「サラの鍵」

長生きしているためか、いまびっくりするくらい大御所になってしまった山田太一さん推薦の
映画「サラの鍵」をジェイコムに加入したこともあり視聴する。
思いっきり通俗的だけれど、最初から最後まで2時間以上ものあいだ、
決して映画が好きとは言えないこちらを退屈させずに引っ張ってくれたのだから、
おそらく思っているよりも相当に大した作品なのだろう。
やはり「真実はなにか?」というテーマは牽引力があると再認識させられた。
ナチス時代、強制収容所から脱走したユダヤ人の少女はその後どうなったか
を現代の女性ジャーナリストが追う。
なぜサラという少女が脱走したかというと憲兵に一家が捕まる際、
とっさの判断でよかれと思い幼い弟を納戸に隠し、そのうえ鍵をしてしまったからである。
「かならずまた来るから待っていてね」と約束をして。
かなりの日数が経過したのち、サラが弟を助けに行くと壮絶な腐乱死体になっていた。
自分が弟を殺してしまったようなものである。姉弟の両親は強制収容所で死亡。
救いのない話はつづき、サラは大人になってからひとりアメリカに行く。
結婚はしたもののうつ病になりアルコールとドラッグにのめりこみ、
最後は9歳の息子を遺して自殺である。
せっかく収容所から逃亡できたのに最後はみずから命を絶ってしまうという。

サラの夫の言うセリフがよかったなあ。
サラを亡くしたあと再婚した夫は娘をひとりもうける。
男は死の直前、母親のサラの過去をまるで知らなかった50歳になる息子に伝えるのである。
「おまえのお母さんは、私が出会ったなかでもっとも美しい人だった」
「そして……もっとも悲しみをうちに秘めた人だった」
悲しみが美しさになるという世界観がとてもいいと思った。
悲しみに美しさが宿るというのはフィクションなんだろうが、
せめて映画ではそういう夢を見たいじゃないの。
とても秀逸な娯楽映画だったとは思うが、最後は「うーん」と思ってしまった。
社会派で正義心の強い美人ジャーナリストが妊娠しているんだ。
しかし、夫婦ともに高齢なこともあり、やり手の商売人の夫からは中絶をすすめられている。
映画は大衆娯楽だからそうしなきゃならないのはわかるが、
迷わせたすえにジャーナリストは子どもを産むことを決意する。
いや、いいけれどさ、映画なんぞしょせんは金儲け目あての大衆娯楽なんだから。
しかし、この映画は中絶経験、堕胎経験を持つ女性を傷つけるのではないか。
この映画のような金持夫婦はいいけれど、貧乏人なんか変な自己満足から
子どもを産まないほうがいいケースも多々あるような気もするが。

真実を知ることはいいことだというメッセージ性も、さあどうだか。
サラの息子は母親がユダヤ人で壮絶な過去を持っていたことをなにも知らなかったのである。
にもかかわらず、おかしなジャーナリストが真実をほじくりかえしてしまう。
その結果、母が自殺をしたことがわかってしまった。
知らなかったほうがいいということもたぶんにありうるとは思うけれど、どうだろう。
「中絶はするな」「命はたいせつ」「真実は知るべきだ」という、
あくまでも大衆ジャーナリズムの通念にのっとっているのが人によっては気になるだろう。
もっともこれは視聴後のひねくれた考えで、
映画を見ているあいだは物語に引き込まれ、いわゆる通俗的な感動をさせていただいた。
なんだかんだ訳知りなことを書いたが、とてもいい映画だった。
どんなつまらない労働に毎日明け暮れていても、
週に一度くらいこういう映画を鑑賞できたら、
あるいは生きる張り合いが生まれるのかもしれない。
映画は、どこまでも味気ない生活を営む大衆の日常を飾る造花なのだろう。

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