「日本人のための世界史入門」

「日本人のための世界史入門」(小谷野敦/新潮新書)

→小林秀雄賞作家の山田太一氏が推薦しておられたので(2013「読書週間アンケート」)、
歴史学とは一切関係ないらしいどこの馬の骨だかわからぬ、
ちょっとネットで調べてみたら悪評ばかり出てくる(すげえ!)
ちんぴらライターが書いた世界史入門書を読んでみる。
なーんて、ごめんなさい、小谷野先生。大ベストセラー、おめでとうございます。
高額の税金を払うとき、ムカムカしませんでしたか? うまく節税できたのか心配だなあ。
専門は恋愛のサントリー学芸賞学者・小谷野敦氏は
薄手ながら本書で偶然史観を打ち立てている。
世界史のあらゆることは本当は因果関係などなく、ただの偶然じゃないのかなあ。
たとえばコロンブスはなぜアメリカ大陸を発見したのか? の問いに偶然と断言する。
足利尊氏は「運が強かった」のではないか、などと、
歴史学の学問性を根本から覆す一見非科学的なことを言うが、
わたしは小谷野氏の偶然史観にいたく同意したいところがある。

歴史というのは、つまり物語である。
物語の内訳は、因果関係(原因と結果)と共時関係(たまたま偶然)である。
天皇家が続いた理由や原因などあるわけがなく、あれはまったくたまたまの偶然である。
もしくはあの一族は足利尊氏ではないがたまたま「運が強かった」。
当方もまた歴史学などとはまったく無縁だが、
学校教育、受験勉強では歴史という物語における因果関係ばかり強調して学んだ。
これが悪影響してすべての事象に原因があるような間違った思い込みを抱くのである。
ほとんどすべての歴史的事件を偶然と片づけてしまう小谷野敦はとても「正しい」。
そして、かつて「なぜ悪人を殺してはいけないのか」という本を出した氏には
表立っては書けないことだろうが、本当のところ歴史的事件に善悪はないのである。
善政も悪政もおそらくないのだろうが、小谷野敦はそこまでは踏み込めなかった。
だが、あと一歩まで行っているし気づいているがまだ言えないのだろう。
学歴差別主義者の小谷野が人権意識のうそ臭さに目がいかないわけがない。
果たしてアメリカの独立戦争(独立革命)は善か?

「……歴史上しばしば現れるこの「宣言」の類は不思議なもので、
リンカーンの奴隷解放宣言にせよ、明治維新の王政復古の大号令にせよ、
結局は戦争に勝たないと有効性を持たない」(P199)


歴史物語はほとんどすべて「勝てば官軍」の世界なのである。勝ったほうが正義だ。
アカデミズムの世界では完全に敗北した自称学者の小谷野敦ではあるが、
まだ勝利へのこだわりを捨て切れていないようだ。やはり勝ちたいという正直者である。
西洋文化が日本を含め東洋文化より優れているとされるのは(象徴はノーベル賞)、
たんに西洋が東洋に一度勝っているからに過ぎないのである。
無理だろうしやる必要もないが、大東亜共栄圏を再構成してアメリカを打ち負かしたら、
わが国の近松門左衛門がシェイクスピアよりも上になるのがいわゆる文化史である。
歴史的事件はすべて偶然(ここまでは小谷野が書いた)。
さらにわたしが追加したいのは歴史的事件に善悪はなし。
歴史的文化に優劣なし。善悪も優劣も「勝てば官軍」の結果に過ぎないと思う。
だが、小谷野は権威の源でもある西洋世界への奴隷的憧憬を正直者ゆえ隠さず書きつづる。

「現在では、西洋中心主義への批判から、
東洋の学問・藝術を高く評価しようとする傾向が一般化しているが[しているかあ?]、
私には依然として、文学も藝術も、西洋での発達ほどのものを
東洋は生み出さなかったとしか思えない」(P186)


自分で問題を作ってみると理解の度合がわかるのである。
高校時代、地学のN先生は自分で問題をつくって答えを書けという出題をされたことがある。
もちろん、記憶問題がまずあり、そこで点を取れなさそうな人への救済策だ。
地学職員室にウイスキーがあり、大学合格の知らせに行ったときご馳走してくれた。
自分で世界史の問題をつくってみよう。
問い――「なぜベトナムは日本が負けたアメリカに勝ったのか?」
答え:たまたまの偶然。
問い――「ベトナムとアメリカのどちらが善である(正しい)のか?」
答え:どっちも善である。どっちも正しい。
問い――「なぜアメリカ文化はベトナムのそれよりも優れているのか?」
答え:あんたさ、ベトナムに行ったことがあるの?

COMMENT

小谷野敦 URL @
09/16 11:36
. 運が良かったのは尊氏のほうじゃなかったかなあ。『考える人』に連載したエッセイで『考える人』が発表媒体の小林秀雄賞をとるとか、人の世は哀しい。
Yonda? URL @
09/16 12:21
小谷野敦さんへ. 

訂正しておきました。早稲田を出てもこんなものです。
足利尊氏も義満も、どっちも変わらないという感覚があります。

> 小林秀雄賞

山田太一さんは『考える人』創刊者の書いた小説の絶賛記事を書いていますし、その小説は読売文学賞を取っていますし、ふたりは仲良く対談していますし、まあ世の中そんなものですよ。

いまから時給850円のバイトに行ってきます。
お金がほしいなあ。少しでも有名になりたいなあ。








 

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