「遠い雲」

巨匠(?)木下恵介監督の賞味期限が完全に切れた、つまり腐った作品である。
ゲテモノ食いが好きな人や味覚の鈍麻した老人に支持されることもあるのかもしれない。
ギリシア悲劇の時代から変わらぬドラマ法則「ふたつにひとつ」に忠実な作品だ。
昭和30年公開の白黒映画「遠い雲」の「ふたつにひとつ」は「世間体か恋愛か」である。
若くして未亡人になった高峰秀子が、世間体を重んじて亡夫の弟と結婚するか、
それとも幼い娘を捨てて美しき恋愛(笑)相手と駆け落ちするか最初から最後まで迷う。
白黒映像を見ながら終始思っていたことは「どっちだっていいじゃん」である。
どうせどっちと結婚したところで、
まあそんなに男なんて変わりはないよと助言したくて仕方がなかった。
烈しい恋愛で結ばれたって、どのみち数年もすればさめるんだからさ。
だったら、義理や損得で結婚したのと変わらないとちがいまっか。
現代的見地からしたら、恋愛だって世間体なわけだよ。
恋愛しないとダメみたいな最悪な世間風潮がいまはあるのではないか。
むかしは冒険だった恋愛がいまではすっかり世間体になっているような気がする。
ひねくれたことを言うと、
いまでは恋愛なんてしないほうが英雄に近いと個人的には思っている。

当時流行の恋愛思想に洗脳された文学青年がうざくて、むしろギャグみたいで笑えた。
「きみは飛ばないのか?」なんて女を口説こうとする旧時代的な青臭さが失笑もの。
だいたいさ、いい歳をした男がやわな恋愛妄想にうっとりするなんて恥を知れ馬鹿者が!
恋愛信仰殉教青年のうっとうしいセリフをひとりゲラゲラ笑っていたから、
もしかしたら他の観客(死にかけた老人ばかり)のご迷惑になっていたかもしれない。
しかし実際にすすり泣く声とか周囲から聞こえていたが、
あんたら認知症(ボケ)のほうは大丈夫かい?
恋愛なんて邪魔がいないと成立しない美男美女の特権的遊戯でしょうが。
いくら醜い老人だからって、そんなおいおい泣くなよ。
もてる姉に嫉妬する意地悪な妹に強くシンパシーを感じてしまった。
こういうおれみたいなやつがいないと恋愛劇は成り立たないんだから、
これを読んでいる恋愛中毒の美男美女どもはおれさまにちゃんと感謝しろよ!
映像は男がみんなおなじ髪型でだれがだれだかわからなくなることがあった。
音声は途切れ途切れだったが、まさかあれは演出ではなくフィルムの障害だろう。
12月1日、池袋の大入りの新文芸坐にて鑑賞する。

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