「自己愛な人たち」

「自己愛な人たち」(春日武彦/講談社現代新書)

→東大の和田さんにはかなわないだろうが、
いまもっとも人気のある精神科医ライターのひとりである春日武彦さんの本を読む。
自己愛はたしかに生きるうえで必要なんだけれど、
他人の自己愛ってめんどくさいよねえって話だと思う。
だれでもできる単純作業とかでもさ、妙なこだわりを持っている人っているんだ。
そんなのどっちだっていいじゃん、というところで自分のやり方にこだわる。
いるでしょ? 他人が置いたものを、
いちいち自分流に置きなおさないと気が済まないタイプって。あれうざいよねえ。
自己愛はプライベートで発揮してくれればいいのに(だれも読まないブログとかさ)、
だれでもできる単純作業に妙な自己愛を持ち出されるとたまったもんじゃない。
台車にラップを巻くとき、上から巻こうが下から巻こうがどっちだっていいじゃん。
それなのに、そういうちまちましたところにこだわり自己愛を表出するタイプがいるんだ。
しかし、自己愛はなければいけず、
自己愛があるから人は生きていけるし、他人を尊重することもできる。
まったく自己愛ってやつは――。

「自惚(うぬぼ)れとか自画自賛といった側面もあれば、
出しゃばりで目立ちたがりで称賛を求めてやまないといった側面もあるし、
世の中は自分が中心で他人の気持ちなんか
どうだって構わないといった勝手な側面もある。
そのいっぽう、自己肯定には自己愛が必要だし、
他人を思い遣る余裕だって結局は自己愛を基盤にしているのではないか。
自分を大切にできない人物は、あまり信用する気になれない」(P4)


精神科医の春日先生とわたしには共通点があって自分の写真が嫌いなのである。
自分の写真をパシャパシャ撮ってブログに載せる神経とか信じられない。
見方を変えれば、ああいうのは自己愛が比較的に弱いからできるのであって、
春日先生やわたしは自己愛が強すぎるから
写真にうつった自分を認められないのかもしれない。
芸術家以外は仕事であまり自己愛を出さないほうがいいと思うけれど、
どうなんだろう。どこの職場でも以下のようなタイプの上司はいるのかな。

「自己愛の強い人たちは「小競り合い」にのめり込むことが普通である。
鷹揚(おうよう)さや泰然(たいぜん)さとは正反対の傾向を備えている。
けちくさいライバル視、いじましい支配欲、
相手の欠点や弱点を見つけ出すことへの執念、
どこか論点のずれた自己正当化、他者を蔑(さげす)もうとする欲望の激しさ」(P105)


「そんなことも知らないの?」というのがなによりの喜びって人はいるよねえ。
人がミスをしたとき、歓喜で目が踊っているやつとかいるじゃん。
「あーあ、やっちゃった」と全身で小躍りしている不謹慎な上司とかいないかい?
本当はクルクル回転して喜びを表現したいんじゃないか、とか思ってしまうくらい。
そういう複数の自己愛の小競り合いが多発している職場っていやだよねえ。
まあ、どこもそんなものかもしれないけれど。いや、そうでもないんだろうな。
「おれ、優秀じゃん」とかちっぽけな勝利に大喜びする大人のリトル自己愛。
しかし、あんがい生きがいって、そういうところにあるのかもしれないなあ。
当方は大した生きがいもないし、生き生きしていない。これは「うつ」かしら。
びっくりされるかもしれないけれど、
人生で一度も精神科や心療内科を受診したことがない。
しかし、「やる気」が出ないし自滅願望はあるし、これは「うつ」かなあ。
たとえば「うつ」といったような言葉の問題性を精神科医の春日武彦は指摘する。

「言葉は、何らかの事象を後付けで表現するのが普通であるが、
おしなべて流行語や仲間内でのスラングは
似て非なる事象をも同じ言葉で単色に染め上げてしまう性質を持つ。
ニュアンスなど消し飛んでしまう。
そこが便利なところであり、困ったところでもある。
ただし世間から置き去りにされていないといった安心感は
もたらしてくれるだろう」(P150)


「絆(きずな)」とか、そうだよねえ。ニートとか引きこもりという言葉も、
多くの若者のさまざまなニュアンスを一挙に消し去ったことだろう。
貧困女子という言葉もそれぞれのさまざまな思いを単色で塗りつぶしたことだろう。
パワハラもそうだろうし、セクハラもそうに違いない。
けれど、ストーカーとか名前をつけないと被害者が困ってしまう現象もあるからなあ。
ある現象はそれ「そのまんま」でしかなく、いまそうであるようにそうなのだが、
それでは人は不安になるので名前を求めてしまうものなのかもしれない。
その専門家が春日武彦のような精神科医なのだろう。
お世話になってもいいけれど自己愛性人格障害とか言われると単純にむかつくし。

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