「怒るヒント」

「怒るヒント」(ひろさちや/青春新書インテリジェンス)

→非常に怒りっぽいひろさちや先生が書いた、日本人よもっと怒れという啓蒙書である。
じつはさ、ばれているかもしれないけれど、ここだけの話、ぼくも怒りっぽくてねえ。
いっとき謙虚になったんだけど、性格というのは変わらぬようでいまではかなり怒りまくっている。
もっとも客と店員というような関係で弱い立場のものには怒れないのだけれど(←偽善者)。
諸事情から時給850円の職場で余儀なく現在のところ働いている。
衝撃だったのは、目が死んでいる男性アルバイトさんががけっこうおられることだ。
喜怒哀楽という感情を失ったかに思える男性パートさんが複数いらっしゃる。
笑うことも怒ることもない。
時給850円なんだから笑わなくてもいいが、せめて怒らないかと思っている。
社員に言われたことはどんないやなことでもイエスと答え怒らない人たちがいる。
いったいあの人たちはどうして怒らないんだろう。
とても怒りっぽいひろさちや氏の分析はある面では当たっていると思う。

「怒らないことが、まるで社会的に経験を積んだ魅力ある人間の証という、
一種の信仰みたいなものがこの国にはあるようです」(P39)


しかし、と怒りっぽいひろさちや氏は続ける。
あなたたちが怒らないのは損をしたくないからではないか?
友人を失ったり、出世できなくなるから、そういう利益目的で怒らないだけではないか?
自分を大事にしないで損得計算をして怒らないのは卑屈ではないか?
しかし、ぼくの見たところ職場の労働者は損得を考えて怒らないのではないような気がする。
ひろ氏は怒るとかならず損をすると書いているが、
年長者には失礼だがそれは世間知らずというもので、
ぼくは怒って得をしたことがいくらでもある。
もちろん、得をしようと思って怒ったわけではなく、単に自制がきかなかっただけなのだが。
怒るという態度には損得度外視の姿勢がある点には著者に同意する。
あるいは、みなさんが怒らないのは以下のことを理解した賢者だからだろうか?

「怒るのは簡単ですから[そうかなあ?]、
どうしてもわたしたちはそこに頼ってしまうんですが
[それはひろさんやぼくだけじゃない?]、
それでは絶対に問題が解決しないということを知っておいてほしいんです」(P175)


いやあ、怒ってはじめて問題が顕在化して解決にいたることもなくはないっしょ?
職場のみなさんはどうせ怒っても無駄だとあきらめているから怒らないのかもしれない。
そもそも、ひろさちやさんやぼくはどうして怒るのだろうか?

「「怒り」の目的は、物事を思うがままにしたいところにあります。
でも、物事なんて相手があるものですから思うままになりません。
それどころか、自分の心一つだって思うがままにならないものです。
それを思うがままにしようとするから、カッとなってしまうわけです」(P172)


さすがは怒りっぽい人だけあって見事な分析である。
ひろさちやさんは怒りをしずめる方法もあまたではわかっているらしい。
それでも怒りっぽさは治らないし、そのうえ本書ではもっと怒れと読者に発破をかける。
怒るというのは自分を善にしてだれかを悪にしたいやしい態度と言えなくもない。
善悪というのが怒りに思いのほか関係している。
まあ、ひろ氏もぼくもできないだろうが、善悪を捨てれば怒らなくなるとはいちおう言える。
なにかのトラブルをだれかのせいにせず(悪人をつくらず)、
「成り行き」だと思えば怒りは理論上はしずまることになる。

「「あいつが悪い」がダメだと思うと、じゃ「俺が悪かったのか」と思う。
それでも当然納得できないでいるうちに、
「どっちが悪いわけでもないな」と理解する。
そこから、「成り行きだな」という考えに到るわけです。
「成り行きだ。これも縁なんだ」という発想にまでたどり着いたら、
まあ自然と怒りが消えていく場合もあるんです」(P147)


こうしたらかならず怒りが消えるとは言っていないのが、
怒りっぽいひろさちや先生らしくて非常によろしい。
そもそも、本書の主張は日本人よ、もっと怒れである。もっともっと怒れ。
損してもいいじゃないか。卑屈になるな。自分を大事にして、もっと怒れ。
ひろ氏は書いていないがぼくは怒るだけではダメだと思う。
ときには笑い、ときには怒れがいいような気がする。
怒っている人や笑っている人は人間味があっていいよね。
怒りも笑いもしない目が死んだ人は単純労働ロボットのようでゾッとする。
もちろん、ひろさちや氏もわかっているのだろう。
そのことは以下の引用文からくみとれる。

「怒るか怒らないか、それは人生をどう生きるかに深くかかわっています。
心のおもむくままに感情を表して、心の求めるままに行動できれば、
そんな幸せなことはありません。
笑いたいときに笑い、怒りたいときに怒る、
それが人生を楽しくするための基本です」(P45)


いっぱい笑ったり、いっぱい怒ったりするほうが人生は楽しい。
ときにはいっぱい泣くのもいいかもしれない。
どうして明るく笑うことばかり推奨され、怒りや涙はよくないとされるのか。
そんな根本的な問題提起が本書の奥底に流れているような気がする。
ぼくは喜怒哀楽が激しい、言い方を換えれば感情を隠せない幼稚な大人だから、
こんな怒ることをすすめるような本をよかったと思ってしまうのかもしれない。

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