「しつこさの精神病理」

「しつこさの精神病理」(春日武彦/角川oneテーマ21)

→精神科医の春日武彦の本を読むと、心底からげんなりする。
ほんと人間ってどうしようもないものだなとやりきれなくなる。
本書のテーマは復讐である。仕返し、報復。
穏やかな顔をしていても、みなさんも復讐したい相手のひとりやふたりいるでしょう?
いや、そんなのはわたしだけかもしれないな。
しかし、このブログの読者でわたしに仕返ししたいという人はかならずいると思う。
そうでなければ、匿名掲示板にあれだけわたしの悪口は書かれないはずだから。
2ちゃんねるで自分の誹謗中傷を読むと、いったいだれに恨まれているのか怖くなる。
見知らぬ人から黒々とした感情をぶつけられるとちょっと怯むようなところがある。
とはいえ、なんとなくその人の気持がわからなくもないのだ。
なぜなら、こちらも結構、いや、かなり恨み深い性質だから。
わたしが嫌いで「本の山」を読んでいるあなた! 
お互いおかしな復讐なんてやめましょうね。
いったいどうして人間は仕返しなどという物騒なことを考えるのか。
自身の黒々とした感情をいささか持て余し気味の精神科医はこう分析する。
前提として世界はどうしようもなく不条理で理不尽という事実がある。

「こんなろくでもないことの横溢(おういつ)する世界に生きていれば、
被害者意識に駆られがちになっても不思議ではない。
わたしの観察するところによれば、ヒトの心はそもそも容易に
被害者モードに切り替わるように出来上がっている。
謙虚に反省したり自分を責める前に、まずは他人を恨み不運を嘆く」(P27)


世の中いかに不条理な災厄にあふれているか。
いきなり理不尽な不運に見舞われるのが人生である。納得がいかない。
どうしてこうなったのかわからない。腹立たしくなる。

「精神科医としての臨床経験から述べると、
自縄自縛で自分を不幸にしていくタイプの人がいる。
彼らには「自分は間違っていない」という信念がある。
論理的で理屈っぽく、何事も収支決算の帳尻が合うことに固執する。
被害的で自分は損ばかりしているといった感情のもとに思考を進めがちで、
また自尊心が高い。
そうした「自分は間違っていない」モードへ常に気持ちを設定しているので、
すぐに「許せない」と苛立つ。あんなことをするなんて信じられない、と憤る。
結果として、正義の名のもとに報復しなければいられない気分に駆られるものの、
実際にはなかなかそうはいかない」(P78)


これはだれのことを言っているのか。まず書き手の春日武彦のことである。
それから、わたしのことである。あなたのことではない。
まさかこれをお読みのみなさんは、こんな毒々しい思考はなさらないでしょうから。
不条理や理不尽に遭遇したとき、ふたつのパターンにわかれる。
明確な復讐対象がいる場合と、そうでないときとである。
後者は神を呪うという形式になり、無差別殺人の発端ともなりうる。
人間はどうしてか不条理や理不尽(と感じること)に遭遇すると報復を誓うようになる。
いったい復讐願望の強い汚れたわたしはどうしたらいいのか。
春日武彦はこの邪心をどう整理しているのか。
医師は仕返しを願う患者にどのような言葉をかけているか。
「報復なんてあんまり上品なことじゃないと思うなあ」
「あなたには復讐なんかよりも、もっと優先順位の高いことがあるんじゃないの?」
「相手と同じ土俵に立ってしまっては自分を貶(おとし)めるだけだ」

「復讐なんて子どもじみたことはさせず、
どうしても当人が子どもじみた状態から抜け出そうとしないのならば、
恨みを、軽蔑という形に集約させる。相手を軽蔑することは、
倫理や道徳や人間観察に根差す最も苛烈で静謐な表現形式だろう。
軽蔑という営みは直接的な暴力ではないが、
考えようによっては遥かに強いダメージを与え得る。
相手の自己愛を直撃しかねない種類のものなのだから」(P80)


なるほど、報復したい相手がたくさんいる春日医師はこう自分に言い聞かせているのか。
「こだわり・プライド・被害者意識」が人一倍強い春日武彦である。
繰り返し著作で患者を軽蔑したことを書く春日の心中を思うと涙ぐましい。
日々患者から腹立たしい思いをさせられている春日武彦は軽蔑に到達したのだ。
恨み深い精神科医の発見した復讐感情対策マニュアルは以下のようになる。

「復讐・仕返し・報復」→(↑自己愛↑)→「↓軽蔑↓」

精神科医の春日武彦は自身がそうとうに大人げないのだろう。
これでも自分の復讐感情を抑えられないときがたくさんあったのではないか。
いくら仕事とはいえ無礼で腹立たしい患者に仕返ししたい。
自著に患者の悪口を軽蔑感情と一緒に書き込むだけではとうてい腹が収まらない。
このとき陰湿だが頭脳明晰な春日武彦医師は次のような思考をするに至る。

「おそらく、復讐が成功しても思ったほどのカタルシスは訪れなかったり、
こんな奴に仕返しをしても自分の心が汚れるだけだと
急に馬鹿馬鹿しくなってしまったり、
反動で空虚感や抑うつ気分に囚われたり、
いったい自分の人生は何のためにあるのだろうと悩んだり、そんな具合に
気持ちはむしろ暗く沈みこむ方向にシフトするのではないだろうか。
復讐に固執していた自分自身に自己嫌悪を覚え、
自分の存在価値について自問自答さえしたくなってしまうのが
「まっとうな」人間ではないか」(P74)


ここに至って春日の黒々とした感情はようやく行き場を見つけるのだろう。
相手を軽蔑することで自己愛を保てばいいと気づく。
幸いにも精神科医の春日武彦は原稿の依頼があり、
患者への強い軽蔑意識を公にできる立場にいた。医師は幸運だった。
ここまで、かなり辛辣(しんらつ)に精神科医を裁いたようだが、
こうでもしないとこちらの自己愛が崩れてしまうので著者にはどうかお許し願いたい。

まったく春日武彦の発見した復讐感情消去法は大したものだと思う。
人の何倍も執念深い春日先生でなければ発明できなかったのではないか。
たしかに春日医師のように考えたら、
なんとかこの世の不条理や理不尽とも折り合いがつけられるような気がする。
復讐感情に苦しむ人は多い。
精神科医の春日武彦は本書でかなりの人を救ったのではないか。
最後に、親愛なる春日さんを真似てちょっとぼやいてみよう。
人を軽蔑してばかりの自己愛の強いお医者さんというのもうんざりだな~。

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