主役は時間

もしかしたら主役は人間ではなく時間かもしれない。
歴史なんかもあれは人間が主役のように見えるけれども、
世界史を概観したら人間などみな使い捨てのコマで主役は時間(自然)でしょ?
病気を治すのも医者や患者本人というよりも、時間(自然)のような気がする。
あわれな孤独な中年男性なので洗濯物はもちろん自分でする。
洗濯物を乾かすのは人為ではなく自然(太陽熱、風力)だと思う。
いくら人間が乾け乾けと洗濯物をうちわであおいでもほとんど効果はない。
わたしは雨の日でも平気で洗濯するからね。
いちおうバルコニーにはひさしがついているから、
よほど強い風雨でもないかぎりはぬれない。まあ、ぬれてもいい。
今日洗濯して雨で、そのまま干しておいても、
明日が晴れなら明日乾くからいいではないか。
明日も雨ならそのまんま干しっぱなしにして明後日に乾くのを待つ。
だって、乾かないものは乾かないでしょう? どうしようもないものはどうしようもない。

うちにはむろんのことないけれど、いまは乾燥機というものがあるらしい。
これは知り合いから聞いたそのまた知り合いのセレブ夫婦の話。
その家には乾燥機というものがある。
奥さんがとても口うるさく、始終イライラしているので離婚寸前らしい。
たとえば休日に洗濯をする。乾燥機をまわす。
そこの奥さんはつねにイライラしているらしい。
何度も乾燥機を見に行っては乾いたかどうか確認して、
乾いていないと彼女のイライラが募(つの)り旦那にツンケンする。
ご主人が奥さまに言ったという。
「(乾燥機は)どうせ時間が来るまで乾かないんだから、のんびり待とうよ」
そうしたらご夫人はヒステリーを起こしたという。
「あなたはなんにもあたしの仕事をわかっていない。
主婦がどれほどたいへんか。あたしがどれだけ仕事をしているか!
いったいあたしの仕事をなんだと思っている? フザケンナ!」

ご主人はゾッとしたらしい。
だって、理屈で考えたら乾燥機はある程度(一定時間)まわさないと乾かない。
いくら妻がイライラしても、何回確認しても、洗濯物は乾くまでは乾かない。
そういう本音を口に出そうとした瞬間、妻から攻撃される。
「あなたが悪い。電機量販店でこの乾燥機を買うことを決めたのはあなたでしょ!
あなたが悪い。洗濯物が早く乾かないのはあなたが悪い!」
男の妻は高学歴で美しいのだが、あらゆる家事がこんな感じらしい。
電子レンジもオーブンレンジも時間まで待てない。
つねにセカセカ、イライラしている。まだ? まだ? と何度も確認する。
そのたびに自分の思うようになっていないので怒る。
なにか言うと、大声で怒鳴る。
「あたしの仕事(主婦)をあなたは舐めているの?」
言い返そうものなら――。
「仕事はどれも一緒よ。仕事はこういうものなの」
「でもさ、いくらきみががんばっても乾燥機は時間が来るまで乾かないでしょ?」
「あなたはわかっていない。あなたはあたしの仕事をわかっていない」
「仕事?」
「あたしはがんばっているの。努力しているの。あなたはもっとあたしを評価しなさい」
男は女のいきおいに負けて思わずあやまった。

そういう話をいつだったか聞いたことのあるような気がする。
待つしかないときに待つことができないでイライラして周囲をピリピリさせる人たちがいる。
あんがい、そういったイライラ、ピリピリした、周囲をギスギスさせる人のほうが、
社会的(職場的)評価は高いのかもしれない。
待つしかないときはどうしようもなく待つしかないが、
そういうときにイライラ、ピリピリして悪者を強引に捜そうとして場をギスギスさせる人が、
いわゆる世間でいうところの「できる人」なのかもしれない。
本当のことを言えば、どうしようもないものはどうしようもない。
できないものはできない。無理なものは無理。
イライラしたりピリピリするのが好きな人がいるのだろう。
ギスギスした空間で戦場にいるような興奮をおぼえる田舎下士官タイプが多いのかもしれぬ。

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