「セラピスト」

「セラピスト」(最相葉月/新潮社)

→かなり期待して最相葉月(女性)のノンフィクション「セラピスト」を読む。
評判のよい著者の本を読むのは初めてでテーマにも関心があるので期待度が高かった。
ところが、つまらないのである。だらだらと暴露もなにもなく平坦な説明が続くだけ。
読後、貴重な金と時間を返せと泣きたくなった。
1ヶ月まえ近くに読んだ本なので、いまさらりと要点のみ読み返したが、ある謎に気づく。
本書の結末は著者のカミングアウトである。
この本の取材を9割方終えてから町医者(クリニック)に行ったら、
著者は双極性障害Ⅱ型と診断されたというのである。
双極性障害とはむかしは躁うつ病と呼ばれた統合失調症とならぶ精神病のひとつ。
もしこの本に書かれていることが本当だとしたら、とんでもない事実が露見してしまう。
繰り返すが、この本がノンフィクションというのなら、
精神医学や心理療法がインチキであることがばれてしまったとさえ言えなくもない。
精神病の最相葉月は本書を執筆する過程で、
多くのセラピスト、臨床心理士、精神科医と面談するのみならず、
治療まで受けているのである。
精神病の最相葉月は河合隼雄の息子さん(京都大学教授)にも逢っているし、
精神医学の重鎮であられる中井久夫の(高額な)絵画療法 まで受けている。
ところが、本書を信じるならば、
だれも最相葉月が精神病であることを見破れなかったことになる。
どういうことか繰り返して書く。
あまたのセラピスト、精神科医、河合俊雄教授、中井久夫医師がヤブであることが
本書によっておおやけになってしまった。
最相葉月のような有名作家の名刺を持って当人が現われたら、
ベテランのセラピストも精神科医も
目のまえの相手が精神病であることを見破ることができない。
もしこの本が本当にノンフィクションならば、
精神病診断のデタラメが白日のもとにさらされたと言ってもいいのではないのだろうか。
有名作家の名刺を持っていたら、だれも当人を精神病とは診断できない。
著者が正体を隠して町のメンタルクリニックを受診したら、
あっさり精神病と診断されてしまう。
本書は心理商売や精神科商売のうさんくささを意図せず告発しているとも言えよう。
この本にある精神科医のインタビューが掲載されているが、
医療者自身も本当のことを言えばあまり自信を持っていないのかもしれない。

「たとえば、こんな話があります。
患者さんの中に、有名な医者が好きな人がいて、有名な医者をひと通り回った。
すると、いろんな診断が下ったんです。
東大分院にかかると統合失調症、九大にかかると境界例……。
笑い話みたいですが、そういうことが本当にありました」(P237)


わたしはこの本がノンフィクションではない可能性も高いと考えている。
意地悪な裏読みをすると、本書を執筆するいきさつはこうだったのではないか。
著者が心身の不調を感じて町の無名の心療内科を受診した。
すると、あろうことか有名作家の著者に双極性障害Ⅱ型の診断が下ってしまった。
双極性障害(躁うつ病)ならば脳機能異常ゆえもはや薬をのむしかなく、
一般的にセラピーやカウンセリングを受けることは効果がないとされている(異論あり)。
真否は不明だが、双極性障害や統合失調症の人が
心理療法を受けるとかえって悪化するという説もある(反論も多々あるが)。
そもそも科学的に見たら心の病はすべて脳機能障害と言えなくもないのである。
しかし、作家先生なんてものはみんな心に偉大な幻想をいだいていることが多い。
有名作家の最相葉月は町医者風情から
精神病(双極性障害)という診断を受けたのが許せなかった。
自分の不調は心の問題であってほしい。自分が精神障害者であることを認めたくない。
このような動機から本書は書かれたのではないかと邪推するが本当はどうなのだろう。
いろいろ取材や勉強をして自分が双極性障害であるということを認められるようになった。
このため本書の最後の最後で、
町のクリニックに行ったというウソのエピソードを付け加えたのではないか。
しかしまったく本書はつまらなかった。
心ない人からきちがいと揶揄(やゆ)されることの多い精神病患者なら
もっとおもしろいものを書けると思うのだが、そういうものではないのだろう。
そういえばおなじノンフィクション作家の上原善広氏も双極性障害だが、
あの人の文章からは精神の病みがビンビン伝わってくるので、そこがおもしろい。
最相葉月さんにはリーマス(お薬)などのんでほしくなく、
躁状態になったときにまわりを唖然とさせるような突飛なことをやってほしい。
それをノンフィクションとして書いたらとてもおもしろいものができるのではないか。

本書で知った河合隼雄関連の裏話を抜き書きしておく。
だれか河合隼雄の裏を取材して偉人伝ではないノンフィクションを書いてくれぬものか。
それとも圧力がかかって書けないのだろうか。
最相葉月も河合隼雄の裏話はもっと知っているのかもしれないが、
それを公開できない事情があるのかもしれない。

「私は、河合隼雄に夢分析を受けていたあるカウンセラーのことを思い出した。
その人は、あまりに河合に接近しすぎたために、どこからどこまでが河合で、
どこからどこまでが自分なのかがわからなくなるほど同一化してしまった。
それは幸せな時間でもあった。
だが、弟子の多い河合である。周囲から妬まれ、嫌みをいわれた。
げっそりとして京都を去ったその人は、ある日、河合から告げられた。
「ぼくはもう君の面倒は見んぞ」
初めて夢分析を受けた日から五年、半身を引きちぎられるような思いで河合と決別し、
以後、自らの道を歩むことになった」(P320)


河合隼雄の弟子とかめんどうくさいのが大勢いそうで笑える。

COMMENT

みずほ URL @
09/11 03:47
. くだらないことで申し訳ないのですが、最後の方で取り上げられているP.320ページの文章で、「夢分析」を「性的指導」、「弟子」を「愛人」に変換してみると、しっくりきます...。
Yonda? URL @
09/12 22:41
みずほさんへ. 

それは間違いです。
なぜなら、河合隼雄から切られた弟子は男だからです。
前後の文脈からわかります。
やはり引用(一部抜粋)というのは反則的なところがございます。








 

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