「ベトナムロード」

「ベトナムロード 戦争史をたどる2300キロ」(石川文洋/平凡社ライブラリー)

→ベトナム社会主義共和国ができた1976年に生まれたものとしては
わからないことばかりなのである。いちばんわからないのが共産主義である。
むろん言葉としての意味は(完全ではないにしろ)わかるけれども、
どうしてむかし共産主義に熱狂する人たちがいたのか、
そして同時にコミュニスト(共産主義者)を過剰に恐れる人があれほどいたのか、
どちらとも本当によくわからない。
わかる話をしよう。身近な話をしよう。
バイト先の中国人の子に先日聞いた。「中国人ってベトナム人が嫌いなんでしょ?」
「どうして?」「だって、むかし戦争をしていたじゃない?」
「日本人こそ中国人を嫌いなんでしょ?」
「そんなことないよ。中国人は好き。むかし旅行したときお世話になったし」
ベトナム人の子には「中国人は嫌いなの?」と気軽に聞けないような雰囲気がある。
こちらの勝手な思い込みだろうが、ベトナム人は中国人よりもちょこっと怖い。

本書は報道カメラマンとしてベトナムに33年かかわった著者の随想である。
いちおうは旅行記のかたちを取りながら、著者のベトナムへの思いが語られる。
おのれのアジア現代史への無知を思い知らされる。
これを読むまでベトナムと中国は歴史的に仲が悪いということさえ知らなかった。
おなじ共産主義だから親友みたいなものだろうと思っていたら、
どうやら実際はそうではないようだ。
そこらへんをアメリカは見誤ってベトナム戦争をおっぱじめたのかもしれない。
著者はベトナム戦争時、現場にいたから現地の声を聞いているのである。
ベトナム戦争のとき、ソ連と中国は北ベトナムに協力したとされている。
しかし、実際はソ連のほうはたしかに武器をまわしてくれたけれども、
中国はその妨害をするようなこともしていたという。
中国はアメリカとドンパチやりたくないからベトナムを南北に分裂させて、
米国の関心を中国からベトナムに移させたという説もあるらしい。
北ベトナムの兵士は民族独立(南北統一)のために戦っていたようだ。
いっぽう南ベトナムの兵士は戦争に負けたら、
ベトナムが中国に支配されてしまうという意識で殺し合いをしていたようだ。
どちらも戦場カメラマンの著者が現場で肌で感じたことだから、
真実と言えばこれほどの真実はなく、反対に噂話程度のものと見下すこともできよう。

日本の戦争責任もすごいよなあ。
沖縄の米軍基地からベトナムに向かった兵士が大量殺戮をしたわけでしょう?
日本は第二次大戦中北ベトナム(ハノイ)に迷惑をかけたのに、
南ベトナム政府に戦争賠償金として140億円を払ったのか。
きっと当時の日本も熱かったのだろう。
いまの我われなんて(わたしだけか?)定職にありつけて、
友人のひとりでもいたら万々歳の世界を生きているような気がする。
結婚なんかできたら奇跡のようなもので、そのくらいしか生きがいみたいなものはない。
しかし、当時は世界平和とか、そういう大きな物語が真顔で語られていたのか。
大きな物語を生きることができたら(デモみたいな集団活動をしていたら)、
個人の孤独のようなちっぽけな問題は消し飛んでしまうのかもしれない。

著者はインテリではなく庶民感覚をお持ちのカメラマンらしく、
このためゲスな言葉が多いのだが、そこがとくにわかりやすくおもしろかった。
第二次大戦で日本が負けて引き上げたあと、中国がベトナムに目をつけたらしい。
このときベトナムのホー・チ・ミンがこう言ったとされるのだが、おもしれえ。

「中国人のくそを一生食らうよりは、フランス人のくそをしばらくの間
嗅いでいたほうがまだましだ」(P55)


ホー・チ・ミンって人のことはぜんぜん知らないけれど、おもしろそうな人だなあ。
本書の著者である石川文洋氏もまたおもしろい人である。
まったく学問的ではないのだろうが、どこか本質を突いた記述をしている。
なるほどと思ったところを列記する。
・社会主義(共産主義)だと金儲けの才能が生きない。
・文学や写真、その他いわゆる芸術の才能があっても共産主義では生かせない。
・共産主義世界のメシはまずいが、資本主義社会のメシはかくだんにうまい。
・ベトナム、ラオス、カンボジアは国境を接しているが実は似ていない。
・メシを食えばそれがわかりベトナムは中国料理、
ラオス、カンボジアはインド料理やインドネシア料理の影響が強い。
・ポル・ポト政権のあれは中国がカンボジアで起こした文化大革命。
・南ベトナムの高官は偉そうだったが、北ベトナムの指導者は質素で素朴だった。

我われは本当にベトナムのことをよく知らない。
以下に引用する、この程度の歴史さえ知らない
(知ってもすぐ忘れてしまう)人ばかりだろう。
どうして我われは他国のことに興味を持たないのだろう。
まあ、それは忙しくてそれどころではないからなのだが。それで構わないのだが。
日本のささいな歴史を知っている在留外国人さえそれほどいないような気がする。
そもそも日本人でさえあまり興味を持たない日本の歴史を
外国人が知りたがるわけがない。ベトナムの歴史なんか知ったってねえ。

「ベトナムの歴史は、まず千年におよぶ封建中国の支配に続いて、
九三八年、ゴ・クエン(呉権)が独立をかちとってから約千年は内乱の時代、
一八八四年から一九五四年のジュネーブ協定までは、
主としてフランスの植民地支配と独立戦争の七十年、
そしてさらに抗米救国の戦争が二十年続いて、
カンボジア三派連合、中国との対立の時代になる。
本当に落ち着く間のない歴史である」(P128)


こうして書き写していて気づいたけれど、ベトナムってすごい国じゃないか?
というのも、中国に勝ってフランスに勝って常勝のアメリカも打ち負かしたのだから。

※ベトナムに敬意を表して本日ブログカテゴリーに「ベトナム」を追加しました。

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