「我々はなぜ戦争をしたのか」

「我々はなぜ戦争をしたのか 米国・ベトナム 敵との対話」(東大作/岩波書店)

→1998年に放送されたNHKスペシャルの書籍化。
ベトナム戦争当時のアメリカ高官とベトナム上層部がハノイで対話をした。
テーマは「我々はなぜ戦争をしたのか」――。
こういう対話があったのを聞きつけたNHK敏腕記者が、
その内容を報道して国民に伝えたいと思った。
ひとりの人が一生で1回できるかできないかの仕事を著者は成し遂げたのだと思う。
とてもわかりやすく、かつたいへんおもしろい書籍であった。
なにかを知ったり発見したりするのってやっぱりおもしろいなあ。

ベトナム人300万人、アメリカ人5万人が死んだとされるあの戦争の真実はなにか?
本当のことを言えば、ベトナムがアメリカに勝ったかどうかもわからないわけである。
だって、ベトナム人はアメリカ人の60倍死んでいるわけだから。
そのうえベトナム兵士がアメリカに上陸して一般人を殺傷したわけでもない。
ベトナムはアメリカに勝ったというよりも、負けなかったのだと思う。
どうして負けなかったのかと言えば、和平交渉の場にベトナムが乗らなかったからである。
戦争における勝ち負けというのは、
要するにいかに秘密裏に敵国と交渉(条件交換)するかの利益分率と言えよう。
ベトナムはこの裏からの交渉におそらくほとんど興味を示さなかったのだろう。
そもそもアメリカにはベトナムの要人とのコネ(人間交流)がいっさいなかった。
落としどころをつけようにも信頼関係のある交渉役がいないのだから仕方がない。
わかりやすい話をすればギブアップだろう。
プロレスや格闘技では「参った」ときにギブアップと言うことになっている。
しかし、相手がそもそもギブアップという言葉を知らなかったらどうだろう?
おそらく、これが小国に過ぎぬベトナムがアメリカに勝ったという真相なのだと思う。

ベトナム戦争の背景にあったのは、アメリカがベトナムをまったく知らなかったこと。
アメリカはベトナムのことをまるでからきしさらさらつゆ知らなかった。
具体的にはベトナムと中国は歴史的にとても仲が悪いことを知らなかった。
おなじ共産主義だからベトナムと中国は親友みたいなものだろうと勘違いしていた。
本当はソ連、中国、ベトナム、それぞれ仲が悪かったのである。
中国はソ連を嫌っている。ベトナムは中国を嫌っている。
ベトナムに数ヶ月滞在したらわかること、ただそれだけのことを知っている人が、
当時のアメリカ上層部にはひとりとしていなかった。
このため、ドミノ理論(ベトナムが共産化したらインドシナ半島全体が共産化する)
などという、いかにもアメリカらしい単純な一見わかりやすげな理論が信じられ、
正義の国であるアメリカが自由のために悪いベトナムを成敗することになった。

アメリカ人というのは気のいい、いわゆる善人が多いのだろう。
怖ろしい本当のことをベトナム人に向けて語っていた。
ベトナム戦争以前、アメリカ人はだれもベトナムのことなど知らなかったと言ってしまう。
ベトナムを世界地図で指せと言われてもだれもできなかっただろう。
アメリカ人はだれもベトナムのことを知らなかった。
ただ共産主義の大国・中国の子分程度の認識しかなかった。
ベトナムの偉い指導者、ホー・チ・ミンは民族独立闘争開始当初、
独立精神にあふれたアメリカに好感を持っていたという。
ホー・チ・ミンはどうか我われの独立運動を支持してくれとアメリカに親書を送ったくらいだ。
しかし、アメリカの要人はベトナムのことなどだれも知らなかった。
このため、ホー・チ・ミンの親しみあふれた手紙を無視してしまった。
庶民レベルの話をしたら、相手が挨拶してきたら挨拶を返したほうがいいのだろう。
このときアメリカが小国ベトナムのホー・チ・ミンに関心を持って
話を少しでも聞いていたら、
歴史に「もし」はないがベトナム戦争は起きなかったのかもしれない。

名著を読んで再認識したが、つくづく歴史というのは「たまたま」の繰り返しなのだと知る。
米国による北爆(北ベトナムへの空襲)のきっかけとなったのはブレイク事件である。
アメリカのお偉いさんが和平交渉などいろいろな選択肢を持ちながら
ベトナムに来たまさにそのときに、南ベトナム軍の要地が攻撃されてしまった。
これでアメリカ人兵士8人が死亡した。
このことへの報復(復讐)としてアメリカはベトナム人を空爆で大量に殺すことを決めた。
アメリカ高官はブレイク事件を北ベトナム軍による挑発だと受けとめた。
しかし、実際のところは(おそらく十中八九これは本当のことだろう)、
ブレイク事件(基地攻撃)は
近くのゲリラ軍がなにも知らないで行なったことだったのである。
アメリカの高官が来ていることなんざまるで知らないベトナム兵士が、
上の命令とかまったくなんの関係もなく、いわばその日の気分で基地を攻撃した。
これがベトナム戦争激化の直接的要因になったのである。
アメリカ軍では上から命令されていない行動は決してしてはならない。
しかし、北ベトナム軍はそれほど指揮系統は成立していなかった。
わかりやすくいえば、北ベトナム軍は「いいかげん」だったのである。
このため大した理由もなく、あるベトナム人がよかれと思ってブレイク事件を起こした。
アメリカはまさにこれこそ北ベトナムサイドの挑発行為とみなし北爆を開始したのである。
なぜなら繰り返しになるが、アメリカ軍においては
上から命令されていないことはしてはいけない決まりになっていたから。
北ベトナム軍はそうではなく、「いいかげん」だということをアメリカ上層部は知らなかった。

ベトナム戦争が泥沼化したのは、いったいどういうわけなのか?
アメリカ人がベトナム人のことをさっぱりまるでわかっていなかったのだろう。
戦争においていちばん卑怯なのは空爆だと思う。
空から爆弾を落として非戦闘員を無差別に殺すというのはさすがにダメだろう。
わたしが政治家や軍部要人でも空爆だけは人として選択できない。
この企画の提案者である、まあ偽善者だろうが、
あるアメリカ人のお偉いさんが言うのである。
自分が自分の責任で空爆をさせてベトナム人を大量に殺したのは、
むしろベトナム人のためなのである。
どうしてベトナム人は同胞がこれほど死んでいるのに和平交渉に乗らなかったのか。
これに対するベトナム人の答えはいさぎよい。
爆撃されているときに和平交渉などしたら、どう民衆に言い訳が立つというのか?
ひんぱんに空襲に来るアメリカなんかと和平交渉できるもんか!

本書にはまったく書かれていないが、
アメリカはおなじアジアだからベトナムを日本とおなじようなものと錯覚したのだろう。
日本はアメリカからさんざん空襲を受けて、原爆まで落とされた。
その結果として無条件降伏を選択して、戦後はアメリカ文化を盲目的に受け入れた。
アメリカはしょせんベトナムなぞ日本とおなじようなものと思ったのだろう。
空爆を繰り返したらいつかギブアップして奴隷的な無条件降伏をするに違いない。
しかし、ベトナムはそうではなかった。ベトナム人と日本人は違う。
ベトナム人が偉いとほめているわけではないのである
(そのような気持もないことはないが)。
自国民が大量に死んでいたら同胞のために「負け」を認めるのもいいのではないか。
広島、長崎のあとにほかにも原爆を落とされていたら日本はどうなっていたか。
ベトナム政治家と日本政治家のどちらが「偉い」のかも「正しい」のかもわからない。
それぞれに「偉い」し「正しい」と思う。
しかし、無抵抗の人間に空襲する米国兵士は「偉い」とも「正しい」とも思わない。

日本人とベトナム人は異なる。
みんなアメリカの動向に夢中だが、わたしはベトナムのことをもっと知りたいと思う。
中国のことも、ネパールのことも、インドのことも、もっと知りたい。
アメリカの卑怯な空爆で自国民が大量に殺傷されているときに、
人命を尊重するのが「正しい」のか、それとも誇りを大切にするのが「正しい」のか、
それはいまのわたしにはわからない。
敗戦時の日本人上層部も、北爆時のベトナム人指導者もそれぞれ辛かったのだと思う。
アメリカ人はあまり好きではないが、
もしかしたら爆弾を落としている飛行機乗りのなかにもしんどい思いをしていた人は
少なからずいたのかもしれない。そうであると思いたい。

COMMENT

通りすがりの一ノ瀨 URL @
02/14 16:27
. たまにとてもいい文章を書かれるので、会社の昼休みとかについつい読んでしまいます。
Yonda? URL @
02/15 21:23
通りすがりの一ノ瀨さんへ. 

拙文をおほめいただき、どうもありがとうございます。








 

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