいが、つくづく厭(いや)になった。
わずらわしい、味気ない、すべてかいなしだ!
ええい、どうともなれ」


木下順二訳
「ああ、この汚れに汚れた肉体よ、溶けて流れて露になってしまってくれ。
せめてあの永遠なる神が、自殺を禁じる
掟をきめずにおいてくれたら。ああ神よ、神よ、
何とわずらわしく色あせて味気なく無益に
この世の営みのすべてが見えることだ!
いやだ、ああいやだ」


小田島雄志訳
「ああ、このあまりに硬い肉体が
崩れ溶けて露と消えてはくれぬものか!
せめて自殺を罪と禁じたもう
神の掟がなければ。ああ、どうすればいい!
おれにはこの世のいとなみのいっさいが
わずらわしい、退屈な、むだなこととしか見えぬ。
いやだいやだ!」


松岡和子訳
「ああ、堅い堅いこの体、いっそ溶けて
崩れ露になってしまえばいい。
せめて全能の神の厳しいおきてが
自殺を禁じていなければ。ああ、神よ、神よ!
この世のいとなみの一切が
退屈で、陳腐で、凡庸で、無駄に思えてならない!
ああ、厭(いや)だ厭だ」


河合祥一郎訳
「ああ、この固い、あまりに固い肉体が、
溶けて崩れ、露と流れてくれぬものか。
せめて永遠の神の掟が、自殺を禁じたもうことがなければ。
ああ、神よ!神よ! この世のあらゆるものが、
この俺にはんんと疎(うと)ましく、腐った、つまらぬ、
くだらないものに見えることか!
許せん、ああ、許せない」


坪内逍遥訳
「おゝ、此(この)硬き豪(こは)き肉が、何とて溶け融解(とろ)けて露ともならぬぞ!
せめて自殺を大罪とする神の掟がなくばなァ!
おゝ! おゝ!
現世一切の業務(いとなみ)が悉(ことごと)く
厭(いと)はしうも、あさましうも、あぢけなうも、無益(むやく)しうも思はれるゝわい!
ちえッ、あさましい!」


おそらく原文の「O God! God!」をどう訳すかが問題なのだろう。
たぶん福田恆存訳の「ええい、どうともなれ」は、
多少順番を入れ替えての「O God! God!」の意味合いが入っている気がする。
ゴッドの劇を味わいたいと思ったのがハムレットという劇解釈がそこにはきっとある。
福田恆存はおかしな人だったのだろう。
わたしは「ハムレット」を読むなら福田恆存訳がいちばん好きだ。
観る(聴く)なら福田の秘書をしていたこともあるという松岡和子訳かな。
「正しい」ものよりも「おもしろい」ほうをわたしは好む。

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