「熱い心が人間力を産む」

「熱い心が人間力を産む 複眼経営者「石橋信夫」に学ぶ」(樋口武男/文藝春秋)

→大和ハウス会長の樋口武男氏と各界の成功者が
「週刊文春」で対談したものを再編集したオヤジ臭ただよう1冊である。
おーい、大和ハウス社員諸君、ちゃんと樋口会長の本を読んでいるかい?
なに? 時間がないって。そりゃそうだ。
じゃあ、このブログ記事を読めばいいさ。

思ったのは、それぞれ人の器があるんじゃないかっていうこと。
大和ハウスの樋口会長が俳優になろうとしたり、
力士を目指していたら失敗していたでしょう。
作家を目指しても漫画家を目指してもうまくいかなかったことと思う。
適職と出逢うことがいかに大事かってこと。
けれど、適職を得て「正しい」努力をしても運の要素が入ってくるわけだから、
かならずしも大和ハウス会長のようになれるものではない。
一般的に若者はバンドや画家などの夢をあきらめてサラリーマンになるとされているが、
そういう現実的になった若者に最後に残された夢が、
たとえば大和ハウス会長のような栄光の大勝利なのかもしれない。
おれもああなって見せるぞと早朝から深夜まで働き、休日出勤も辞さない。
万が一(実際は100万人にひとりだが)大企業の社長になって、
それがなんになるのだろうと彼が気づくのは、
モーレツ社員が激務でバーンアウトして(燃え尽きて)灰になったときだろう。

会社で地位が上がれば上がるほど人は孤独になっていく。
最高峰の樋口武男会長レベルになったら、その孤独は果てしないのではないか。
その地位に登りつめるために多くの恨みを買っただろうし、
自分にあたまを下げるものは多いと言えど、
内心はどうだかということをなにより自分がいちばん知っている。
いや、自分は成功した人生の大勝利者だ。私は幸福な勝利者で孤独でもない。
そういうことを証明したくて経済人は偉くなると、
もっと権威のはっきりした学者や女優と対談をしたがるのだろう。
われわれ一般庶民はこういう対談をするのは友人同士と思ってしまうが。
実際は対談をしてもその日だけで後日連絡を取り合うことはめったにないという。
大勝利者はわれわれしもじものものより
実際ははるかに孤独感にさいなまれているのかもしれない。
その孤独感をごまかすためには生涯現役でなおかつ健康でいなければならない。

樋口会長は食事ごとに大量の健康サプリメントを服用しているらしい。
いやあ、どれか効いてくれているから、きっといま元気なんしょって感覚。
こういう庶民感覚を持った樋口会長って人間味があって素敵だなあ。
運よくお逢いする機会があったら、その魅力に参ってしまうのかもしれない。
あなたがいま健康だとして、どうして健康かという理由は「わからない」のね。
そこに宗教や健康食品産業がつけこんでくる。
いまあなたはこの宗教(あるいはサプリメント)のおかげで元気なんですよ。
週に2回スポーツクラブに通っているから元気なんですよ、もおなじレベル。
本書の対談で醗酵(はっこう)が専門のマスコミ学者、小泉武夫が
自分は発酵食品ばかり食べてきたと鼻息が荒い。
醗酵マニアの農学博士は怪しげな自説をとうとうと述べる。

「だから、私自身、六十八歳の今まで病気一つしたことがありませんし、
身体も全然悪いところなし。
太っているのは、これ、しようがないんで。
醗酵食品はほんとに、私にとって究極の食べ物で、薬みたいなものですね」(P64)


一見するとこれは「正しい」真実っぽいけれど賢明なみなさまは嘘を見破れるはず。
というのも、小泉武夫が醗酵食品を食べていなかったときのデータがないわけ。
かならずしも発酵食品を食べた「から」、いま健康であるとはかぎらない。
もともとそういう体質なのかもしれない。
醗酵食品をほとんど食べていなかったら、あんがいもっと健康で、
いまよりもっとほっそりとしたダンディーさんだったのかもしれない。
成功した人生の大勝利者はマスコミで得意げに自分が成功した理由を語るけれど、
それらはもしかしたら小泉武夫博士と醗酵食品のような関係かもしれない。
努力すると成功に近づくという一般論は、じつのところ努力が功を奏したのではなく、
自分はこんなに努力をしたという自信を持てることがいちばん重要なのかもしれない。
自信を持っていると、けっこうすいすいうまくいくものなのではないか。
宗教に入れば、自分は神さまや仏さまに守られているという自信が生まれるから、
そこまで努力をしなくてもなんらかのプラスの結果が出やすくなるのかもしれない。

大和ハウス会長の樋口武男氏がなぜ偉いのかと言われたら、
大企業の創業者から認められたということによるだろう。
どうしたら偉くなれるかの答えは、いい師匠を探し、先生を信じることなのかもしれない。
「自分は偉い」というのは自慢に思われてしまうから常識人はいわない。
では、どうしたら自分の偉さを証明できるのか?
自分の師匠の偉さをこれでもかと声高に主張すればするほど、
その弟子たる自分の格(偉さ)も上がるのである。
新約聖書は、イエスが偉いという弟子たちによる報告文章だが、
皮肉をいえば、あれは本当にイエスが偉かったというよりも、
弟子が自分の偉さを証明したいがために師匠をまつりあげた結果とも読めよう。
「歎異抄」の唯円は「自分は偉い」と書きたかったが、
それを書いても信じてもらえないので、
自分の師匠の親鸞はこれだけ偉く、自分はその弟子なのだと周囲に訴えた。
会長就任時、創価学会の池田大作氏が
前会長の戸田城聖をヨイショしたのもおなじ理由とは考えられないか。
末端の学会員は池田大作名誉会長の偉さを語れば語るほど、
自分の偉さを納得かつ証明できるようなシステムになっている。
サラリーマンも自社のトップを誇れば、それだけ自分に自信のようなものが生まれる。

みなさまもご存じでしょうが、とかく男は「話を盛る」ものである。
大和ハウス創業者はシベリアで苦労したようだが、
逆にそのマイナスとされる辛い出来事を「盛る」ことで自分に自信が持てた。
(わたしをふくめ)男は「話を盛る」ものであり、
なによりその武勇伝の聞き手を求めるものである。
売れっ子のホステスやキャバクラ嬢は、このことを熟知していると思われる。
男なんて「すごいですね」と言ってもらいたがるために生きている哀しい動物さ。
樋口武男会長は創業者の武勇伝を何度も聞き、それを信じることができた。
それどころかその武勇伝を周囲に吹聴までしてくれた。
創業者にとって樋口武男氏ほどかわいい部下はいなかったことだろう。
女性はリアリストだからそういう男性的武勇伝にだまされないが、
賢女は男のそういう愚かさをよく知っている。
樋口会長から創業者の武勇伝、苦労話を聞いた富司純子という
紫綬褒章女優の反応がおもしろい。
どうでもいいが純子は「じゅんこ」ではなく「すみこ」と読むこともあるのか。
紫綬褒章(←国家勲章)女優の富司純子さんのリップサービスがいい。

「[大和ハウス創業者の]石橋信夫さんが主人公の映画を撮ったら、
すっごいおもしろい映画になるなあって。
満州で九死に一生を得た後、ソ連軍の捕虜になってシベリアへ。
二十三歳で千ぐらいの兵を連れてあんな寒いところへ。
それは収容所の待遇が劣悪だと、軍刀を手に乗り込んでいったという。
あれはもう任侠映画の世界ですよね。(……)
それで、要求が容れられなければここで切腹すると。
石橋信夫さんの戦争体験から会社を興し、樋口さんにバトンタッチするまでを、
ぜひ映画で観たくなってしまいました。
義侠心に厚くて、生き方が道徳そのものですよね」(P85)


この女優のあたまのよさには感心する。
どんなことをいえば男が喜ぶかを本当によく理解している女優である。
女優だって「上」から使ってもらえなければ失業者のようなもの。
日本社会で「上」とは男性社会のことだから、
富司純子のような女優が大成功や大勝利をおさめるのだろう。
結局、偉くなるには上から認められるしかないのか。
上から認められて偉くなるのはサラリーマン方式で、樋口会長の選んだ王道だ。
もうひとつ日蓮大聖人さまがお取りになった方法がある。
日蓮は生涯、上から一度も認められたことがない。しかし、偉くなっている。
これは自分に狂人的なまでの強烈な自信を持つことで可能になる。
大和ハウス創業者の石橋信夫氏は日蓮タイプであったと思われる。
よく男がやるポーズがあるじゃない。
両手を腰に当てて胸を張り「おれは偉いんだぞ」と周囲にアピールするしぐさ。
あれは勝手に「威風堂々のポーズ」と名づけている。
わたしは「威風堂々のポーズ」が恥ずかしくてどうしてもできない。
あのポーズをしている人って恥ずかしいとか思わないで無意識にしちゃうのかな?
女は「威風堂々のポーズ」をやらない気がする。

大企業のトップになるとどんないいことがあるのだろう。
・多くの人から表面上の尊敬を得られる。
・お金はあるが忙しくて使う暇がない。しかし、瞬間的なぜいたくは可能。
・本を読む時間はないけれど、各界の偉人から耳学問でいろいろ学べる。
・時間はないが、女にもてる。愛人の3、4人は囲めるのではないか。
・ほぼパーフェクトな衣食住を満喫し、最高クラスの医療サービスを受けることができる。
・子どもや孫に割のいい仕事をあっせん(紹介)してあげることができる。
・いつも仕事に追いまくられ、「生きる意味」とか深刻に考えずに済む。
・たとえば当方のような末端非正規から感謝されて、
ごくたまに著作の感想文を書いてもらえることもなくはない

課長という役職につき、その肩書をアイデンティティにしてしまうと
(その肩書を自分そのものだと思ってしまうと)、
部長や社長が怖くてたまらなくなるような気がする。
大和ハウスとは縁もゆかりもないが、サラリーマン社会を知りたくて、
好奇心からいまだに成長を続けている大企業の会長のご本を読んだ。
じつに実りのある読書であった。
わたしはいまバイトで雇ってもらっている企業の会長には感謝しているが、
きっと大和ハウスにも会長に感謝している末端雇用者がいることだろう。
大和ハウスの創業者の石橋信夫氏も樋口武男会長もとても偉い人だと思った。
いい本にたまたまめぐりあえたおのれの幸運をなにものかに感謝したい。

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