書いていいのか

たとえばある作家の講演会に行ったとして、
その内容をブログに書いていいものなのだろうか。
わたしならば話した内容を知らない他人にネット上に書かれ永遠に残るのはいやだ。
自分が話したと思っていない内容が自分の発言になってしまう危険性も大いにありうる。
心理療法家の河合隼雄さんなんかは、
一時期はっきりと講演会で話した内容は公開してもらいたくないと表明している。
(晩年は湯水のごとく講演録を出したが)
大学の授業でも(教授でもあったのだ!)集中講義のあと、
学生さんにノートを出させてすべて回収したことがあったという。
クライアントの秘密に関係することを話したから記録に残されてはいけない。
ただし記憶に残るのならばいい、という判断があったのだろう。
河合さんは別のところで講演会で話した内容を「その場の真実」だと言っている。
そのときその場にいた聴衆とのあいだで成立した真実ではあるが、
「普遍的な真実」ではないので公開してもらっては困る。

たまにある作家の講演会の内容をブログに書くことがある。
なぜそんなことをするのか。ボランティアなどではなく、自分のためである。
聞いた内容は書いてみないとわからない。
書いてみてはじめてなにを聞いたのか理解できるということがある。
書きながら、ああ、そういうことだったのかという発見があり、それが楽しいのだ。
あとで読み返して、はあはあと自分の書いた言葉から教わることもなくもない。
もちろん、自分のためだけではない。かといって、善意ではない。
被害妄想的で苦笑なさる方もおられるでしょうが、
むかしある女性からわたしの講演会採録などぜんぜん大したことがないと言われたからだ。
なんの価値もない。あんなものはだれでもできる。
まあ、それは絶対に間違いで、できるわけがないのである。
ある男性がやっているのを見たことがあるけれど、
ほとんど作家の話した内容を聞き取れておらず、
本当にファンなのだろうかと失礼なことさえ考えたものである。
しかし、感謝するならば相手はその女性だろう。
そういうことを言われた怨念が講演会の記録にひと役買っているのである。
なかにはうちのブログはその人気作家の講演録しか読まない人もいるそうだから。

昨日、有名作家の講演会にしつこく行ったけれど、内容を書いていいのか迷う。
かなりおもしろかったのである。疑問点がいくつも解けた。
とはいえ、かなり作家の個人的な領域のことも話している。
(このため、おもしろかったとも言えるのだが)
それを公開してしまっていいのかわからないのである。
みなさんもそうだと思うが、わたしも人に公開されては困ることがいろいろある。
友人には話すけれども広く公開してほしくない。広められたら絶交する可能性もある。
そうはいっても、しょせんは講演会で話された内容である。
わたしは作家と面識がないし友人どころか知人でさえない。
講演会で話したことはないが、話した内容ならばいいような気もする。
ノートは取っているので、しばらく寝かせてみようと思う。
実は話すことのみならず聞くこともまた創作なのだが、
寝かせばそれだけわたしの創作であるという点が強まるだろう。
才能ある作家とはあまり近づきすぎてはいけないので(自分がなくなってしまう)、
この面からも寝かせるのはいいはずである。
寝かせてそれから考える。
万が一、期待されていた方がいらしたら、そういう事情なのでごめんなさい。

COMMENT









 

TRACKBACK http://yondance.blog25.fc2.com/tb.php/3256-bbeb79f3