「米長邦雄の運と謎」

「米長邦雄の運と謎 運命は性格の中にある」(団鬼六/幻冬舎アウトロー文庫)

→50歳で将棋の名人位を取った米長邦雄に長らく惚れ込んでいた団鬼六の書いた、
棋士の「運と謎」をめぐる本である。
わたしは米長邦雄への興味からではなく、運への関心から本書を読んだ。
いったい個人と運はどういう関係にあるのだろうか。
さきごろ直木賞、芥川賞が発表されたらしいのでタイムリーかとも思う。
米長邦雄は運命の女神というものを強く信仰していたようだ。
この信仰に団鬼六は参ってしまう。

「景山民雄が大川隆法の『幸福の科学』を読んだ時、
目から鱗が落ちたような感動を覚えて、その信者になってしまったというが、
私も米長さんの『人間における運の研究』を読んだ時、
それに似た感動を覚えたのだ」(P42)


「人間における運の研究」はわたしも読んだことがあるが、
団鬼六は冒頭のこの一節にしびれたという。

「世の中には、人間の知識や論理では解明できない「不可解な力」があります」

この「不可解な力」を米長邦夫は運命の女神と命名して信仰したのである。
なぜ団鬼六も運命の女神を信仰するようになったのか。
きっかけはむかしの事件である。
あるバーでよく知らぬサンドイッチマンと将棋を指す約束をしていた。
しかし、そこに人気若手スターが現われ、
バーのみんなで横浜のクラブに行くことになった。
団鬼六は先約を優先しようか、横浜のクラブにみんなと行こうか迷う。
横浜のクラブでスターや美女とたわむれていたほうが楽しいに決まっているのである。
約束時間ぎりぎりまで待ったがサンドイッチマンは来なかった。
よし、横浜に行くぞと席を立ちあがったとき、薄汚れた男がすがたを見せた。
団鬼六はサンドイッチマンと将棋を指したが勝負はさんざんであった。
そのとき電話が入ったのだという。あの横浜に行った連中の車が交通事故を起こした。
スターは即死、バーテンも大怪我をしているという。

「人間の生と死というものは、紙一重の差で半透明の偶然の糸に
あやつられていると感じたわけだが、
米長さんの著書の冒頭の一節のように、
世の中には人間の知識や論理では解明出来ぬ「不可解な力」がある、
というものを、私はこのとき感じとったことになる」(P51)


しつこいが、この「不可解な力」をつかさどっているのが運命の女神である。
運命の女神は単純ではない。好かれようと思っても、なかなか一筋縄ではいかない。
どういう気質、性格になれば女神のお気に入りになれるのか。
運命の女神に気に入られなければ、なかなか人生うまくはいくまい。

「何よりその気質、性格といったものが、
女神のお気に入りのものにならねばならないという事を私は悟った。
女神に好かれる気質ではあるが、
人間に嫌われる気質になっているという事もあり得るわけである。
人間に好かれる気質ではあるが、女神のお気には召さないという気質もあるわけだ。
そこに考えが及ぶと、いやはや、女神に好かれるという事は、
並大抵の努力だけではすまされないという事になる」(P17)


具体的にはどのようにしたら運気が上がるか。
米長邦夫には伊藤能という、筋はいいのだがどうにもうだつの上がらない弟子がいた。
その伊藤能が、国枝久美子という団鬼六の助手を好きになったという。
伊藤能は次に四段昇格しなければ、年齢的に奨励会追放である。
国枝久美子が伊藤能に四段になったら「抱かせてあげる」と約束したそうだ。
「私も小娘じゃないんだから、そうなったら能さんに一切お任せよ。
焼いて喰うなと、煮て喰うなと」
伊藤能は発奮してだれもが無理だと思っていた四段昇格に成功する。
このいきさつをそばで見ていた団鬼六は思う。

「そういえば、国枝久美子も彼女の過去から考えてみると、
妙に男の運気を発揚させる妖しいパワーを持っていたような気がする。
肉体的に接触があったかどうかはわからないが、
彼女と交流のあった男性は、ある時期に一つの運気をつかんで成功しているのだ。
彼女はあげまんですよ、と、成功した男性にあとで聞かされた事があった。
あげまんというのは、必ずしも肉体関係が必須の条件だとは限らない」(P188)


いったい人生と運の関係はどうなっているのだろう。
あげまんさんに会いたいことは会いたいけれど、
うっかりのぼせていると今度は運命の女神から嫌われてしまうような気もするのだが。
米長邦夫や団鬼六とおなじで、
わたしもまた「人間の知識や論理では解明できない不可解な力」を信じている。
運命の女神の存在を信じているということだ。
いったいどうしたら運命の女神に好かれるのだろう。
本書によると、いつも笑顔で謙虚にしているのがいちばんいいらしい。
「◯◯を成功させたら、あたしを煮て食べてもよし、焼いて食べてもよし」
なんて美女が現われたら、男ならそりゃあ発奮するだろうなあ。
結果として一時期はよくなっても、運命の女神から嫉妬され、
男女どちらかがその後、奈落の底に落ちるかもしれないけれど。

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