「丘の上の向日葵」

1993年にTBSで放送された全12回の連続ドラマ「丘の上の向日葵」をジェイコムで録画視聴。
もはや山田太一の連続ドラマで見ていないのは(シナリオ読了も視聴済みとカウントすると)、
ほぼこの「丘の上の向日葵」くらいなのである。
ちなみに「丘の上の向日葵」のシナリオ本は出版されていない。
このため、長らく「丘の上の向日葵」をまだ見ていないから死ねないというような気分があった。
大げさかもしれないが、こちらにとって生と死を隔てる壁はそのくらいに低い。
見ないで終わるかもと思っていた、いわば幻のドラマを実際にわくわくしながら見てみたら――。

山田太一さんはあちこちで何度も自分はネットは見ていないと公言していらっしゃる。
だから、この記事も万が一にもお目に触れることはないと思って、
山田さんからは「露悪的」「趣味が悪い」と言われかねない下劣な本当の気持を書く。
あれだけの地位に登ってしまった人だから周囲からはお追従しか言われないのではないか。
だから、わたしが書くと正義漢ぶっているわけではなく、
そもそも山田太一さんはネットをいっさいご覧にならないらしいから(大老さすがですぞ!)、
そんな損得計算はどうでもいいことだ。

期待がとても強かった「丘の上の向日葵」はじつに視聴に骨が折れる難物であった。
全12回ということは合計10時間近くあるわけでしょう?
いくら暇なこちらでもほかにやりたいこともあるわけで、
それだけの時間を取るのがどれほどたいへんだったか。
実際、8話で視聴をストップしてしまい、続きを見る気になったのは数ヶ月後だった。
とはいえ、わたしのドラマ感想が「正しい」わけでは断じてない。
基本、ドラマや映画の感想などはそれぞれの人生体験に大きく左右されるものだと思う。
ゆえに人生体験がほとんどない子どもは、
なんでもおもしがれるようなところがあるのではないか。

「丘の上の向日葵」の主人公は美しい妻と娘がいる一流会社の中年サラリーマンだ(小林薫)。
だれの願望かはわからないが(山田太一? 視聴者?)、
日常の味気なさにやりきれない思いをしているこのサラリーマンのまえに
むかし因縁があった美女(島田陽子)が登場する。
細かいところはぜんぶはしょるが、
妻子ある一流会社員の小林薫は美女の誘惑にあらがえず、
最後は三日三晩セックス三昧をする。
じゃあ、妻子を捨てるのかといったらそんな勇気もなく、
一流大学を卒業し一流会社に就職し一流の美人妻をめとり、
そのうえ五体満足のかわいい娘(葉月里緒菜)に恵まれた小林薫は
いままでどおりの元の安定した生活に無傷で帰還する。
露悪的で趣味の悪い言い方をしたら、これは中年サラリーマンの夢をじつにうまく描いている。
ある視聴者層にはとても歓迎された作品ではないかと思う。

しかしだ、しかしね、しかしなんだよ。
当方は時給850円で働く社会保険もなにもついていない中年アルバイト男性。
美しい妻どころか中絶経験多数のアバズレとの結婚でさえもうあきらめている。
子どもなんてもってのほかである。
美しい妻がいるのに女優並みの愛人(ああ女優でしたか)を得ようなんていう、
どこまでも虫がいい底辺を知らぬのんきな男の夢想にまったくシンパシーを感じない。
ひと晩だけでも小林薫さん、奥さんを貸してくださいよと土下座したいくらいの低身分の男だ。
セーラー服を着た葉月里緒菜と公園のベンチで30分おしゃべりできるのなら、
寿命が10年、20年短くなっても構わないと神にでも仏にでも誓えるような男だ。

よしんば山田太一さん本人がこのつたなき感想をお読みになったら、
「露悪的で趣味が悪い。ほどほどにしろ」とお怒りになるかもしれない。
「いくらお辛い体験をしたからといって人間としての質が低いのではないか」と。
たしかにそうなのだろう。まったくそうである。
わたしは露悪的で趣味が悪いために、書籍やドラマ作品を作者の意図どおりに鑑賞できない。
山田太一さんとわたしは趣味レベルや成熟レベルが天と地ほどに差があるのだろう。
しかし、それなのに、いったいどうしてわたしは山田太一のことがこんなに好きなのだろう。
よしんばブログのコメント欄にお言葉をいただけたら、1週間は嬉し泣きするのではないか。

人を好きになるっていったいどういうことなんだろう。
「丘の上の向日葵」にはひとつの回答例が示されている。
人を好きになったら会社や家族のことなんてどうでもよくなり、
ただふたりだけでいたいと思うもの。
わたしは山田太一先生のご自宅の電話番号を知っているがかけることはできない。
だとしたら、これは山田太一さんのことがまだまだ好きではないというなのかもしれない。
いや、そうではないのではないか、という熱い思いもあるのだけれど。
現在80歳の山田太一氏はあと何年生きるのだろうか。
わたしが山田太一さんとお逢いする日は来るのか、それとも来ないのか。
好きならなにもしてもいいのだろうが、わたしは常識に縛られて相手の迷惑をつい考えてしまう。
わたしからは低レベルに思える広く浅い山田太一ファンのほうが、
あるいは氏をより深く真剣に好きなのかもしれない。

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