「どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」

「どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」(中島義道/角川文庫)

→著者が信じるところの「本当のこと」が書かれていてとてもよい本だった。
感想としてどこまで「本当のこと」を書いていいのか迷う。
あとがきで知った自殺したKという美青年の話がまぬけでやりきれなくなった。
既婚者のKは中島義道の大ファンで、努力してようやく子分まで昇格したらしい。
どうやら中島の本を読んで死にとりつかれたようである。
愛妻も定職も手にしているのに中島義道にだまくらかされて
自殺願望を持つにいたったのが、美青年のKという男である。
Kは見事なまでに弱く、成功者の中島にコントロールされてしまったわけである。
美青年の子分から崇拝された中島義道はそれなりにいい気分だったであろう。
「おれもまんざらなもんじゃないな」とほくそ笑んだと思う。

完全に中島に依存した子分のKは、
なんとかして成功した有名な哲学者をコントロールしようと自殺をにおわせる。
自殺直前にKは崇拝する有名人の中島義道に電話をかける。「話を聞いてもらいたい」
うざいなと思った中島はどう答えたか。「自分で解決しなさい」
中島はKとは異なり取り巻きがいくらでもいるのである。
中島が一声かけたらいつでも飲みに呼び出せる子分の編集者が30人もいるという。
Kは妻にしか相手にされないが、成功者の中島義道はそうではないのである。
教祖の中島義道に振り向いてほしいと思ったKの電話は健気で哀れで愚かである。
それに対して素っ気なく「自分で解決しなさい」と突き放す中島も味がある。
結果、当てつけのようにKは自殺したという。
こうしたら死後も中島をコントロールできると無意識では思っていたのか。

子分の美青年Kが死んで教祖はいっぱしに悲しみの陶酔にひたる。
わざわざ遺された妻と遺品整理をする徹底ぶりである。
中島は妻からこう言われたという。
「もう毒をまき散らすような本は書かないでください!」
妻もみじめである。
中島は妻の気持なんてまったく配慮しないでその後も好き勝手に書き続けるのだから。
内心では妻から夫を奪ったようなコントロール快感を味わっていたのかもしれない。
中島はさっそくKをメシの種として本書のような書籍を仕上げる。
Kの妻がそういうことを書かれたらどういう気分になるかなんて知ったことか、である。
中島は生きているのが楽しい。どうだ、この生きる快さよ!
美青年が大勢自分を慕って集まってきて、なかには特攻隊のように殉じるものまでいる。
どれだけ自分は世界をコントロールしていることか。見ろ、世界よ、おれの輝きを。
哲学者の中島義道はうっとりするほど美しい。

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