「ヴェトナム新時代」

「ヴェトナム新時代」(坪井善明/岩波新書)

→かつて自由気ままにふらふら1ヶ月ベトナムを旅したことがあったので、
いまの職場でベトナム人と再会したときは不思議なご縁に驚いたものである。
で、ベトナムについて興味が出てきたのだが、さあ、どうしたらいいか。
ベトナムのことはベトナム人に聞けばいいと思われるかもしれないが、
そうはいかなかった。
2年日本の学校に通っている子でも社会主義という言葉が通じないのだから。
そうとうに難しいとされるN2(日本語検定資格)を持っている子も、
社会主義という言葉は通じなかった。

本書はさすが岩波新書というほかないクオリティの高い本である。
2008年と出版もわりあい最近で、最良のベトナム入門書ではないかと思われる。
わずか250ページにベトナムのいろいろな情報がぎっしり詰まっている。
このため非常におもしろかったが、ことさら推薦はしない。
みなさまが本書を読まなくてもいいようにおもしろかったところを書いてしまうからである。

まず自分が社会主義という言葉をよくわかっていなかったという恥を告白する。
社会主義とは、1.私有財産の否定、2.計画経済、3.共産党の一党支配――。
わかりやすくするためにものすごーく乱暴なことを書くと、
社会主義はお金がなくてもみんなが生きていける社会のこと。
どうしたらそのようなことが可能になるのか。
国がすべてを管理してしまえばいいのである。
最初に国がその年の国民に必要な衣食住の需要を計算する。
それを元にして国が工場や農場に必要分の衣食住製品を発注する。
国民はみなみな公務員か工員か農民になり、労働者として生産活動に従事する。
みなおなじような家賃のいらないところに住み、衣食はクーポンでまかなわれる。
病気になったら医者が無料で診察してくれる。
――ね? これならお金がいらないでしょ?
著者によると、ベトナム戦争中は貧しさをわかちあうことができるため、
この社会主義経済は思いのほかうまく機能していたらしい。
しかし、戦後に社会主義経済の矛盾が露呈しはじめる。
みんなとおなじ服を着ているのなんていやだ~。
お化粧したいけど、国は贅沢品だって支給してくれない、ぷんぷん。
職業選択の自由がほしいよおん。
がんばっても手を抜いても同程度のクーポンだから働く気がなくなるなあ。
このままじゃいかんのではないかと国は資本主義市場の導入を決めたわけである。
みなさん世界史や地理でお勉強したでしょうドイモイ政策というやつだ。
考えてみたらドイモイ政策の採用が決まったのは1986年。
いまの職場のベトナムっ子たちは生まれていない。
あの子たちは生まれてきたころから資本主義世界しか知らないのかもしれない。
だとしたら社会主義という言葉を知らないのは、なにやら象徴的でさえある。

とはいえ、資本主義市場を導入したときも経営者のなり手がいなくて大変だったらしい。
そもそも長期的な視野をもってお金を儲けようとする資本家がいなかったのだという。
市場は、まず大きな資本(お金)を投下して土台を作る人が出ないとはじまらない。
ところが、ベトナム人は相次ぐ戦争で目先のことしか考えられない人が多い。
20年間資本主義を経験した南のホーチミン市は、要人がみな国外へ逃げてしまった。
ボートピープルとかすごかったらしいねえ。
要は北に負けた南の人が財産没収や強制収容所行きを恐れて、
小さなボートで国外へ脱出しようとしたのである。成功率は10%だったとのこと。
当時ボートピープルを選択した人はこの成功率を知っていたのだろうか。

資本主義経済にもかかわらずベトナムは共産党の一党支配の国である。
これはどういうことか? よくわからないよねえ。
まず共産党はどういう立ち位置なのか。
共産党に入らないと経済以外の分野では出世できない(大学など)。
2008年段階でベトナムの人口は8500万人。そのうち共産党員は350万人。
国民の約4%が共産党員ということになる。
だれもが共産党員になれるかといったら、そうではない。
血縁者に共産党員のいることが最重要事項らしく、ならば世襲のようなものなのだろう。
基本的に共産党員はおいしい思いをすることができる。
ベトナムに公平な公務員試験のようなものはなく、共産党員とのコネがすべてである。
とすると、公務員になりたかったら共産党員にあれを払えばいいということになろう。
また公共事業を発注するのも共産党である。
どこの企業に決めるかでも賄賂(わいろ)が派生して共産党員はウハウハである。
どのような資本主義活動も国からの許可を得なければならない。
資本主義行動に許可を与えられるのは共産党員だけだから、あとはわかるでしょう。
しかし、いま都会の若者のあいだで共産党離れが進んでいるらしい。
なぜなら党員になると自由な発言を制限されるからである。
党の方針に沿った言動を求められるようになる。
そのうえ定期的に集会に出席して、マルクス・レーニン思想を勉強しなければならない。
もしかしたら将来的には共産党員だったということが黒歴史になるのではないか。
そういうことを考えるベトナムの若い子もいるとのこと。
現実として外資が導入されたホーチミン市では、
共産党員にならなくても金持になる層が現われはじめている。
英語、中国語、日本語が堪能なら外国企業に入って高額な収入を得ることができる。
グローバル市場経済はベトナムでもどんどん成長しているが、
これをあたまの固い共産党要人たちがコントロールできるのか疑問視されている。

最後に本書で知った豆知識を箇条書きにする。
・ベトナム戦争のとき、米兵は戦地でも冷たいビールが飲み放題だった。うまそう!
・2008年段階でベトナムの人口は8500万人。そのうち40歳以下が8割。すげえヤング。
・いまでも監視の目は厳しくなる一方で現政権の共産党批判をすると公安に逮捕される。
・共産党は情報統制をしている。
・建国者のホーチミンは中国で結婚して子どももいるが、それは国民に隠されている。
・職場でホーチミンってどんな人? とベトナム人の子に聞いたら、
「とても偉い人で何か国語も話せて一生独身でした」と言われたから情報統制はガチ。
・ホーチミンのことはまだよくわかっていないことが多い。
・ベトナムの共産党は常に絶対的に正しく間違うことがない。
・ベトナム人は社会的上下関係を大切にする。
・つまり、どんな会社に勤めているか、どこの大学出身か、既婚か未婚か、年齢はいくつか。
・日本の非常識はベトナムの常識。ベトナムは不正天国。
・少額の賄賂(わいろ)ならば払うのが常識で、もらうのも正当な権利である。
・正しい賄賂の受け取り方はみんなで山分けして生活費以外には使わないこと。
・2005年に廃止されたが、それまで二人っ子政策というものがあった。
・とにかくまあベトナム人は楽天的でしたたか。

COMMENT









 

TRACKBACK http://yondance.blog25.fc2.com/tb.php/4056-a3626250