「いいね!」の功罪

この齢まで生きてわかったのは、おそらく他人の評価はコントロールできないということです。
こちらがいくら思案をめぐらしても他人の評価ばかりはどうにもなりません。
他人の好き嫌いはそうそうコントロールできないということであります。
とはいえ、まったくの無力ではないような気もしています。
受賞歴多数のノーベル賞候補作家、井上靖氏は評価の得方を理解していたようです。
お嬢さんの回想記にお父さまの文学賞の取り方が書かれていて勉強になりました。
他人から評価されたかったら、まずこちらから評価するといい。
井上靖氏はこうしてあまたの文学賞をゲットしたとのことです。
閲覧したことはありませんが、たぶん現代のフェイスブックでもおなじですよね。
こちらが「いいね!」を押したら相手もおなじように「いいね!」と支持してくれるでしょう。
「いいね!」を送ったにもかかわらず
「いいね!」を返してくれない人は礼儀知らずになるようです。
ネットのみならずリアルでも「いいね!」をばらまいたほうが自分も評価されやすくなります。
批判すると相手から恨まれますので「いいね!」はリアルでも十分に活用できるはずです。

しかし、「いいね!」にもデメリットがあります。
なんでもかんでも相手および作品を「いいね!」と評価するのは、
嘘をばらまいていることになります。
人は本当よりも嘘を好みますから「いいね!」自体は濫造すべきだと思います。
ところが、「いいね!」ばかり頻用していると、
今度は他人の「いいね!」が信じられなくなるのです。人間不信になってしまう。
相手の「いいね!」も本心ではなく自分におもねっているだけのような気がしてきます。
いくら相手を傷つけないために優しさや思いやりから「いいね!」を連発している人格者でも、
こればかりはどうにもなりません。
相手の「いいね!」がどうしてもお返しの「いいね!」のように思えてしまいます。
自分とは損得関係のある人の「いいね!」は信用していいのかわからなくなります。
他人をけなしてばかりの嫌なやつからほめられてはじめてホッとすることもあるでしょう。
これは、世渡り下手の嫌われものの舌しか信じられないということです。

もう一度話を最初に戻して、評価の得方をわかりやすく申し上げますと――。
バレンタインにチョコをあげたのにもかかわらず、
ホワイトデーにお礼を返してくれないやつは八つ裂きにしてもいい礼儀知らずですよね。
同様、「いいね!」をくれたのに「いいね!」を返さないやつは無礼極まりない。
大人社会は「礼に始まり礼に終わる」に尽きます。
世の中はこういうふうにまわっていることを、
元毎日新聞記者で芥川賞、野間文芸賞、菊池寛賞、読売文学賞、朝日賞、文化勲章作家の
井上靖氏は熟知していました。
氏は上記以外にもたくさんの賞を獲得した世にも恵まれた作家であります。
たいへん人づきあいのうまい作家でしたが、
ノーベル賞だけは取れなかったのはご愛嬌というものでしょう。
誤解があるといけないので最後に断っておきますが、わたしは井上靖の小説が大好きですよ。

(関連)「父・井上靖の一期一会」(黒田佳子/潮出版社)

COMMENT









 

TRACKBACK http://yondance.blog25.fc2.com/tb.php/3606-aada2e39