「心の闇に魔物は棲むか」

「心の闇に魔物は棲むか」(春日武彦/光文社知恵の森文庫)

→副題は「異常犯罪の解剖学」。
凶悪犯罪を起こしても、精神病と認定されたら、
責任能力なしでほとんど無罪放免になるわけだが、だれがそれを見極めるかといったら、
精神鑑定医つまり精神科医なのである。
どうでもいいことかもしれないが、本書によると精神鑑定医はコネで決まるらしい。
さて、では、ある犯人が精神病かどうかというのは皆目一致の見解があるものなのか?
もしかしたらかなり恣意的(適当)にふるいわけられているだけではないか?
本書で春日武彦氏は自身の臨床体験をもとにして問題提起する。
わたし個人としては、人生は不公平なものでほとんど運であるというあきらめがあるから、
精神病で責任能力なしと判断された犯人は幸運だったのだろうとしか思わない。

春日医師の本のおもしろさは、狂人をコミカルに描くところである。
鋭い論考や社会問題提起よりなにより、春日氏独自の症例報告みたいのが楽しいのだ。
春日先生には「今まで出逢った狂人たち」といった集大成をいつか書いてほしい。
いまくらい偉くなったら、多少人権やらなにやら無視しても、
そういうキャラクターだとすでに認知されているから、
相当に不謹慎な笑えるものが書けるのではないか。本書ではここがいちばん笑えた。

「名刺というものは、なかなか興味深い。
自己紹介の道具として名刺は印刷され配られるわけであるが、
そこに自己顕示欲だとか見栄、表現欲求や世俗的な思惑などが込められて、
ときおり奇妙な名刺が出現する。
発明妄想に取り憑かれた統合失調症患者の自宅を訪ねたときは、氏名と一緒に宋朝体で
「宇宙大ストリップ学」と記された名刺を本人から貰ったのであった。(中略)
自作の小説のタイトル(自費出版)を並べた名刺を配る神経衰弱気味の若者は
うんざりするほど物悲しかったし、
親指の爪よりも大きな活字で自分の名前を名刺へ印刷したジャーナリストには、
どこか精神的に不安定なものを感じずにはいられなかった。
さて、かつて勤めていた病院に、躁病の精神科医がいた。(中略)
その躁病のS医師が、名刺を新しく刷ったからとわたしにくれたことがある。
びっしりと肩書が添えてあって、まこと権威主義的かつ威圧的な名刺だった。
実家が会社を経営していて、その関連の役員だったりするのはともかくとして、
昭和○年医師国家試験合格だの、ナントカ新聞健康欄寄稿だとか、
どうでもいいことまで書いてある。もはやキッチュとしか言いようがない。
苦笑せざるを得なかった」(P206)


名刺ではないが、ブログのプロフィールが異常に長い人も笑える。
自称カウンセラーみたいのが、長々と小学校の思い出から書きつづっていて、
心を病んでいるのはおまえのほうではないかと思わせるものがある。
精神科医の春日武彦氏の本を読んでわかるのは、
狂うというのは自分をこじらせるということなのかもしれない。
そして、春日医師もその愛読者(わたしのこと)も見事に自分をこじらせているのが物悲しい。
そしてそして、ちょっとだけ笑える。この自嘲の笑いが救いなのだろう。

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