「鈴木敏文 考える原則」

「鈴木敏文 考える原則」(緒方知行=編著/日経ビジネス文庫)

→日本初のコンビニ、セブンイレブンの創業者にして会長でもある、
経済界のトップリーダーともいうべき鈴木敏文氏のご著作を拝読する。
腰ぎんちゃくの書いた本だが、これは鈴木氏の本と思っていいだだろう。
氏はいまでは経済界の重鎮でもあられる。崇拝する人も少なくないと聞く。
どんなことでもいちばん最初にチャレンジした人が偉いような気がしている。
いまでは日本全国を制覇したコンビニの産みの親である鈴木会長を
わたしはとても偉い人だと思う。
他人がいままでしていないことをするのはものすごく怖いのである。
なぜなら前例がないことをするのは、周囲から猛反対されるのだから。
鈴木会長のポリシーはなにか? 会長の心酔者である手下が簡潔に説明する。

「「人のマネを絶対にしてはならない」
ということを一貫していい続けている鈴木敏文氏の人育ての根本は、
「自ら考えることのできる能力」をどう育てるかというところに置かれている。
あらかじめ用意された答えのない時代といわれる今日、
ビジネスに携わる者にとって求められる最大の能力要件とは、
自身で考え、そして自分で答えを導き出していけるということである。
そのためには自身の課題設定ができること、
そして、その課題を自分の手で解いて、
自分なりの答えを導き出していけることである」(P5「まえがき」より)


鈴木会長のご発言の真意を理解できるものがどれほど少ないことか。
「人のマネを絶対にしてはならない」のなら、
セブンイレブンとフランチャイズ契約を交わしオーナーになるという選択肢は
鈴木会長がもっとも毛嫌いする行為になろう。
セブンのオーナーの地獄生活は広く知れ渡っているけれど、
鈴木会長の本も読まないで契約を交わすようなものは残酷な物言いだが、
そういう処遇を本部から受けるのは仕方がないことだとも言えよう。
他人の真似を好むのがフランチャイズに加盟するオーナーと言えなくもない。
自分のあたまで考えようとせず、
セブンのブランドにだまされたオーナーからいくら搾取(さくしゅ)しても
鈴木会長はいっかな罪悪感のようなものをいだかないであろう。
そして、それはとても「正しい」と思う。
チェーン店になるなど完全な人真似で、
自分のあたまで考えられないものの象徴的行為とも言えるのではないか。
大企業に入りたがったり、大規模チェーン店とフランチャイズ契約を交わすものは、
「寄らば大樹の影」と言うほかなく、
鈴木会長からしたら愚行のひと言で片づけられてしまうことだろう。
会長がおおやけにこう発言しているのに、セブンのオーナーになって
被害者気取りで本部への不満を言うのは根本的に誤っているような気がしてならない。

いまのわたしはビジネスで成功することなど絶対にありえないが、
それでも鈴木会長の本を読んでわかることがある。
会長のビジネス成功は、人真似をしなかったことによるところがおそらく大きい。
会長は成功者のビジネス本を読んで、それを実践したわけではないのである。
ビジネス本に啓発されて行動するのは、猿真似のようなもの。
以下の発言をできるセブンの鈴木会長は、
創価学会の池田名誉会長よりもなにか深いことを知っていると思えなくもない。

「私の場合でいえば、いろいろな要素に考慮して間違いないという確信を持って、
幹部や社員に対して話をしています。
しかし、私がいったことはすべて正しいということは決してないのです。
部分的には正しいとしても、半分は違う。
三割は正しくて、七割は間違っているという結果になるかもしれません」(P29)


これを言えちゃう人というのは、相当な人物ではないかと思う。
自分の主張の7割は間違いかもしれないという自覚のある人は稀有ではないか。
鈴木会長がこう言っているにもかかわらず、
会長の命令は絶対だと思い、それを疑わない子分が多いような気がする。
実際は鈴木会長も池田名誉会長とおなじくワンマンの独裁者気質で、
上記の引用はきれいごとなのかもしれないが、
それでも、そこを差し引いても鈴木会長の発言は重みがある。
他人の成功談を真に受けるなよ、と言えるのはよほどの人物に思えてならない。
自分の成功体験を模倣しても自分のようにはなれない。
そこはおまえが自分で考えろ! こう言える鈴木会長は本物の教育者かもしれない。

実際、わたしの感覚からすれば本書の7割とは言わないが半分は誤りとも思える。

「私がずっといい続けていることがあります。
世の中の変化のなかでは、イノベーション[革新/変革]を怠った企業は、
必ず没落していく。そのイノベーションとは、
お客様がどんどん要求をし、わがままになっていくのに対して、
自分を変えることによって、その要求を合理的に受け入られるようにする――。
これこそが変化対応において、もっとも重要な考え方であると信じています」(P86)


なんの肩書もないわたしだが、これは間違いのような気がしてならない。
お客様をそこまで神聖視するのはいかがなものか?
もちろん、鈴木会長ともなれば、本音ではそのことをわかっていると思う。
とはいえ、企業トップとしては決して口にできない本音がある。

お客様ってバカだよね!

これは大企業のみなさんの本音ではありませんか?
テレビなんか露骨にお客様をバカにしているわけでしょう。
客(視聴者)をバカだと思ってバカ向けの番組をつくったほうがヒットする。
鈴木会長は、客のわがままを受け入れろと言っている。
それほどお客様は偉くないっしょ? 客をわがままにしたら、みんなが苦しむことになる。
わがままな客に困らされている接客業やクレーム担当者がどれほどいるか。
そして、そういうストレスをかかえたものが一転してお客様になったとき、
どれほどのわがままを言うことか。
お客様第一主義は、世の中のストレスを増やすだけのように思えてならない。
わたしは客(消費者)としての実感からお客様はそこまで賢くも偉くもないと思う。
だが、鈴木会長はお客様はとにかく偉く賢いと繰り返す。

「かつてのような売り手市場時代は、
たとえ梅干のおにぎりを買いたいときにそれがなければ、
代替商品で我慢してくれました。
だから、機会ロス[客の買いたい商品がなかったときの店側の損失]のことなど
考えなくてもよかったのです。
しかし、いまのお客様は欲しい商品以外は買いません。(……)
自分の好みに合わないものは、たとえ安くても買いませんし、
気に入ったその商品が切れていたときに、
似たようなものを買うということは、まずありません」(P137)


これもまた本当かどうか我が身を照らして考えるといかがわしい。
スーパーやコンビニにこれが買いたいと思って行く人ってそんなにいるの?
わたしは食べたいものがわからないからスーパーやコンビニに行く。
そうして、ほほう、いまはこれが安いのかと思って買っている。
目当てのものがなかったとしても、それはべつのものを買ういいチャンスだと思っている。
だって、もっとほかにおいしくて安いものがあるのかもしれないのだから。
いまはとことんまで飽食の時代のような気がしてならない。
明確に食べたいものがあってスーパーやコンビニに行く人などそれほど多いか?
自分がなにを食べたいのかわからないし、
そのときその場の在庫と価格の偶然性を楽しみたいから、
わたしはスーパーめぐりを趣味のようにしているところがある。

最近、セブンのファンになったけれど、
コンビニ愛好者も店になにがあるか(新商品!)わからないのが楽しくて
しばしば通うのではないかしら。
お目当ての「金のビーフカレー」がなかったら
ためしに「金のビーフシチュー」を買ってみようと思うのが、
変人かもしれないけれどわたしという「お客様」である。
鈴木会長が口を酸っぱくして主張する機会ロスはそれほど恐れなくていいのではないか?
そりゃあさ、会長様が機会ロスという損を強調したら、
加盟店は大量発注して本部は儲かるだろうけれど(結果、大量廃棄)。
売りたいものはフェイス(売場面積)を取って並べろという説もどうだか。
わたしにかぎって言えば、大量に残っている店が売りたい商品よりも、
ひとつ残っているものを好んで買いたがる傾向がある。
希少性のようなものに惹かれるのだろう。
たくさん並べられている商品は売れ残りのような気がして敬遠してしまうところがある。
これはお客様の一般傾向ではなく、当方の偏向的購買嗜好かもしれないけれど。

それから鈴木会長の指摘に、ひんぱんに陳列を変えろというものがある。
わたしだけかもしれないが、これは客としては迷惑。
陳列がいつも変わっていると、買いたい商品がどこにあるのか探すのがめんどくさい。
店が売りたい商品よりも、わたしはわたしが買いたいものを買いたい。
以上、書きたいことを書いてきたが、これは断じて絶対的に「正しい」わけではない。
1割くらいは正当性があるのかもしれないが、9割は間違いだと思う。
ぶっちゃけ、企業はお客様の言うことなんかあまり気にしないでいいのではないか?

そういえば、最近大好きなセブンとは4、5日ご無沙汰している。
さすがに買ったものを投げられちゃうと、どれほど嫌われているのか怖くて行けない。
セブンのPB「豚の角煮」は食べて感動した。
これほどうまい角煮は食べたことがないとさえ思ったくらいだ。
「金のハンバーグ」は正直、それほどでもなかった。
コメント欄ですすめられた「とろっと卵黄の半熟煮たまご」はぞくっとするほどうまかった。
しかし、150円は高い。
いま派遣先で早く帰されるようになったので(収入ダウン)、
いくらおいしくてもそうそうセブングルメを口にできなくなるのかもしれない。
セブン(日本ハム?)のとろけるような豚角煮を食べたら、
いくら半額でも近場スーパーの焼き豚煮は買えなかった(金額的におなじだし)。
むろんのこと、いくら客とはいえわが味覚が絶対に「正しい」わけではない。
むしろこんな貧乏舌の感想を無視したほうが商売はうまくいくと思う。
最後にいちばん言いたいことを客の立場から繰り返し言う。

お客様ってバカだから!

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