「騒音文化論」

「騒音文化論 なぜ日本の街はこんなにうるさいのか」(中島義道/講談社+α文庫)

→カント信奉者の中島義道さんの存在を知ったのは自らの病気がきっかけだった。
8年まえだったか、いきなり騒音恐怖症になってしまったのである。
スピーカー音がやたらうるさく感じられ抗議してやめさせたくなるノイローゼだ。
とくによく喧嘩をしたのは共産党員および支持者のスピーカー演説だ。
だれも聞いていないだろう、やめろ。いや、みんな聞いている。おまえも聞いていけ。
ときにはつかみ合うような傍から見たら滑稽極まりない恥ずかしい喧嘩を何度もした。
石焼き芋にうるさいと言いに行ったこともある。
りんりん餃子という名前の移動販売車とは繰り返し言い争いをしたものである。
あるときネットで相談したら、
中島義道という哲学者がおまえとおなじことをしていると教えられた。
恥ずかしながらそのときまで有名な哲学者の中島義道先生を存じあげなかった。

中島さんの騒音関連本は読んだら絶対に病気が悪化するからいままで禁書にしていた。
長いこと積ん読していた本書を開いてみたのは、
8年かけてそろそろかなり改善したのではないかと思われたからである。
いまや相当程度の騒音にもあきらめて我慢することができるようになっている。
8年かけて自然に騒音が少しずつ気にならなくなったのだ。
あんがい中島義道さんもいまは騒音恐怖症が治っているのではないだろうかと思う。
本書で知った「戦う哲学者」中島義道のご活躍ぶりは雄々しい魅力にあふれている。
中島さんの世馴れたところは騒音抗議の最初にまず名刺を差し出すところである。
「電気通信大学教授・哲学博士」(当時)と肩書が入った名刺をまず手渡す。
あるいは自分は大学教授であると名乗り、暗黙裡におまえよりは知的に上なんだと威嚇する。
中島義道さんのこういう世間知にまみれた姑息な態度は評価がわかれるだろう。
とはいえ、わたしでもそんなご大層な肩書があったら絶対に使うから、
計算高い中島さんをこずるいなどと一方的に裁くことはできまい。

本書で解説をしているのがストーカー加害の前科を持つ、
いまは夫婦そろって作家をなさっている小谷野敦氏である。
おなじく東大卒の男ふたりはよく比較されることが多いけれど、
以前犯罪行為を平気でできる小谷野氏に軍配をあげたことがある。
しかし、本書を読んで中島義道さんもぜんぜん負けていないぞと嬉しくなった。
なんでも早朝のスピーカー放送をやめない自治会長の家に深夜3時、
東大卒の中島哲学博士は無言電話を数度繰り返して痛みをおすそ分けしたそうである。
それってほとんど犯罪じゃんと中島さんの行動力に改めて敬意を表した。
この「自分は絶対に正しい」という信念は東大卒ならではだと思う。
そうだとしたら、東大なんて落ちてよかったのかもしれない(負け惜しみ)。
中島さんは照明過敏症でもあるようで、抗議活動の記録が本書にある。
いわく、看板の照明が過剰なラーメン屋の善良夫婦を、
大学教授の肩書を盾にしてなかば脅したようである。おれがいやだから照明を消せ!
おれは東大卒だから、哲学博士だから、大学教授だから、
ラーメン屋の無学な夫婦よりも正しいのだ。
ここはさすがにラーメン屋夫婦に同情してしまったわたしは間違っているのだろう。
あるいはこのために8年もの時間はかかったが騒音恐怖症が軽減したのかもしれない。

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