「河合隼雄全対話3 父性原理と母性原理」

「河合隼雄全対話3 父性原理と母性原理」(河合隼雄/第三文明社)

→河合隼雄さんって本当に現実を知っていたのかなあ。
というのも、基本的に有料カウンセリングに来るような人は知的水準が高い富裕層なのだから。
ということは、カウンセラーは知的水準の低い貧困層の現実を知りえないことになってしまう。
しかし、そもそも共有される唯一の現実なんてない
というのが河合隼雄の根っこのような気がするから、
だれそれは現実を知っているだの、現実を知らないだのと論じることがアホらしいことになる。
それぞれの現実がそれぞれ本当で、それぞれ人の数だけの世界しかありようがない。
他人の気持とは、他人の世界のことなのだろう。
ならば他人の気持などわからないというのは、他人の世界は理解しようがないということになる。
人はわかりあえない。人の気持がわかる人というのは、
他人の気持(世界)がわかりえないことの測り知れなさを
徹底的にわかった人なのかもしれない。
ふたりの人が真剣に向き合ったとき、
相手の気持(世界)がわからないことをどこまでも知りながら、
それでもわかろうとする態度を取る相手に苦しんでいる人間は救われるのだと思う。
わからないながらもわかろうとするところに希望があるのかもしれない。
そのためにはわからないことを深くわかっていなければなるまい。
相手の気持は理解できないが、しかし――。

「男女なんていうのは理解し合うことはありえない。
分かり合うことがありえない相手に対して一緒に住んでいこうというのは大変なことです。
そのために演技に命をかけるというのが愛情だ、
という言い方もできるのではないでしょうか」(P33)


相手の気持は理解できないが、しかし、演技に命をかけることならできるのではないか。
演技というのは嘘であるけれど、だがしかし、嘘に命をかけたらばどうなるか。
そのとき嘘も本当になるのではないだろうか。
そもそもなにが演技ではない「素」なのかも考えてみるとわからなくなってくる。
最後まで演技(嘘)だとばれなかったものが本物の愛情(本当)になるのだとしたらどうだ。
演技に命をかけるのが愛情ならば、本当のことはそうそう言ってはならない。
与えられた役を嘘でもいいから命をかけて演じていたら、ときになにかが起こるのではないか。
もしかしたらそれぞれの世界しかないにもかかわらず、
たとえそうだとしてもわが国にもれっきとしたみんなの世界がある。それは昔話である。
男女(人間)は永遠にわかりあえなくても、出会って別れるくらいならできるのだろう。
みんなの世界である昔話は本当なのか嘘なのか。

「昔話で言うと、日本の場合は女性がプロポーズするのがものすごく多いんです。
そしてだいたい男はすぐ「うん」と言っている(笑い)。
相手の素性も分からずに言っている。
しかもそれが話の終わりではないんですよ。結婚で終わらないんです。
結婚から始まって、そして女性が消え去るところで終わるわけですね」(P67)


もう一度会いたくても会えない。消えてはじめて相手のありがたさがわかる。
昔話のようなことが現実に起こる人も起こらない人もいるのだろう。
しかし、起こるか起こらないかは死ぬまでなんぴとたりともわからない。
この「わからない」がみんなの世界(昔話)の救いなのだと思う。
ユング心理学のいう「無意識」とは、自分でも自分がわからないこと。
人間の絶望は自分さえ理解できない当人が決して相手(の世界)を理解できないこと。
かりに希望があるとしたらみんなの世界である昔話なのかもしれない。
この昔話を信じることができたら、
どんな孤独な男性でも毎日毎日、明るい人の演技ができるようになるのではないか。

「私が昔話の中の女性像でいちばん感心したのは「炭焼き五郎」という話です。
これは「炭焼き五郎」と題されていますが、むしろ中心人物は女性なんです。
いろいろありますが、私が取り上げたのは鹿児島県のもので、あらすじはこんなものです。
高い運命に生まれた女と低い運命に生まれた男が結婚させられる。
ところが男があんまりばかなことをするので、女は夫を捨てて家を出てしまう。
門を出ると、二柱(ふたはしら)の倉の神さまが話をしていて、
炭焼き五郎というすばらしい男がいると聞いて、
女は炭焼き五郎のところに押しかけていく。
炭焼き五郎は無一物だからと断るのに女は無理矢理に結婚する。
結婚してから家の中を見ると、釜(かま)いっぱいに金(きん)が詰まっている。
炭焼き五郎は無学だから、値打ちがあることを知らなかったわけです。
それを女が教えて、二人はたいへんな長者になったというわけです。
ヴァリエーションはいろいろありますが、
ポイントは、男は自分が金を持っているのを知らないのに、
それを押しかけてきた生まれのよい女の力によって知らされるというところです。
女性自身は金を持って生まれていたわけではないが、呪術能力みたいなものでしょうか。
男のもっている能力を引き出す力をもっている」(P186)


いまの日本では多くの男女が恋愛結婚しているのだから希望がある。
こんな男でも、と思うような人が結婚していたりするのだから現実は理解不能でおもしろい。
それぞれの女性がそれぞれの男性のうちに眠る金(きん)を見つけているのだと考えたら。
世のすべての男性よ、自信と希望を持とうではないか。
自分という倉(くら)のなかには金がたっぷりと詰まっている。
たまたま機縁が熟さないためにまだそれがわからないだけなのだ。
他人の金を見つける名人というのがいるのかもしれない。たとえば河合隼雄さんのような――。

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