あなたの言葉

社員の口真似をするバイトはうざいけれど、彼はほかの言葉を持たないのだ。
上司の口真似をする部下は出世するのだろう。
どの社員も経営者の口真似をしている会社がいちばん理想的なのかもしれない。
プライベートでなにか事件があったらテレビで流れていた言葉を流用すればいい。
あなたの言葉なんてだれも聞きたくないのかもしれない。
いや、わたしはあなたの言葉を聞きたいのである。
いつだったかバイト先でライン(流れ作業)横の若い男性から、
まだ本の入っているオリコン(プラスチックの大きな箱)を投げつけられたことがある。
わたしは職場の人全員に興味があるから彼にも注目していた。
かなり若そうだ。顔は悪くないのに、人との関係において閉じている。
このバイト先のパート仲間に多く見られることだが、
とにかく自分に自信を持っていないのがうかがえる。
彼からまだ本の入ったオリコンを投げつけられてどう思ったか。
危ないでも怖いでもなかった。よし、きたぜ、である。
このバイト先に入って知ったのは、自分の感情を表現できない人が多々いること。
自分の感情を言葉で表現するのはかなり修行のいる難行である。
しかし、身ぶりや表情でならできるのではないか。
まずそこからなにかが始まるような気がする。

つまり、まあ、そのときわたしの横の持ち場がたまたま忙しく、
こちらのほうはそのときたまたま暇だったのである(後から来ましたよ)。
ムカっとした彼は思わず、わたしのほうにオリコンをぶん投げた。
とてもおとなしそうな表情の変化に乏しい若い青年が感情を見せた。
自分でもわけがわからないほど嬉しかったのねえ。
それでいいんだ、と思った。ニコニコしながら彼のほうを見る。
おとなしい青年も自分のしたことをわかっていないのである。
なぜ自分がわたしに向かってオリコンを投げたのか自分でもわかっていない。
たぶんほかの人にだったら彼は投げなかっただろう。
自分を抑制していただろう。いつものように自分を殺していただろう。
では、なぜわたしにならオリコンを投げられるのか。
正解はわからないが、わたしが自分を出しているからのような気がする。
かなり(マイナスの意味合いで)「自由」だったからだと思う。
なにをしてもいいし、なにをされてもいいと思っているところがある。
なんでもおもしろがっちゃうようなところがある。
それから彼の忙しい持ち場を手伝いはじめた。
一緒に行動をしてみると、おとなしいが気のいい青年なのである。
しかし、自信がない。人とどう接したらいいかわからない。
彼は17時に上がりなのだが、そのときとてもいい笑顔をしていた。
上から目線のようで恐縮だが、彼は大丈夫ではないかと思った。
いつかうまいこと、ここを卒業していく日が来るのではないかと思った。

セラピストの役をやっているなあ、と思う。
わたしはだれかを「治したい」なんてまったく思っていないから、
傲慢にもほどがあるけれど河合隼雄レベルのセラピストなのかも、なんちゃって♪
ライン(流れ作業)でただわたしの横に一緒にいるだけで変わる人がいる。
というか、わたし自身がこの職場からセラピーを受けているとも言える。
精神科やセラピーのお世話になったことはないが、
診察を受けたら重度のいわゆる心の病を指摘されそうな気がしなくもない。
毎日のように「死にたい」とか10年以上考えていた人間だから(未遂経験はゼロ)。
いまはどうかって、いまは、うーん、どうなんだろう。
現在のバイト先に入ったときにラインで横の人を助けるのも助けられるのもいやだった。
1年ちょっと経って、いまでは人によってはどちらもOKである。
嫌いとかそういうのではなく相性的にどうしてもダメな人はいるが、
これはもう仕方がないだろう。
いまの職場はわたしにとってセラピー、シアター、スクールである。
先日、ある女性から今月で辞めることを伝えられた。
ひとりまた卒業していく。わざわざ教えてくれた「あなたの言葉」がとても嬉しかった。

COMMENT

- URL @
09/19 00:27
. ウチで本の入ったオリコンをぶつけた事案はまだない。ハナシをデッチあげるな馬鹿comment
Yonda? URL @
09/21 19:22
……. 

本が入ったオリコンをこちらの間口に向けて
投げ落とされたということです。
書き方が悪くご理解いただけなかったことを申し訳なく思います。
あとホストはいちおうチェックしていますよ。
あなたがだれだかばれているのかもしれませんから、ご注意あれ。








 

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