「偽善の医療」

「偽善の医療」(里見清一/新潮新書)

→医者の本音が書かれた本ゆえペンネームだが調べればすぐに本名が出てくる。
国立がんセンターに長らく勤務していた医師である。
本音だから、医師なんて割に合わないと最初からぶちまける。
子どもや身内から医者や看護職に就きたいと相談されたら、即刻やめろと著者は言うそうだ。
なぜなら医者の場合、開業医はそうではないが、勤務医は給料が安い。
そのくせ理不尽な要求にさらされ、感謝もされず、ミスをしたら刑事罰を問われる。
どのみち就いてもモチベーションが長く続かないからやめたほうがいい。
がん専門医としていちばん困るのが、もはや打つ手がないときだという。
このような際、多くの患者はなにもしないよりもなにかしていたほうがいいに決まっている、
という誤った思考におちいりやすいので説得するのに骨が折れる。
ダメでもともとでいいから、なにかしたがる患者や家族が多い。
しかし、金はかかるし、副作用で苦しむのは患者自身なのである。
失うものはないというが、下手をしたら家族と話す時間までなくなってしまうことになる。
それでもなにか治療法があるのではないか、と食ってかかる患者や家族がいる。
あきらめないことが肝腎だ。希望をくじくようなことを言うな。
余命3ヶ月と言われて奇跡的によくなった人もいるではないか。
どうしてあんたはネガティブなことを言うんだ。もっとポジティブな医師がいい。
ネガティブはやめろ! ポジティブが健康にいいんだ! おまえは本当に医者か?
アメリカの科学でもポジティブの正しさは証明されている。もっとポジティブになれよ!
こういう患者や家族が怪しげな民間療法でぼったくられているようだ。

「野暮を承知で、また繰り返しになって恐縮だが、これは覚えていただきたい。
医者にとっては「もう無理だ、やめよう」というよりも、
「駄目でもともとだろう、やってみよう」という方がはるかに楽である」(P167)


しかし、やっても患者の苦しみと医療費が増すだけらしい。
それから著者は病名の告知はすることにしているという。
どうせ隠しても、待合室で別の患者が教えてしまうのだという。
がん患者は自分の体験から、それなら本当はこのレベルよ、と親切(?)をするのが常だ。
患者同士の会話で誤った知識を持つくらいなら(自殺騒動まであったとのこと)、
最初から本当のことを言ったほうがいいと著者は考える。
なお、著者はタバコは吸わないが、
がん病棟にも喫煙室はあってもいいのではないか、と指摘する。
タバコも酒も健康には悪いが、まあいいのではないか。

「健康や生命はそれ自体貴重なものであるが、他のすべてに優先するものか、
これを第一義的に尊重するのが唯一の正義なのか、私には確信がない。
私には、今の禁煙運動の正義は、愛国婦人会の正義と重なるのではないか
という疑念がどうしても拭えない」(P120)


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