「五千回の生死」

「五千回の生死」(宮本輝/新潮文庫) *再読

→宮本輝さんはホンモノの底辺階級出身だったんだな。
短編小説なら氏の大好き(でわたしが大嫌い)な説教がないだろうと踏んで
再読(正確には四読目くらい)してみたら……。
ど貧乏で鼻くそを食って育ってきたような人だったとは。
ちょっと現在の日本の作家で宮本輝に勝てる人はいないと思う。
だって、ホンモノなんだもん。この人、本気でやばいぜ。
輝さんのパパもあれな人だから宿命なんでしょうね。
パパがママをがんがん殴って、ママがアル中になるような家庭環境で育った輝さん。
「お父ちゃん、お母ちゃんを殴らんといて」
パパがモデルと思しき人物が子どものまえでママに向かってすてきなセリフを吐くんだ。

「貝塚の嫁はんがうらやましいんか。
あの狐(きつね)みたいな顔を見てみィ。
おしろいつけて紅つけて、おそその横に垢(あか)つけてちゅうのは、
あんな女のことを言うんや」(P69)


いまの若い人のために説明すると、おそそはおまんこちゅう意味ねん。
いやはや、下品ですな~。しかし、これが宮本輝ワールドなのだ。
よくこんな家庭環境で育ってヤクザや泥棒にならず自殺も発狂もせず男色に走らず、
いわゆる真っ当な大人に育ったもんだと感心する。
宮本輝さんの世界にはDVとかパワハラ、モラハラというお上品な言葉がないんだ。
亭主は妻を殴るのが当たり前。
強いものが弱いものを虐げるのがなぜいけない?
泥棒さえしなきゃ、多少の不正くらい食うためにゃしゃあないだろうが!
こういうくそ庶民論理を正義とする、いわば畜生界を長らく生きてきた。

「抵抗出来んやつをいたぶるのは最高や」(P133)

いま生きている小説家のなかでやはり宮本輝がいちばん好きだと再確認する。
輝さんは巨大新興宗教団体、創価学会に入信しているけれど、
かの教えはきっとすごいのだろう。なまくら宗教じゃこの人は救えんもん。
こりゃあ新興宗教にでも入らないといかれちゃうわ。
おれがあの家庭環境で育ったらと考えるとぞっとする。
ふつうなら一生のあいだ父と母を怨みつづけるはずである。
それが輝さんときたら、二親どっちも許しているのだから立派だ。
父親を生涯許さなかったという某カトリック作家よりよほど偉いと思う。
このたび宮本輝の短編小説を一気に再読したけれども、
これでもかとしつこいばかりに窃盗のエピソードが出てくるのには驚いた。
本当の貧乏というのは、人のものを盗みたくなるんだな。
盗みたい心と闘わなければいけないのがリアル底辺ってやつか。
なんとか警察のお世話にならんで社会に出たら重度のノイローゼで失職は辛いよな。
下手をしたら一家心中をせなならんぎりぎりのところで勝って生きてきたのか。
そりゃあ成功したら説教したくなるわ。
われわれの世代なんて輝さんから比べたら「甘い×五千回」くらいだから。
「死ぬ気でやれ」「勝つまでやれ」を生き抜いてきた人なんだな。
「おまえら見たか! おれは人生に勝ったでェ。アホンダラどもが」
輝さん、大勝利、大歓喜、大信心♪ ――の言葉。

「うん、ものすごう嬉しい気分や。死んでも死んでも生まれて来るんや。
それさえ知っとったら、この世の中、何にも怖いものなんてあるかいな」(P94)


きっとこれが信仰ってやつなんだろうな。
創価学会――。
自分に勝利するばかりではなく、相手を打ち負かし蹴落とし勝ち誇るのが目的の信仰。
この作家は成功勝利のむなしさなんて偽善臭いことは死ぬまで言わないだろう。
勝つのが空虚なんてそんなことあるかいな。成功は楽しいでェ。
死んだら終わりなんてそんなことあらへん。死んだら生まれ変わってきてまた勝つでェ。
おれは輝さんの品の悪さ柄の悪さがとても好きだ。
おそらく、おなじものを生まれ持っているからだろう。

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