「ふかいことをおもしろく 創作の原点」

「ふかいことをおもしろく 創作の原点」(井上ひさし/PHP研究所)

→井上ひさしの劇団「こまつ座」って結局、利益が取れていたのかなあ。
演劇って本当にお金にならないらしい。
でも、あまりに楽しいからみんなやりたがる。
三島由紀夫なんかもそうで、あれは赤字だったとどこかで読んだことがある。
おなじことの繰り返しである日常の倦怠から我われを
回復させてくれるのは芝居がいちばんの特効薬なのだと思う。
しかし、芝居はやるほうも見るほうも金がかかってしようがない。
わたしが1日働いても買えないようなチケット代金もざらなんだから。
井上ひさしはいろいろな仕事をした人だったが、もっとも好きだったのは演劇ではないか。

「小説というのはひとりの孤独な作業ですが、
劇作は多くの人たちが関わって創り上げていきます。(中略)
結局、最後はお客さんと俳優さんが、
一つの屋根の下にいるというところへたどり着きます。
そこでは、作者も演出家も照明家も全部消えてしまうのです。
やはり見ている人が目の前にいるという形式は、
一番厳しく、しかし面白い。贅沢な芸術です」(P86)


小説家だって書いてから読者の反応がわかるまでにはかなりの時間を要するのだ。
そのうえ読者の反応は手紙のようなものが多いだろう。
ファンと対面しても相手は自分の気持を考えて本当のことを言ってくれない場合が多い。
しかし、芝居は目の前で自作の反応がわかるのである。
こんなにスリルがある遊び(芸術)はほかにないのではないか。
見ている人が目の前にいるという形式は怖いが、とにかくおもしろいのである。
もちろん、見てもらうためにはおもしろいものを書かなければならない。
どこで受けたかも体感的にわかるから、それを次の創作に生かせるだろう。
劇作家はお客に育ててもらうという面もあるのではないか。
芝居は無報酬でもしたがる人の多い遊び(芸術)なのである。
演劇は作者も役者もスタッフもお客もみんなが楽しめる。
いまのバイト先は社員さんがパートをどこに振るか決める。
これは座付作者が顔なじみの俳優に役を振るのとおなじである。
ここには書けないこともふくめて、いまの職場は演劇的でおもしろいよなあ。
とはいえ、資本主義の最前線の現場でもあり、
時給850円ほしさに労働者がしのぎを削っている場所でもある。
共産党シンパだった井上ひさしは、資本主義と社会主義を超えるものを知っていたと思う。
資本主義でも社会主義でも人間全員は救われないが、しかし――。

「笑いは共同作業です。落語やお笑いが変わらず人気があるのも、
結局、人が外側で笑いを作って、みんなで分け合っているからなのです。
その間だけは、つらさとか悲しみというのは消えてしまいます。
苦しいときに誰かがダジャレを言うと、なんだか元気になれて、
ピンチに陥(おちい)った人たちが救われる場合もあります。
笑いは、人間の関係性の中で作っていくもので、
僕はそこに重きを置きたいのです。人間の出来る最大の仕事は、
人が行く悲しい運命を忘れさせるような、その瞬間だけでも抵抗できるような
いい笑いをみんなで作り合っていくことだと思います。
人間が言葉を持っている限り、その言葉で笑いを作っていくのが、
一番人間らしい仕事だと僕は思うのです」(P92)


まったく本当にそうだよなあ、とおセンチにもなみだを浮かべながら同意してしまう。
資本主義や社会主義を超えるものは、みんなで作る笑いなのかもしれない。
わたしなんかも過疎ブログで、だれかを笑わせたい、
笑わせたいと思って文章を書いているところがある。
あるところである人がわたしの顔を見て大笑いしてくれたときは嬉しかったなあ。
しばらくしてなみだが込みあげてきたくらいである。
読者さまはわたしがなにを書いているんだかわからないでしょう。ごめんなさい。
とにかく笑いは重要ってこと。
どんなに辛い状況にいても、人間は笑いでその苦境に抵抗することができる。
そしてひとりでも笑えるが、人間が複数で作る笑いはもっとすばらしいということ。
西洋哲学書を読んでもあんなところに救いはないけれど、
人間がふたり以上で作る笑いには救いがある。カントがなんだ、ニーチェがなんだ。

「大切なのは、自分が使いこなせる言葉でものを考えるということです。
生半可な外来語とか、意味をきちんと理解せずに討論をし、
ものを考えていくと、その言葉に合わせて、
いいかげんな理論構築や結論が生まれてしまうようになるのです。
それが一番危険だと思っています」(P102)


よりよくものを考えようと思ったら、自分の使いこなせる言葉を増やすしかないのである。
どうしたら使いこなせる言葉を増やすことができるかはみなさんご存じでしょう。

「パソコンで探せる情報というのは、すごいものがたくさんあるらしいのですが、
まだ本で蓄積されているものの方が、ずいぶん多いのではないかと考えています。
確かにその場で探すのはとても早くて便利ですが、
ひとつ掘り下げるとなるとまだ本のほうがいい。
本とは、人類がたどり着いた最高の装置のひとつだと思います」(P113)


パソコンには答えはない。かといって、本にも答えは書いていない。
おそらく本を読んで使いこなせる言葉を増やし、
自分の言葉でものを考えたとき、そのときはじめて自分の答えが出てくるのだろう。

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