認められたい?

それまでわからなかったことがわかったと思う瞬間ほど楽しいものはない。
むかし職場で、いまはほかに移動になったサブマネージャーから言われたことが
まったくわからなかった。本や漫画を出荷する倉庫でアルバイトしている。
流れ作業で順々に書籍やコミックを箱に入れていく。
だれでもできるかんたん作業ゆえ時給も低く働いているのは外国人が多い。
ライン(流れ作業)では、きつい持ち場とそうではない楽なところがある、
むかしサブマネからじきじきにきついところを振られたことがあった。
よく本が出るときにはそうとわかるのだろう。50過ぎのサブマネが助けにきてくれる。
たぶん不満そうな顔で働いていたのだと思う。サブマネから言われた。
「ツチヤさんは責任あるところを任されたくないの?」
「(きついところも)たまにならいいんですよ。たまになら」
そう答えたような記憶がある。
おそらくお互いがお互いをまるでわからなかったのだと思う。
まじめな男性のサブマネは、
男は仕事で責任ある地位を任されたいものだと自分の感覚から思っていたことだろう。
いっぽうわたしは女の子のように、
どうせおなじ時給なら楽なほうが……とか悪いことを考えちゃうお子さまだった。
こうなるとお互いがお互いを本気で理解できなくなる。
双方どちらもが、え? わっからねえと当時思っていたような気がする。

人は変わるもので、いまはサブマネの気持がちょっぴりわかったような気がする。
先日、むかしからお世話になっている、
よく仕事のできる年上の男性先輩Aさんとラインの横で入ってねえ。
驚いたのは、そこが楽な持ち場であることにAさんは不満なようなのである。
もっときついところにまわされたいとしきりに口にしていた。
社員さんがそばに来たときにわざわざ言うのだから。
「もっと(本が)出るところやコーナー、入庫にまわしてくださいよ」
社員さんは「……(あわっ)……まあまあ(我慢して)」という感じで去って行った。
なにがなんだかまるでわからなかった。
ああ、男の子ってそうなのかとこのあとしばらくして気づいた。
男の子というのは、仕事で認められたいものなのだ。
女の子はどちらかといえば人間に認められたいと思うのではないか。
男に認められて愛されたいし、同性と認め合って群れたがるのが女ではないかと思う。
人それぞれだが、女の子はそこまで仕事で認められたいとか思わないでしょ?
正直、おなじ給料だったら楽をしたいというのが女の子の感覚ではないかと思う。
「あたしと仕事のどっちが大事なの?」というのはある意味で象徴ではないか。
ともあれ、男女ともに人は認められたいと思うもののようだ。
この認められたいという感情を難しくいうと承認欲求という言葉になる。

わたしも男の子だから仕事で認められたいという気持はなくはないが、
これは非常によくないけれど、いまのバイト先で認められたいとはまったく思っていない。
しかし、そういえば自分をかんがみても
男の子って本当に仕事で認められたがるんだなあ。
男の子のいい学校に入りたい、いい会社に入りたい、出世したいというのは、
まさに認められたいという感情のそのままの発露だろう。
恋愛体質(病質?)の女の子は男から認められたくて仕方がない。
認められたいから男女ともに必死になって競争して苦しむことになるのである。
ならば、あるいは承認欲求(認められたい!)は苦しみの源泉かもしれない。
わたしは大学を出てからあらゆる権威から拒否されたという被害妄想を持っている。
こうなるともう、けっ、くそが、と思ってしまい、ありがちにも権威を否定したくなる。
結果、権威を意識すれば意識するほど泥沼にはまるのは人生経験からよく知っている。

程度の強弱こそあれ、男女ともに人はだれしも認められたがるもので、
まさにその承認欲求が努力する熱源であり、また人生における苦しみの根源である。
認められたいという気持が人をがんばらせて、
同時にそれがなかなかかなわないから人は苦しむ。
なぜなら世間や他人に認められるのは非常に難しいからである。
人は他人になんかめったに関心を持たないからだ。
そうだとしたら有名人と知り合いであることを誇っている小人物を笑ってはならない。
10年以上もまえに小さな文学賞を取ったことを尊厳のかなめにしている人もいる。
人間ってみみっちくていやなもんだなあ。
とはいえ、小さな地方文学賞を取るのでさえめったにない僥倖なのである。
他人の評価(承認)に依存しているといつか息切れするような気もして、
そう考えると人生でほとんど認められたことがないのもまた幸運なのかもしれない。
負け惜しみを言ってみた。負けか? 負けはないだろう。
いや、いくら自分は自分で自分のことを認めているからと言っても、
それは負け惜しみに過ぎないだろうと大半の人からは言われてしまう。

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