「人生の鍛錬」

「人生の鍛錬 小林秀雄の言葉」(新潮社編/新潮新書)

→高校生の山田太一少年を夢中にさせた小林秀雄を読む(以下、文中敬称略)。
本書は全集も手がけた子分編集者が選んだ小林秀雄の名言集である。
酒癖の悪い小林秀雄の言葉に触れるのはこれが初めてだが、さあどうしようか迷う。
本音を言うと、さっぱり文章の意味がわからないのである。
しかし、尊敬する山田太一も宮本輝も酒癖の悪い小林秀雄を認めている。
というかむしろ崇めているところさえある。
わたしは酒癖の悪い小林秀雄の文章をどうしても理解することができない。

こういうとき、いったいどうしたらいいのだろう。
理解できないのは自分が至らないからだと反省すべきなのだろうか。
「人生の鍛錬」が足らないからだと殊勝にもうなだれるべきなのか。
とはいえそうはいっても、
こちらは人並み程度の読書はしてきた四捨五入すれば40にもなるおっさんである。
わからない文章を書く酒癖の悪い小林秀雄を責めてはいけないのだろうか。
晩年の小林秀雄は骨董の鑑定で小遣いを稼いでいたようである。
骨董品になぞらえるなら福田恆存は本物だと思うけれど、
小林秀雄はどちらかといえば……しかし、山田太一も宮本輝も本物と言っているから、
やはり、その、小林秀雄が贋物(にせもの)に見えてしまうわたしは眼力がないのだろう。
みながよいと言っていれば、自分にはわからないものでも一応ひれ伏すのが処世の知恵。
酒癖の悪い小林秀雄をまるで新興宗教の教祖のようだと皮肉るのは大人げない。

以下、わずかでも理解できたところを自分の言葉でリライトする。
もしかしたら多少なりとも小林秀雄を理解できるわたしは(いやわたしも)偉いのでは?

・批評は愛情や感動でするもんだ。
・自分の意見を捨てて対象をありのままに鑑賞するのはとても難しい。
鑑賞していても対象をまったく見ず、自分の意見にのみ執着していることはよくある。
・他人の生活を生きてみたいという通俗的な理由から我われは小説を読む。
・広く浅い読書ではなく、深く狭い読書をしよう。
・歴史から学ぶことがあるとすれは、将来の予想は当たらないということ。
それから各時代のいまを精一杯生きた人が歴史を創ってきたということ。
・独創や個性は既存の思想ではなく、物事にぶつかったときの態度(行動)から形成される。
・なぜ書物を読むのかといえば、それを書いた人間を知るためである。
人間が書いた書物からいかに人間を取り戻すかが読書の技術といってよい。
・小説を読むのも思想書を読むのも、自己の体験を元手にした創作活動でなければならぬ。
・文学者はわからないことがあるから小説を書くのだ。
彫刻家も完成させて初めて自分の創作したかったものがわかり、
またそこから学ぶ、すなわち新たな疑問が生まれる。この繰り返しが芸術である。
・人間って死なないと全体像がつかめんよね。
・偶然に過ぎぬ不幸を必然のように観じ、いったんあきらめるのが命の力である。
・頭は西洋文学で鍛え、眼は日本美術で養うのがよい。
・人生はお芝居だから、俳優の努力、観客の努力というものがそのまま人生論になる。
・絵を見るのは練習と思って、どれだけ退屈でも絵のまえに立っていなさい。
・政治家に必要なのは私の意見・思想ではなく集団のそれである。
・文学作品は(批判や解説ではなく)ただひたすら忍耐力のある愛読者を求めている。
・音楽鑑賞は(言葉に翻訳するのではなく)、ただ音を正確に耳でつまかえるだけでよい。
・言葉は美の本質をゆがめる。我われは言葉のせいで美を見失っている。
・絵や音楽を理解するとは、ひたすらそれを愛することを意味する。
・人間は自然のうちに人間の心のようなものを見るから風景に感動するのだ。
・ゴッホの絵の衝撃は、向こうから見られていると感じたところだ。
・客観的、実証的な研究よりも、どうしてみな対象を愛そうとしないのだろう?
好き嫌いの心の働きには、測り知れないものがあるのではあるまいか。
・歌は意味を知るものではなく、味わうものだ。
作者が歌を作るに至った感情体験を自分も真似て味わってみるのがよい。
・おれは酒癖が悪いので有名だが、ほんとうは独酌がいちばん好きなんだぜ。
・批評とは悪口ではなく、他人をほめる特殊な技術のことをいうのだよ。
・人間の死は肉体が滅びるだけで、もしかしたら精神はそのまま残るのかもしれない。
・固有の思いを外来の漢字でしか表現できなかった矛盾から古事記は生まれた。

さて、どうでしょうか。小林秀雄をわたしの言葉に翻訳したら、はて。
一箇所くらい原文をそのまま引いておこう。

「成功は、遂行された計画ではない。何かが熟して実を結ぶ事だ。
其処(そこ)には、どうしても円熟という言葉で現さねばならぬものがある。
何かが熟して生れて来なければ、人間は何も生む事は出来ない」(P203)


酒癖の悪い小林秀雄の千分の一でいいから人生で成功とやらを味わってみたいもんだ。
そのためには意味のわからない文章を書く努力もたいせつなのかもしれない。
意味不明の文章をまえにした瞬間、
これは参りましたとシッポを振る犬のような読者もなかにはいるようだから。
頭が悪いためか、どうしても読者を突き放すような難解な文章を書くことができない。
泥酔して酒場で同業者にからむくらいならわたしでも真似できそうなのだが。

少年は老いる。山田太一中年は少年時代を振り返ってこんなことを言っている。
小林秀雄は――。

「むずかしくて半分も理解できませんでしたけれど、
読むだけで高校生の虚栄心を満たしてくれた本でしたから(笑)、
いまでも大事にしています」(「本棚が見たい」P94)


(追記)そういえば小林秀雄は10年近くまえ「ドストエフスキイの生活」を読んだかな。
入手可能なドストエフスキー作品をすべて読了したのちのこと。
それがまったくわからなかったので以降ずっと敬遠してきたのでした。

COMMENT

クレーマー&クレーマー URL @
01/24 21:10
難解な小林秀雄に挑戦. はじめまして。

私も難解な本を読むことは苦手です。そのため、小林秀雄の本は読んだことがありません。

しかし、小林秀雄が評価されているという事実を鑑みれば、一度くらいはそれを読んでみてもいいかなと思っています。

読みたい本がいっぱいあるためそれが実現するのは相当に無理な気がするのですが…
Yonda? URL @
01/25 21:22
クレーマー&クレーマーさんへ. 

はじめまして。

どうか読書をがんばってください。

がんばればきっといいことがあると思います。








 

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