知らないものは存在しない

いまのところに引っ越してきたのはたまたまで、
まだ居ついて5年くらいだという部外者意識があった。
ところが、会社へ提出する書類の関係上調べたら、
もう8年半もこの地域のお世話になっているのか。
わたしはいま住んでいるこの地域が大好きと言ってよい。
非常に山田太一ドラマ的な場所だ。
すぐそばに土手があり川を越えて鉄橋を走る電車が見られるのである。
いま洗濯物を干しているベランダからは工場の煙突(?)とともに、
2月とはいえそれでも春の気配を感じながらしばらく待っていれば、
生活者をたくさん乗せている電車が通過する遠景も見ることができる。
昨日酒を飲みながら山田太一ドラマ「沿線地図」を5話見たが、
まさしく山田太一先生の大好きな風景とともにわたしは生きているのを知り、
おかしな符合というか偶然にびっくりしたものである。
むかしはけっこうな不動産的グッドプレイスに住んでいたが、
いまではよほどあそこに比べたら家賃が安いこの界隈のほうが好きである。
さて、知らないものは存在しない。しつこく、繰り返すが――。

知らないものは存在しない。

去年バイト先でとても近所に生まれ育った同年代の好青年に出逢った。
あれほど気のいいやつがいるんだなあ、
と人生捨てたものばかりではないと思ったくらいだ。
あまりに近所なのでいつ再会するかドキドキしているが、
いまだラッキーかアンラッキーかばったり対面するようなことはない。
おなじマルエツを利用しているから、いつかかならず再会するような気がするのだが。
その好感度最高の彼から教わったのが近所の肉屋の弁当である。
そこに肉屋があるくらいのことはなんとなく知っていたが、
その肉屋の昼に出す弁当が激安かつ激ウマで行列ができるほどだったとは!
知らないものは存在しないとはこういうことを言うのであろう。
いざ買って食べてみたらたしかにコンビニ弁当と比較にならぬほど、
価格も勉強しているし味もいいし多彩だしボリュームもある。ひと言、うまい!
わたしは夜の酒をうまくするため昼は食べないことが多いけれど、
ごくごくたまに昼から酒を飲むときはここの弁当は泣くほど感謝しながら買う。
冬ならば昼買っておいて夜に食べるのもいい(作り手の本意ではないでしょうけれど)。
そのくらいレベルが高いのだ。
どうして8年近くも近所に住みながら、この肉屋のお弁当を長らく買わなかったのだろう。
ふたたび――。

知らないものは存在しない。

知るにはふたつの方法がある。他人から教えてもらうか、自分から調べるか。
いまはセブンイレブンのファンだが、おすすめされても買わなかった。
ちょっとしたきっかけがあり(知り合い関連)、
セブンのものを実験的に食べてみたらおいしものがたくさんあるので驚いた。
セブンのあれやあれの味や妥当な価格を知ってしまうと食べてしまう。
知らなければ存在しなかったのに、知ってしまったら魅力にあらがえない。
長いことコマーシャルや広告、宣伝などマーケティング全般を意味がないと思っていた。
だって、CM(広告)を見て買ったことがほとんどないから。
そもそも現在では(宣伝媒体である)テレビも新聞も雑誌もほとんど目にすることがない。
おおやけの「正しい」(とされる)世間(社会)と通じているのはほぼネットだけだ。
ネットで個人的にすすめられているものは、
宣伝臭がしないので買うこともなきにしもあらず。
かといって、ブログのコメント欄で「あれはいいよ(買え)」と言われたら、
9割方その助言のあったがために買わないだろうけれど。

いま暇のある読書家がもっとも書籍を安価に効率的に迅速に買う手段は、
ブックオフオンラインだろう。
アマゾンは知っていても、ブックオフオンラインを知らない人は多い。
むかしは暇にまかせてブックオフ実店舗めぐりをしていたが、
(散歩気分の趣味としてはいいけれど)効率や経済を考えたらブックオフオンライン一択。
いやねえ、ブックオフめぐりや古本屋巡回をして、
ボウズ(収穫ゼロ)なのもそれもまたそれで味のあるいい想い出になるのではありますが。
ブックオフオンラインは安い、早い、きれい。しかし、本を売ると無料同然。
本来は書籍なんてゴミなんだから、
取りに来てくれる手間を考えると無料でも安いくらいとも言えなくはない。
新刊で本を買うと、
既得権益を持つ大手出版社や高学歴高収入の編集者のアガリ(収益)になる。
むろん、作者にも著作権料は行くだろうが、
そんなものは編集者先生に比べたら微々たるもの。
10年以上ブログに駄文を記しているが、
出版社さまや編集者さまにお声をかけられたことは一度もない。
ぶっちゃけ、小林拓矢レベルでも講談社から本を出せるらしい、のにもかかわらず。
うちよりもはるかに(主観では)レベルの低いブログ作者が
出版社から何冊も新刊を献本(プレゼント)されているという。

知らないものは存在しない。

三度もおなじことを粘着質にしつこいけれど、そのように自分をだましたい。
知られていないから、存在してもいない同様の存在なのだ。
ふらふら人生放浪をしながら時給850円の書籍倉庫にたどりついたとき、
そこにいる人たちの美しさに参ったものである。
美しいとは、かならずしも勤勉を意味しない。
勤勉な人も多かったが、そんな世間的基準を超えて、彼ら彼女らはそれぞれ輝いていた。
ベトナム人の留学生の子とおしゃべりをして、そんな世界があるのかと知った。
ネパールのあの人と対話をすることでわたしはどれほどのことを学んだだろうか。
わたしよりもよほど優秀な人たちがたくさん時給850円の書籍倉庫にいたのである。
決して数をかぞえ間違わない女性とか恐怖に近く驚いた。
1年半いていつか雑談したいと思ったが、かなわなかった。
辞める直前に高校生のお嬢さんがいるという噂話を耳にした。
リアルだなあ。なにもかもがリアルだった。近所の書籍倉庫は学校でした、大学でした。
あの職場で百人以上の人と人生交差したけれど、
百以上のことをわたしは学んだと思う。
彼ら彼女らが存在していることは、この目で見るまでは知らなかった。
最近、痛切にあの人たちと再会したいと思うけれど、
川を越えてあの職場を再訪してはならないのだろう。二度と逢えないからいい。
逢えなくても百人以上の人たちはわたしのなかに存在している。知ってしまった。
中年男にしてはセンチメンタルすぎるかもしれないが、
あの人たちのことを忘れることができない。
もう一度逢いたいけれど、逢えないのがいいのだろう。

あの書籍倉庫は新刊書籍および雑誌の流通が減少したせいか、
年々物量が落ちていたそうだ(=管理職以外の社員やバイトの稼ぎも激減)。
ブックオフオンラインやアマゾンもいいけれど、新刊を本屋で買うことも必要だ。
高身分の人にはぜひぜひお願いしますが、
スポーツクラブで身体の汗を流しながら新刊読書で脳の汗を流していただきたいです。
体験から知っているけれど、時給850円だと新刊で本を買えないのである。
そのせいか本を読む人はそんなにいなかったような気がする(よく知らないが)。
読書のおもしろさは知るまで存在しない。
おなじことが酒、ギャンブル、麻薬、男色、贅沢、貧困にも言えるのかもしれない。
わたしは煙草も競馬もパチンコも知っているが、おもしろくないと思った。
インドなんて麻薬天国だが、むかし3ヶ月旅をしたとき、
どうしてか麻薬よりも高額かつ希少な酒ばかり飲んでいた。
(国によって合法か違法か、
なにが「正しい」のかは異なろうが麻薬的な違法薬物体験は皆無)
大麻とか覚醒剤とか、ほとんどの人は知らない。知ればいいのかもわからない。
精神障害者も身体障害者も知的障害者も、知らないと存在しない。
知らないほうがいいこともあろうし、人生で知ることができることなどわずかである。
キャバクラは行ったこともないし、無料でも行きたくないけれど(時給500円でもいや)、
いざ強引に連れていかれたら夢中になる人もいるのかもしれない。
わたしがそうかもしれない。そうではないかもしれない。わからないってことさ。
朝日賞作家の山田太一氏が大好きだった笠智衆ではないけれど、わかりゃせん――。

COMMENT

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02/18 18:18
. 「小谷野敦レベルでも芥川賞候補になるらしい」と書かないあたりに狡猾さを感じる。小谷野ジャイアンに便乗して小林のび太をバカにするスネ夫、それが土屋。








 

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