「<男の恋>の文学史」

「<男の恋>の文学史」(小谷野敦/朝日選書)

→人はみな仏性(如来蔵)があるのかという論争が仏教史にはある。
本書で「もてない男」の著者が提示しているとわたしが感じたところの問題は、
人はみな男も女も恋愛性(恋愛蔵)があるのかどうかである。
一般論(常識)では女のほうが恋愛性が強いのではないかということになっている。
比較して男は性欲ばかりで恋愛性をほとんど持ち合わせていない。
女は男に尽くし、男は女に経済的な援助と肩書の威光を与えるというのが大方の男女関係だ。
これは男は女たる母親から世話されてきたからだというのが著者の説である。
しかし、と「もてない男」は主張する。
男だってみな女のように愛したいのではないか。
とはいえ、男は女を愛する技術を学んでこなかった。
歴史的に見れば、「もてない男」が日本近代以降はじめてトライしたところの「男の恋」は、
俗にストーカーと言われる犯罪行為だったわけではあるけれども。

それでも小谷野さんの説はたしかにそうで女が男を愛する方法は数あれど、
男は女に経済的援助(プレゼント)をするくらいしか愛を示すことができない。
ああ、芥川賞作家の西村賢太氏のようにクンニはできるがあれは性欲だろう。
まったく小谷野さんの言うとおりで、男は女から愛されるのを求めるばかりで、
金品を与える以外に愛を伝達する方法はない。
女は身体や家事、安心を男に与えられるけれど、男は意外になにもできないものである。
せいぜい女のわがままに振り回されてやるくらいだろう。
この点、恋愛性は女固有のもの、恋愛は女主導のものと言えよう。
「恋に恋する男」の著者は、これはいかん、「俺も女を泣かせてみたい」と思ったのかどうか。
果敢にストーカーを成し遂げ、別の意味で女を泣かせてしまった恋愛番長である。

どうでもいいわたしの話をすると、仏性のみならず恋愛性も乏しいような気がする。
女から愛されたいという自分勝手な煩悩は人並みにあるが、
ストーカーまでして女を泣かせてみたいというほど深みのあるものではない。
娑婆っ気たっぷりの恋愛性に恵まれた小谷野博士がどこかうらやましい。
なお本書のオリジナルは小谷野さんの博士論文とのこと。
こちらのあたまが悪いためだろうが、
むかしの恋愛博士の文章は知的デコレーション過剰で(俺って物知りだろ!)あんまり……。
いまのほうがよほどいい。小谷野さんはこれからもっとよくなるだろう。
小谷野さんのどこがすごいかと言ったら「男の恋」を論じるだけではなく、
行動に移してしまうところである(ストーカー!)。
脳内妄想だけで実際の犯罪行為はしない中島義道哲学博士よりも笑え、いや勝れている。
今後も言論と行動の両輪で我われを唖然とさせてほしい。
どうかケチな常識を揺さぶってください。期待しています。

「もてない男」の恋愛論は鋭い。
当時どうやら比較文学者(なにそれ?)だったらしい著者は主張する。
恋愛は統計を基にした心理学や社会学ではとらえられない個別性があるのではないか。
若き青き小谷野博士、熱い熱い、あっちっちだぜ~。

「だが、「恋愛」には、そういった物差しでは計りきれないなにか、
いいかえれば「個人性」とでもいうべきものがあるのではないか、と私は思うのだ。
たとえばひとりの男(女)がひとりの女(男)を好きになる、あるいは失恋する、
といった場合、周囲の人間から見れば、なぜあんな女(男)がいいのだろうとか、
いい女(男)はほかにいくらでもいるのに、という言い方ができる。
しかし恋をした男(女)にとっては、そのたったひとりの女(男)が、
この世で掛けがえのない「単独」な存在なのであり、
そのとき彼(彼女)自身も、自分の存在の単独者性を発見する」(P5)


だとしたら、恋愛は「自分探し」の一形態であると言うこともできるのかもしれない。
「自分」を探して人は異性の大海を航行する――。
もっともむかしの著作なので、いまは著者の考えも変わっているかもしれないけれど。

COMMENT

naonao URL @
05/10 13:32
. こんにちは。

やっぱりこれもコメントします。

このエントリについては「え、そんなことないと思うけど」満載でした。


>金品を与える以外に愛を伝達する方法はない。
女は身体や家事、安心を男に与えられるけれど、男は意外になにもできないものである。
せいぜい女のわがままに振り回されてやるくらいだろう。

ってところが特に。

え、男は女を抱いてやれるし、高いところのものを取ったり重たいもの運んだり機械設定したりしてやれるし、安心を女に与えられるんですけど?
「彼がいないと何もできない」って思うだけの愛と便利と安心を、男は女に与えられる。
深く誠実に女を愛し、包んで、尽くす男たち、たくさんいますよ。

女は愛されるために生きてる可愛い生き物で、男は女を愛するために生まれた生き物だ、という考え方の人もたくさんいます。

たぶん男がいなけりゃ電気とか水道とかガスとか便利な道具も発達するのめちゃくちゃ遅れるだろうし、ウニやホヤやフグも食べてないかもだし、音楽も建築も料理も衣類も女が大好きなもの全部、たいてい男性が生み出してくれたから享受できてるわけで。

男がいなけりゃ派手な犯罪や戦争は起きにくいだろうし、男にひどい目に遭わされてる女はたくさんいるし、恋愛脳になりがちなのは女だけど、「女を振り向かせたい」が偉業達成のモチベーションだったりもしますよね。

愛されない女は、愛されない男よりずっと悲惨だと思います。

金、肩書、ルックスの揃った男よりも、無職のヒモでもちゃんと愛を語り抱いてくれる男を選ぶ女のほうが多いと思います。
Yonda? URL @
05/10 21:43
naonaoさんへ. 

最近、自己評価が時給850円まで低下したので、
恥ずかしながらだれかに構ってもらえるだけで嬉しいです。
卑屈な態度のせいでいやなご気分になりましたらごめんなさい。
くだらぬ読書感想文へのコメント、どうもありがとうございます。

真理(真実)は人それぞれだと思います。
naonaoさんのご意見はその通りではないでしょうか。
なぜならnaonaoさんの人生体験から導き出された真実だからです。
根本にある考え方は「真理(←その人の体験)」です。
それぞれの体験があるがゆえに、真理は人それぞれになるのだと思います。
だれも間違っていない。みんな本当のことを言っている。
なぜなら、それぞれの真理が、
それぞれの体験(見聞ふくむ)によるからです。

> 深く誠実に女を愛し、包んで、尽くす男たち、たくさんいますよ。

きっとそうなのだと思います。
とはいえ、人それぞれで、わたしは機械設定が女よりも不得意です。
男の本音はみんなそうではないかと疑っていますが、
腰が痛くなったりするので重いものを運ぶのは嫌いです。
たとえば、どうしておなじ時給なのに男ばかり重労働なのか、
と男らしからぬ疑問をいだくこともなくはありません(たまにですよ)。

> 男がいなけりゃ

女がいなけりゃ……と考えてみました。
女がいなけりゃ、まあ人類は滅亡しますが、
それがいいことか悪いことかはわかりません。
あんがい、いいことかなあ。
そんな不穏なことを一瞬だけ考えてしまったことを懺悔します。

> 「女を振り向かせたい」が[男の]偉業達成のモチベーションだったりもしますよね。

偉業を達成して女が振り向いてくれたとしても、
それはたまたまの偉業に対して屈服しているだけではないでしょうか?
交際以後に男を偉業におもむかせた女は見る目があると思います。
偉業達成後に色目を使ってくる女は犬以下の視覚、嗅覚と言わざるをえません。
犬でさえ、貧富を問わず飼い主には忠実なのですから。

人嫌いなのか、女嫌いなのか、わかりません。
思っている以上に人が好きなのかなあ。
女が好きだから、理想があるのかなあ。
まあ、わたしのことなんてどうでもいいんですけれど。
長文の最後にこそっと書きます。
いま思い返してみたら(記憶違いの可能性あり)、
人生で女におごった回数よりもおごってもらった回数のほうが多いような……。

いま人生を謙虚に反省しています。
これからは少しでも立派な人間になりたいでございますです。
頼れる男には、とくになりたくありませんけれど。
naonao URL @
05/13 00:43
. レスを拝見して振り返ってみましたが、私は男性にご馳走してもらうよりご馳走した金のほうが多いです(父、親類除く)。

お金も体力も機械設定も気遣いも、できるほうがやればよいのだと思います。

私、人間好きというより男好きで女好きだなーと思います。
「男」が好きなんですよ。
稼ぎとか便利さよりもっと本質的な男性性ならびに人間性をyonda?さんはお持ちだと思いますよ。

お金がないのはしんどいし心許なくなるものだと思います。
卑屈になってるとおっしゃいますが、いやな卑屈さではないですよ。

金といえば、最近の与沢翼さんご存知ですか?
「秒速で億を稼ぐ男」「ネオヒルズ族」としてブイブイ言わせ、最近「秒速で転落した男」。
佐村河内さんに負けずに面白いキャラ、生き様(笑)だと思うので、見解伺ってみたいです。
Yonda? URL @
05/13 23:21
naonaoさんへ. 

自分語りしまーす。
嫉妬(女偏×2)と縁遠いという点では、
たしかに男男しているのかもしれません。
成功者(権力)へはいちおう礼儀として嫉妬しますが、
いわゆる人間関係で(男女関係でも友人関係でも)
嫉妬という感情が非常に希薄になっています。
だれかを独占したいという女っぽい感情とは無縁です。

文章はお化粧だと思います。
化粧ができない男でもいくらでも文章でなら変身することができる。
むかしの文豪が男ばかりなのは、こういう事情によるのかもしれません。
お化粧したい。変身したい。自己を偽りたい。

与沢翼さんは漫画ウシジマくんで知りました。
ネットで調べたら、いま失墜中(転落中)だとか。
個人的な直観ですが、あれはネタ(ウソ)だと思います。
あの人はまだお金があるでしょう。
おそらく新たな売名行為ではないかと。
おのれの「うさんくさいセンサー」がピカピカ光っています。

丸一日、単純労働をしながら、
いただいたコメントにどう返答しようか考えていました。
いやあ、人間関係っていいもんですね。
だれかがいっときでも自分ごときに
関心を持ってくださるというのがどれほど嬉しいか。








 

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