顔面神経麻痺の権威

朝8時半まえに板橋区十条にある大学病院に到着。
顔面神経麻痺の権威と言われるリハビリ科の医師の診察を受けるため。
とても人気のあるカリスマ医師らしく、いつも予約はいっぱい。
わたしは同大学病院耳鼻科からの紹介ということで、
特別フリー枠で入れてもらえたのかもしれない。
その大学病院の診察は朝9時からだが、
カリスマ医師はいつも8時半には来ているらしい。
このため朝8時半に来ると早く受診できますよと前回受付で教えてもらった。
以下、冗談半分の記事ではなく、こちらの一生問題なので、
可能なかぎり客観的に本日の事実のみ記す。
こういう記録を残しておくことも、
いわば患者側のカルテとして重要かもしれないと思うからだ。

8時半まえに到着すると受付のおねえさんから医学雑誌のコピーを渡される。
いかにそのカリスマ医師が偉いかという記事のコピー。
内容は「リハビリは発症後すぐ」というもの。
リハビリの重要点も書かれている。
1.顔の表情を大きく動かさない。
2.顔を柔らかくもみほぐすようにマッサージしよう。
30分待ち診察室に呼ばれる。
わたしのまえに診察を受けたのは老人3人。3人とも顔面神経麻痺ではなかった。
ひとりの老人患者の診察はなぜかドアを開いて行なわれ、
内容を聞いているとカリスマ医師と信者の美しい光景がイメージされた。

わたしが診療室に入ると、なぜか居酒屋ののれんのようなカーテンがかかっていて、
それをくぐり抜けて顔面神経麻痺の権威であるリハビリ科の先生とご対面。
最初にいまの顔のビデオ(?)と写真を撮影される。
これは受付で渡された同意書にサインしている。
ネットでこういうことがあることを事前に調べて知っていたので驚かない。
その後、仕事で水曜日はなかなか休めないことを告げる。
すると本来なら次回するはずのことを今回やってくれることに。
「保険点数がつかなくなるかもしれないので、やらないほうがいいんだが」
「リアルな話っすねえ」
「本当のこと」を言う医者なのかと好感を持つ。

ベットに横になり、顔に針をさされ、口笛を吹くようにと指示される。
それから両目を強くつぶってみてください、とのこと。
針を刺されたのは2箇所。口の左と目の下。
本来ならこの検査の最中に聞くべきではなかったのかもしれないが、
不安なので検査中にいろいろ質問してしまい、医者の気分を害したのかもしれない。
今日1回かぎりの患者ということも医師の心証を悪くしたことだろう。
決して当方が優良な患者というわけではない。
わたしは外傷性顔面神経麻痺かふつうの顔面神経麻痺か聞くと、
外傷性顔面神経麻痺と断定される。
いま聞けばよかったと後悔しているが、
外傷性顔面神経麻痺の診断の根拠はいったいなんなのだろう。
左目が非常に見えにくいが、
そういう外傷性顔面神経麻痺はあるのか聞くと「ない」とのこと。
眼科で調べてもらったら目に異常はないけれども、目が見えないことを告げる。
いったいどういうことなんでしょう?
医師の答えは、目に異常がないならばそのうちよくなるだろう。
左耳が聞こえにくいのはどういうことなんでしょう?
それは耳鼻科で聞いてくれ、とのお答え。

顔に針を刺され、なにがなんだかわからない検査をされている。
せめて事前になんの検査をするのか説明してくれたらよかったのにと思う。
目の下に針を刺されたときは本当に怖かった。
あとでわかったが、これがほんもの(?)の筋電図検査とのこと。
わたしはこのリハビリ科を受診するまえにべつの筋電図検査も受けている。
カリスマ医師じきじきの顔に針を刺す筋電図検査の結果はかんばしくないらしい。
何度も何度もやり直しを命じられ、最後は熱血先生のように大声で応援される。
これを怖いと思う患者もいれば、頼りになる医師だと思う患者もいるだろう。
結果はなんとかギリギリOKが出たようで、「治る」とのひと言。
しかし、ここから先がわからない。
リハビリの仕方を教えてもらったのだが、
「ああ~」「いい~」「うう~」と発声し、口を大きく動かす訓練をするといいらしい。
それから両目を強くつむる。もっといいのは、
いまはできない左目のウインクをする訓練をすること。
受付で渡されたコピーでは、
リハビリで顔を大きく動かしてはいけない、と先生は指示しているが、
この矛盾はいったいどういうことだろう。

リハビリを一生懸命したら早く後遺症が出ると言われる。
リハビリをしないといまのままだととも。
後遺症とはどういうことかと尋ねると、「ひょっとこ顔」になるという。
「ひょっとこ」ってどういう意味ですか? と聞くがよくわからない。
リハビリをしたら後遺症が出るなら、しないほうがいいような気もするが。
その旨の質問をすると、こちらの聞き方が悪いのだろう。
納得するお答えをいただけない。
いまでもわからない。
「リハビリをすると早く後遺症が出て「ひょっとこ顔」になる」とはどういうことだろう。
その後に治るのかと聞くと、そういうものでもないらしい。わけがわからない。

その後、ベッドから起き上がり、ふたたび顔を突き合わせての問答。
このときひどい立ちくらみ、めまいがする。
あたまを打ってから立ちくらみ、めまいはひんぱんにしているが、
ここまでひどいのははじめて。
そのことを伝えると、
三半規管がおかしくなっているのだから、そういうことは十分ありうるとのこと。
なにがなんだかわからない。
このまえ受けた今日とは違う筋電図検査の結果もまだ教えてもらっていない。
前回の筋電図検査の結果は「回復不能」とのこと。
「手術はしたほうがいいんでしょうか?」
この質問がカリスマ医師のご気分を害した模様。
聞き方が悪かったのかもしれない。
「さっき言ったでしょう。手術は必要ないんだ」
どうやらさっき顔に針を刺した検査の結果が、手術不要のようだ。
自分が手術するかどうかを決める権限があるんだという、
権力者ぶったことを言われうんざりするが、
大学病院の権威はそもそもこんなものかもしれなく、
なにかを期待しているわたしのほうがおかしいのかもしれない。

結論は「耳鼻科に戻す」。
事前に受付でカリスマ医者がいかに偉いかのコピーを渡され、
内容は「リハビリでは顔を大きく動かすな」。
診察で言われたのは「顔を大きく動かすのがリハビリだ」――。
「リハビリをすると早く後遺症が出て「ひょっとこ顔に」なる」
本当にわけがわからないので困ってしまう。
この後にリハビリルームでリハビリのやり方を専門職の女性に教えてもらう。
まず以上の疑問点を質問すると、リハビリの女性も困った顔を見せる。
こういうことを書いたら、あの女性のご迷惑になるのかもしれないが、
わけがわからなかったことを記録しておく。
リハビリ技師(?)はそもそもできないウインクをしたり、
両目を強くつむるのは意味がないというご意見。
顔面マッサージはどの顔面神経麻痺にも効果があるリハビリとのこと。
顔を大きく動かすリハビリは、
毎朝「あいうえお、かきくけこ、さしすせそ……」
と50音大きく発声すればいいのではないか。
どうして医師とリハビリ専門職の言うことが違うのだろう。
わたしはカリスマ医師よりもこの女性のほうに好感を持ったので、
権威的には下のこのリハビリさんの指示に従いたい。

みなさまにはつまらないでしょうが、顔のマッサージの仕方を忘れないよう記しておく。
顔のマッサージの基本は指でグリグリまわすように。
いちおう順番としては額(ひたい)から、
額の下をグリグリ。それから額の上をグリグリ指をまわすようにする。
そのつぎは目の周辺。注意するのは決して眼球を押さないこと。
グリグリ、グリグリ。
鼻のマッサージはグリグリまわすのではなく、縦々横々(たてたてよこよこ)。
つぎは頬(ほお)のマッサージ、これはグリグリでよく、まわすようにグリグリ。
こめかみのほうのグリグリも忘れないこと。
口周辺のマッサージは、口の筋肉のつき方を考え、外に引っ張るようにやる。
基本はグリグリまわすようにだから、忘れたらすべてグリグリでもよい。
マッサージはすればするほどよく、仕事中でも手が空いたときはしたほうがいい。
つぎは手袋をつけかえ、口のなかのマッサージ。
いくら仕事とはいえ、おれみたいなおっさんの口のなかに手を入れるなんていやだろう。
申し訳なく思う。口のなかのマッサージは基本、上から下。
まわすようにマッサージしてもよい。
以上でマッサージ教習は終了。
なにやらこの大学病院の顔面神経麻痺リハビリ教習は1回だけとのことで(?)、
そのことに同意する書類にサインをして終わり。
ぼくは純情だから人の役に立つ仕事はすばらしいと素直に感動して、
女性にそのことを伝えると、いえいえと恐縮される。
このリハビリ教習のとき、鏡で自分の顔を見せられたが、
自分の顔面神経麻痺のひどさをはじめて実感する。
大きく口を開いて発声すると、口の曲がり方が異常だ。
リハビリは鏡を見ながらするのがふつうだが、
そこまで自分の顔を見るのが嫌いなら、鏡を見ないでやってもいいとのこと。

顔面神経麻痺は耳鼻科でやるのが通常とのこと。
この大学病院に来ることができないなら、
近所の(顔面神経麻痺をあつかっている)耳鼻科でもいい。
あれ? 脳神経外科や脳神経内科は? と質問すると、そこでも診てもらえるとのこと。
わたしがいま定期的に受診している漢方クリニックの専門が神経内科なんだよなあ。
その医師は外傷性顔面神経麻痺ではなく、
ふつうの顔面神経麻痺(ベル麻痺)の可能性も考えてはどうかと言っていた。
今日の1回だけの顔面神経麻痺の権威の診察によると、当方は外傷性顔面神経麻痺。
いちばん最初に診察してもらい、
今後の受診予定もある脳神経外科医の診断もたぶん外傷性顔面神経麻痺。
この医師に自分がやれることはなにかありますか? 
と聞いたら、なにもないとのお答え。とくにリハビリをやれとも言われなかった。
いちばん説明のわかりやすかった漢方医(神経内科)はリハビリ推進派だった。
内科と外科の違いなのだろう。耳鼻科と眼科も、リハビリ科もみんな違う。

いったいこれからどうしたらいいのだろう。
どの医師の言うことを信じて、どう治療していけばいいのか。
どう治療しても「治らない」という可能性を示唆する医師もいて、
それが「本当のこと」ならどうしようもないのだろう。
顔面神経麻痺の権威がいるなら、最初の受診でそちらにまわすべきとも思うが、
はじめて行ったのが脳神経外科なら、そういうわけにはいかないのかもしれない。
本来はこの大学病院を受診するのは月曜日だったのである。
それがまさか再会はないと思っていた旧友・恩人が風邪を引き、
逢うのが月曜になり、受診が火曜日になってしまった。
もし月曜日に受診していたら、
今年脳内出血で倒れた父をいまも診ている医師(脳神経内科)
とおなじ先生にかかっていたのかもしれない。

いったいこれからどうなるんだろう。どうしたらいいのだろう。
リハビリってさ、あれは宗教みたいなものだと思う。
リハビリをやってよかったというエビデンス(症例報告)があったとしても、
その人がリハビリをやっていなかったときの結果がわからないわけだから。
リハビリをやらなくてもおなじ良好な予後(経過)だったかもしれず、
それを自分のリハビリ(努力)の成果と勘違いしている可能性もないとは言えないだろう。
今日の顔面神経麻痺の権威医師(リハビリ科)のお言葉で、
いちばん笑えたのは「だいぶマッサージをやりましたねえ。よくなっている」――。
わたしは顔面マッサージをいままで一度もしていないのだが。
それはおなじ大学病院の脳神経外科医師が
「いまやれることはない」と言っていたことを素直に信じたためだ。
それにわたしの感覚では顔面神経麻痺はよくなっているどころか、
時間経過とともに悪くなっているような思いもある。

とにもかくにも醜い顔がさらに醜くなってしまった。
今日、顔面神経麻痺のカリスマの診察を受けて、
さらになにがなんだかわからなくなり混乱が増した。
どの医師も悪くないと思う。どの医療者も「正しい」のだろう。
みなさん、こんなわたしのためによくしてくださっている。
しかし、言うことはバラバラ。
宗教にでも入ってなにかただひとつの「正しい」ことを信じたい。
わたしのいちばん好きな仏僧、踊り念仏の一遍によるならば――。
この顔面神経麻痺になったのは前世の宿業(宿命)。
これからどうなるかは自然(天)に任せるしかない。
この苦しみも死ねば終わるのだから、極楽往生(成仏=死)を願おう。
「早く死にたい」とか書いちゃうと不穏だけれど、
これは歴史教科書にも載っている有名な
一遍上人の言葉である(「とく死なんこそ本意なれ」)。
新興宗教に入りたいと書いたら、
コメント欄で新興のものではなく既存のものに入れと怒られちゃった。
どうしてみんな自分の意見は「正しい」と信じることができるのだろう。
もちろん、わたしも人一倍そういうところがあるのかもしれないけれど。
「正しいことはない」ことを「正しい」と盲目的に狂信しているようなところがある。
それにしてもひでえ顔だ。ろくでもない顔がさらに人目に出せないものに相成った。

※誤字脱字失礼。混乱中の自己用カルテなのでご容赦ください。

COMMENT

HN URL @
08/18 00:03
. 大辞林 第三版の解説
くちがまがる【口が曲がる】

尊敬すべき人や恩ある人の悪口を言うと,罰ばちがあたって口がゆがむの意。そういう人の悪口を言ってはいけないということ。

デジタル大辞泉の解説
口(くち)が曲が・る

目上の人や恩義を受けた人などの悪口を言うと、その罰として口の形がゆがむという意。人に対しての悪口をいさめる言葉。

ttps://kotobank.jp/word/%E5%8F%A3%E3%81%8C%E6%9B%B2%E3%81%8C%E3%82%8B-483919

思い当たることがいっぱいあるだろう? 土屋くん。
sandance URL @
08/18 01:57
とても有用. 自己用カルテと言われますがね、これは同じ様な症状に悩む人にとっては非常に参考になる、素晴らしい記事だと思いますよ。

まず何より主観で書かれているのが素晴らしい。
一患者が客観的に書こうとすると変な誤謬を疑問なく書いてしまいがちですが、これは全て主観です。だからこそ同じ症状の人が診断を受ける際の参考になります。
顔面マッサージにのやり方についても書かれてるのも素晴らしいです。

私はあなたのシナセン日記等の実録風な恨み言を事実とかけ離れたファンタジー作品として楽しんできましたが、この記事は別次元に素晴らしいと思います。どうぞ治療頑張って下さい。








 

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