「アジアンハーツ」

「アジアンハーツ」(日比野宏/雷鳥社)

→「再会」をテーマにしたアジア旅行記。
旅のよさは1回きりというところにあるのかもしれない。
今日こうして逢って、もう一生逢わない。
そういう人たちへの感傷から、旅が帰国後に始まるわけだ。
じつのところ、旅の途中は旅をしているわけではない。
旅を終えてから、もう一生逢えないあの人やこの人を懐かしく思い返すのが旅だ。
ぼくも敦煌の隋さんともう一度逢いたいけれど、逢えないところがいいのである。
再会して(いんちき)ビールをふたりでふたたび鯨飲するのもまた楽しかろうが。
旅ならぬ人生も、きっとそうだ。
会社を辞めたらもう一生逢えない、そういう人たちとの愛別離苦が人生なのだろう。
今年1年半勤めた(バイトですが)会社を辞めたが、
いまでもそのひとりひとりの語り口や微笑を懐かしく思い出す。
いまもまだその会社にいたら、そんなことはなかっただろう。
旅や人生は終わりがあるからいい。
ぼくは日比野宏さんの本や写真がとても好きだが、
きっとそれは彼がベトナムの魅力をわかっているからだろう。
ベトナムとベトナム人が好きな日比野宏さんをぼくは好きだ。
この本もとてもよかった。
ベトナム人美少女の写真もよく、彼女が大人になったときの写真もよかった。
著者は言う。

「ぼくがベトナムに関心を寄せたのは、
ベトナム人の根底に潜む民族への誇りや心意気が、
周辺諸国の人間よりも力強く伝わってきたからだった。
彼らには、自分たちの泣き言を思うぞんぶん解きはなったあとに、
アハハッと笑い飛ばしてしまうくらいのエスプリがあった。
困難にぶちあたっても、深刻にかまえているふうには見えなかった。
しかし彼らは、あきらめの境地に達していたことには変わりようがなかった」(P146)


心底からあきらめられたら笑うことができるのかもしれない。
笑うとは、アハハッとあきらめることなのかもしれない。
ぼくも著者とおなじでベトナム人の若い男女が好きだ。
あの子たちのバイタリティーやスマイルは本当にいい。
何年後でも彼(女)らと再会できたらどれほど嬉しいことか。
しかし、ベトナム女子の笑顔はとろけるように甘いが、現実はそうでもない。
ぼくなんかもバイト先で笑顔がかわいいベトナム人女子に
甘えたように連絡先を聞いたら肘鉄(ひじてつ)を喰らったから。
「あたし、本当は怖いのよ」と――。
そういう怖さがまたベトナムっ子の魅力なのだが。
著者はベトナムで少女からこう言われたという。

「ベトナム、女、甘く見ないの、いいよ。
あとで、怖い、いっぱいあるよ。あの女、敵にすると、危ないよ」(P179)


ベトナムはいいよなあ。これからはベトナムの時代だとも思う。
あんな平均年齢が若い国がほかにあるのか。
ベトナム人ほど微笑が輝いている国民をぼくは知らない。
まあ、毒もあってベトナムに行けば日本人はかならずボラれるのだが。
道ばたの露店から薬局の店員まで日本人(外国人)と見るとボロうとしてくる。
けれど、取れるものなら(お金を)取っておいたほうがいいというのも真実。
甘ちゃんの日本人は(お金を)取れるときでも正直に定価販売するお人好し。
去年今年と多くの若いベトナム人と顔見知りになった。
いつかひとりとでも再会したいが、
このもう一生逢えないというかなしみが人生や旅の味わいであるのかもしれない。
また再会できたとしたら万歳三唱してもいいくらい喜ぶべきことなのだろう。
もう一度逢いたい異国の人がたくさんいる人生はいいものだ。
著者の日比野宏さんもきっとそう思って、この本を書いたのだろう。いい本でした。

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