家畜労働

いまのバイト先に勤めてから3ヶ月になるがおもしろくて仕方がない。好き好き、大好きだ。
こんなすてきな職場にめぐりあえたのが不思議でしようがない。
なにがおもしろいって、老若男女、国籍多様、とにかくいろんな人が働いているところである。
下は高校生から上はリタイアしたとおぼしき老人までまんべんなく(本当にどの世代もいる)、
一律時給850円で働いてる(高校生は800円)。
いまだに何人働いているのかわからないところがすごい。
人ってさまざまなんだなあ、ということを身をもって知ることができるのがおもしろい。
あきらかに850円では雇えないような優秀な人もいれば(いるんですよこれが!)、
(わたしをふくめて?)ここでしか働けない(かもしれない)人もちらほら見かける。
この職場がひとつの劇場で自分もキャストの一員になったような錯覚をおぼえるのがいい。
性別、年代、国籍の組み合わせしだいでいくらでも、
いったいどうなるか予想不可能=刺激的な即興劇が繰り広げられるのである。
たまたま偶然のおもしろさに満ちあふれている。
そもそもその日の仕事量も前日にならないとわからないのだから偶然の要素が強い。
毎日がおなじことの繰り返しではなく、働いた日ごとに発見があるのもいい。
おなじ日が1日たりとしてないのである。
ああ、そうだったのか、と気づかされることばかりだ。
インテリにしかわからぬことを小声で言うが、
山本周五郎の「青べか日記」のようなものをこっそりつけたいくらいである。
……傲岸不遜ですんません。

今日は尊敬する西村賢太さんの「やまいだれの歌」を出荷したから、
わたしの労働が賢太さんの飲み代にひと役買っていると思うとひとりニンマリしてしまう。
タイトルは忘れたが芥川賞作品も直木賞作品もこの手で出荷したもんね。
作家先生に感謝してくれとは言わないけれど。

この職場におけるわたしの長所は日本語が通じることとあいさつができることになるだろう。
ほとんど日本語が理解できない人も相当数勤務しておられる。
英語ならどうだろうと試してみたが、日常英会話も通じない世界だった。
日本人でもあいさつができない人がいらっしゃる。
まあ、おれなんかにあいさつされてもうざいことは理解できるから、これはどうでもいい。
でもさ、日本語もあいさつもどうでもいいのかもしれない。
ベトナム人の女の子とかすごいんだ。
わたしの倍くらいの書籍をミスすることなく正確に大量にピッキングしている。
3ヶ月経ってもこちらはミスが多いので変な話、時給をいくらか向こうに渡したいくらいだ。
しかし、ピッキング(数をかぞえる)の才能に恵まれているってどういうことなんだろう?
若さだよなあ、とおっさんとしては思いたい。
日本人の古参女性バイトさんもまったくミスをしないので恐れ入るばかりである。
あと人知れぬ我輩の長所は外国人アレルギーがないところかな。
むかしアジアをふらふら徘徊したことがあるので、あの人たちのよさをよく知っている。

窃視者に徹したいのである。なるべく目立たないように目立たないようにしている。
自己主張はしない。言われたことにはそのまま従う。
今日ちょっとした失敗をしたような気がする。
わたしは13時からだが、仕事まえに昼礼というものがあるのである。
どうでもいいことだが、これがとても好きである。
みんなで集まって指導者の忠告を聞くなんて(高校は自由な校風だったので)、
中学生のとき以来でとても新鮮だ。
ペットボトルはゴミ箱に捨てましょうとか、コンビニのまえでたむろするのはやめましょうとか。
今日の昼礼でライン(並んで本を箱に入れていくこと)の生産性が落ちているという話になった。
だから、ラインが動くごとに笛(ピッピという運動会のあれ)を吹くという話になった。
数週間まえから笛の音が聞こえることがあった。
まるで刑務所にいるようだなあ、という落ちぶれた感が強まってしみじみとしたものである。
生産性を高める(効率をよくする)ために笛を吹きますからね。
ここで古参の男性バイトさんが挙手をしたのである。
社員さんしか発言しない昼礼でバイトさんがいったいなにを言うのか?
「それではまるで家畜労働のようではないか!」

思わず、吹き出してしまった。本当のことだからである。
うまいことを言うと思った。笛を吹かれると家畜にでもなったような気がする。
笑ってしまったのだが、数十人いたなかで笑ったのはわたしだけだった。
やってしまったと後悔する。ここの社員さんはどうしてだか、いわゆるいい人ばかりなのだ。
虚をつかれたといった感じで、それはよくなかったとその場で認めてしまうのだから。
本当にこのバイト先が好きだなと思う。
それは家畜労働だとバイトが言えるのも、言われて社員が反省するのも、どちらもいい。
失敗したのは、ひとりだけ本当のことに思わず空気を読まずに笑ってしまったことだ。
目立たないことばかり考えていたというのに、身体が反応してしまった。
ああん、明日からいじめられたりしないかなあ。
ただでさえかげではどんな悪口を言われているのか妄想爆走中なのに。
しかしまあ、みんなこんなおっさんバイトになんか興味がないだろうから、大丈夫、大丈夫。
今日1日「家畜労働」という単語が何度もあたまのなかでこだまして思い出し笑いをした。
おっさん、きもいよお。

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