「青べか物語」

「青べか物語」(山本周五郎/新潮文庫) *再読

→完全な小説だとは思うけれども、やはり古くさい。
作者の異常なまでの人間嫌いと劣等感が透けて見えて、
いやなやつほどいい小説を書くという定理が真実であることを思い知らされる。
自分は絶対正義とか信じていないとこういう名作は書けないのだろう。
山本周五郎といえば人情作家のように思われているが、
晩年の名作「青べか物語」は底辺が底辺をバカにしまくる楽しい小説である。
ああ、学や金のない底辺の人たちって怖いんですね。
それは同時に人間味豊かであるということなんだけれど、ちょっと濃すぎて、そこがおもしろい。
山本周五郎といえば、忘れられた文豪ストリンドベリを愛したことで知られている。
たまたまわたしもストリンドベリ邦訳作品はほとんど読んでいるので(こんなやついないだろ)、
せめて山本周五郎のストリンドベリ的なところを指摘したい。
これだけ評価の高い作家の作品にいまさらわたしごときが付け加える感想は思いつかない。
ストリンドベリはとにかく人間不信、人間嫌いで、
バカにしあう人間同士や男女を好んで描いた。
人間というものはずるくて汚くて自分のことしか考えず、他人をバカにするのが大好きだ。
これがストリンドベリの人間観であり、また「青べか物語」の人間模様だと思う。

老人の顔の描写である。実にストリンドベリ的でなおかつ日本語としてもうまい。

「眼には非人間的な鈍い冷たい光があり、
殆(ほと)んど唇が無いようにみえる薄い唇には、いつも人を小ばかにしたような、
狡猾な微笑が刻みつけられていた」(P17)


底辺漁師部落の五郎さんは若い妻をめとったけれどもすぐに離婚してしまった。

「町の人たち、ことに五郎さんの友人たちはこの離婚に不審を持った。
友人たちはこの結婚に嫉妬と羨望を感じ、五郎さんとのつきあいも疎遠になっていた。
云うまでもなく、花嫁が縹緻(きりょう)よしで、東京の女学校出身であることが、
かれらの庶民的な生活感情を刺激したのであって、
それが半年と経たないで離婚したとなると、かつての羨望や嫉妬が、
今度は激しい疑惑と詮索欲とに変った」(P59)


人間の本性は嫉妬で、人の幸運は腹立たしく、また人の不運は好奇心をくすぐられるのだ。
それから縹緻は新潮文庫さん、ルビを振ってくださいよ。
文脈から「きりょう」しかないとは思ったけれども、こんな漢字があったとは。
さて、底辺層の被害妄想を山本周五郎文学は心地よく、とろけるような甘さでくすぐる。

「彼は出るところへ出たのだ。県の県警本部までゆき、
金も地位もない者がどんな扱いを受けるかということを、
自分ではっきりと経験した」(P76)


以下は人生を貸借関係と見るストリンドベリ的人物と瓜二つの思考形式でうすら寒くなった。

「これだけ酷(ひど)いめにあわされれば、人は温和な気分を保つことはできないだろう。
自分が払わされただけのものを人にも払わせてやろう、
というような気持になるのが当然かもしれない」(P256)


「涙の数だけ優しくなれる」や「傷ついた人は人の気持がわかる」なんていうのは嘘で、
人生から残酷な仕打ちを受けたものは、おなじかそれ以上のことを人にやり返すのだ。
いじめられっ子が長じて自分がされたよりもはるかにひどいいじめをするのが底辺だ。
先輩からこれでもかと殴られた運動部員は残酷な笑みを浮かべながら後輩を殴ることに酔う。
人を苦しめるのはなんて楽しいのだろう。バカほどバカをバカにする。
山本周五郎の名作「青べか物語」の登場人物はストリンドベリ的でわたしにとても近しい。

COMMENT

- URL @
08/31 14:32
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Yonda? URL @
08/31 22:07
板橋さんへ. 

ご質問の答えは、「青書」です↓
http://yondance.blog25.fc2.com/blog-entry-1735.html

メール欄が開けないので、メールをご希望でしたらそちらからメールをお願いします。
板橋 URL @
08/31 22:29
. ありがとうございます!!!
仔細な記事を載せておられるにも関わらず、見つけられず申し訳ございません。
たいへんお手数をおかけ致しました。
奇書とのことなので不肖には理解が難しい本かもしれませんが、古本を探してみたいと思います。
本当にありがとうございました。
Yonda? URL @
09/01 13:18
板橋さんへ. 

いえいえ、どうもいたしまして。
ぶっちゃけ、ストリンドベリ「青書」はつまらないと思います。
訳も古いですし、言ってしまえば、狂人のたわごとですので。
しかし、だからこそ、いま読んでみるのもいいかもしれませんですます♪








 

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