「因果鉄道の旅」

「因果鉄道の旅」(根本敬/KKベストセラーズ)

→特殊漫画家(要はメジャー嫌いってこと)根本敬の人間観察エッセイを読む。
変な人ってふつうのパンピーにはない人間味があって、
きれいごとしか言わない取りすました偉人や成功者なんかよりも、
くっせえあいつらのほうが独特のうまみがあるなあって本。
変な人とは、精神科にかかっていないきちがいとでも言ったらいいのか。
いわゆる精神病一般はけっこうアバウトなところがあって、あれは自己申告制なのである。
周囲からいろいろ批判されて自分に自信がなくなって変な人は精神科に行く。
いや、それは違うんだよ、おかしいのはきみたちのほうで自分は間違っちゃいない。
周囲からの常識に基づいた批判を頑として受けつけない人の魅力ってあるよなあ。
われわれ日本人はさ、周囲の目を気にしてなかなか自分勝手なことをできないじゃない。
お互いに監視しあうというか、抑制しあうというか、牽制しあうというか。
このため、周囲の目なんてまったく気にしないで
横暴に振舞える人にちょっとあこがれちゃう。
「おれがルール」みたいな人ってめったにいないけれど、
いたらそいつはたしかにいやなやつなんだけれど、独特の愛嬌があったりして、
そのジコチューの悪口を言いながら、
どこかそいつの存在を楽しんでしまっているというか。
ふざけんなって怒りたくなるほど非常識で自分勝手なんだけれど、
当人はそういう認識がまったくなくて
ナチュラル(天然)にそうであることに畏敬や畏怖を感じてしまうというか。
え? それをするの? それを言うの? と仰天するのが楽しいんだなあ。
たしかに変な人は迷惑なんだけれども、
そういうダークなことを自分もしたいけれどできないだけじゃないか、
とふと気づいてしまうと、その人のナチュラルなところがとても輝いて見えちゃうわけで。
壊れた人間のまさにその壊れた部分に味があるというか笑えるというか、
笑っているうちに泣きたくなっちゃうくらいそいつが好きになってしまうというか。
常識的に考えたら絶対にダメなやつなんだけれど、そいつのパワーに負けちゃう。
むしろあえて負けてしまいたいというか、常識なんてくそったれだろ、
と自分も本心では思っているので、そこはそれでそういうわけで。
著者は人間にはそれぞれ生まれ落ちたホシがあると信じているようだ。

「ところでホシには磁力があり、強い磁力を持つホシが弱い磁力のホシに影響を及ぼし、
自分の植民ボシにしてしまうことがある」(P373)


磁力というのは、わかりやすくいえばオーラみたいなものなのだろう。
よくも悪くもすげえオーラを持った因果者っちゅうのがおるんや。
そいつのことなんかあたまではバカにしているんだけれど、
いざ対面して話すと震えがとまらなくなっちゃうというか、この人はスゴイとしか思えない。
常識的多数派のみんなは知らないのだろうけれど、
自分だけはこの人のスゴミがわかると叫び出したくなってしまう。
たしかにそいつの噂話をするときは悪口ばかりで口ではバカにできるんだけれど、
もうその時点でそいつの磁力にすっかりまいっちゃって無条件降伏って感じ。
なんであの人は一見ふつうの人っぽいのにそんなヤバいことをやれちゃうの?
そんな身もふたもない本当のことをあんたは言えるんだ?
じつはそれこそおれが言いたかったことなんだけれど、言えなかったぜ畜生みたいな。
そんなことは言っちゃいけないでしょう、と思いながら、
あっ、それは自分も思っていたことだけれど言えなかっただけなんだと気づく。
変な人、いかがわしい人、うさんくさい人って成功者とは正反対のいい味を出している。
みんなは成功者にたぶらかされているけれど、
本当の人間の味っていうのは変なことをするイイ顔をした特殊男女を、
ゴムつきではなくナマで体験しないとわからない。
根本敬は一見するとこの本で他人の悪口ばかり書いているようにも読めるが、
じつのところそうではなく、著者はおのれの「因果鉄道の旅」で出会った、
まさに人間の根本(男根、女陰)をむきだしで生きている因果な特殊男女に
深い敬意と愛惜の念を非常に屈折しながらも寄せていることは疑いえない。
根本を敬うのが特殊漫画家の根本敬である。
おのれの欲望をストレートに出している人の磁力に根本敬のホシは引かれる。
ビジネスライクに人と接するのはたしかに安全だろうがつまらない、なにも起こらない。
あいつは好きだ、こいつは嫌いだと本音を顔にむきだしにするやつはおもしろい。
人間平等なんてきれいごとを言わないで、お、こいつは顔がいい、金を持っていそうだ、
学歴はどのくらいなんだと人を判断する正直な人のバカぶりっておいしいなあ。
でも、おれは乳子(入庫?)よりも貧乳が好き、
なんて好き嫌いがはっきりしていたらもっとおもしろいさ、そりゃあ、人間そんなもんだから。

本書を読んだ人でないとわからないかもしれないエピソードを書いておこう。
まあ、このブログなんて10人も読者がいるのかって話だから、どうでもいい。
むかしさあ働いていたバイト先にイイ顔をした男女がいたんだなあ。
ものすごい若そうな男の子と、どう見てもやつれた枯れかかったおばさんのカップル。
ぶっ飛んじゃうくらいの違和感というか極北感があったんだなあ(さむいってことね)。
このボウヤとやつれたおばさんがつねにラブラブで非常に味があるというか。
気味が悪いなんてみんなは思っていたのだろうが、そう思うのも無理はないというか。
実際、聞いたらけっこうな人がこのカップルをうざいと思っていて嫌っているの。
というのも、人目もはばからず、というかむしろ周囲に熱愛を見せつけるように、
その若いおにいちゃんと崩れたおばさんがいちゃいちゃしているわけだから。
みんながいるところでお弁当をお互いに食べさせあうとか平気でやっちゃうわけよ。
わかるかな、ほら、アーンしての世界。
どこから見ても貧相なおばさんがさ、自分は清純なうら若き美少女みたいな態度を取る。
男は男でまあボウヤなのだが、
社員よりも威張っていて、根本的に自己認識が誤っている。
われわれよりもたった50円時給が高いおなじバイトなのに威張りくさって、
ほかのパートを完全に自分よりも下に見て注意してまわるようなボウヤ。
むかしのことだから忘れたが、
みんなこの気持悪いカップルをどこかで嫌っていたのではないか。
ひとりの同僚にふたりの話をしたら、唾でも吐きかけてやりたいような顔をした。
わたしはどうしてかこのイイ顔をした男女が好きで好きでねえ。
ふたりの会話を盗み聞きしたりすると、あとで笑いがとまらないというか。
しぼんだおばさんがさあ、初々しい処女のような態度でボウヤを持ち上げるわけだから。
ふたりがわたしの悪口を言っていたのも聞いたけれど、
かえって本音を生きている特殊男女を好きになったくらいだ。
群れて孤独な人の悪口を言うのって楽しいもんねえ。
本人たちはすんげえ幸福ってところがいいわな。
周囲からは気持悪いカップルとしか見られていないのだが、
本人たちはそれぞれロミオとジュリエットを気取っているわけだから。
くっせえカップルなんだけれど、独特の味があって、
あるいはあれが本当の愛のかたちかもといまでは思う。
恋愛って本当のところキモいわけだから。
そういうカップルの夜のことを下品にも想像すると
世界が神々しく見えてどうしてか笑っちゃう。

楽しく生きるこつっていうのを本書から学んだような気がする。
イイ顔をした自分が見えていない変な人のことを迷惑と常識的に考えるのではなく、
こりゃまたおいしいものを神さまはプレゼントしてくれたとネタとしておもしろがっちゃおう。
どうせ人生、本当のところはつまらないんだから、ならば可能な範囲でおもしろくしよう。
「劇化」という言葉が人生をおもしろくする秘訣のような気がする。
著者は本書で内田という大学時代のクラスメートのことを、
ひどいやつだとさんざんバカにしている。
しかし、実際のところは著者はだれよりも内田の本質を理解し愛しているのだろう。

「……内田ってのは結構ポッと思いつきで演劇的になる人間で、
ある種の凄い自己劇化、その自己劇化っていうのが、
ゴールデンタイムのホームドラマみたいな、
アイドル主演の、ああいうレベルの凄い浅薄なものなんだけど」(P59)


この本はいまの職場の人からすすめられたのだったか。
だれもわたしになんか関心はないというのが真実で、
これはたんなる被害妄想なのだが、
自分勝手なためバイト先でおそらくいちばん同僚から嫌われているのはわたしだろう。
空気を読まないで本当のことをポンポン言ってしまう最低なやつだが、
とても自分がイイ顔をしているとは思えない。
だれがどう見ても人生が終わっちゃった使えないゴミバイトのおっさんなのだが、
本人は自分には才能があるとかいまだ信じていそうでまったく腹が立つだけの存在。
まあ、バイト先の仲間にはそれぞれの「因果鉄道の旅」のなかで、
それぞれのホシの磁力作用の影響でどうしようもなくわたしと出会ってしまった。
たいへんご迷惑でしょうが、そのように考えてあきらめてもらうほかない。
この本をすすめてくれる人がいるというのは、
あんがいそれほど嫌われていないのかもしれない。
まさかもっとハチャメチャをやれ、というメッセージだとは思わないけれども、
ここだけの話、そう勘違いしてしまいそうなナチュラルな自分がいて怖い。
わたしの恩師といえば特殊映画監督の原一男先生だが、
師から教わったことをひと言に要約したら、表現のためならなにをしてもいい、だ。
なにをしてもいい、自由だ、もっと過激に生きようとわたしは師匠から教わった。

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