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「をぐり」

「をぐり」(室木弥太郎・校注/「説経集」新潮日本古典集成)

→小栗判官の伝説をもとにした説経節「をぐり」はむやみに長いけれど、
「かるかや」や「しんとく丸」のような宗教性がまったく感じられない。
無知蒙昧な下層民にひたすら現実逃避の楽しみを与えるだけの娯楽作品といってよい。
熊野、湯の峰温泉の宣伝PRといった面も強く、商業的な悪臭が鼻につく。
ありがちな伝説的英雄と伝説的美女の恋愛物語である。
好きあう男女(をぐりと照手姫)が結ばれたら物語が終わってしまうという理由から、
ハードルをこれ見よがしに設けているのがバレバレで興ざめしてしまう。

をぐり(小栗)はおのれを嫌う照手姫の家族に暗殺される。
だが、地獄の閻魔様の計らいでこの世に業病「六根かたは」の状態で戻ってくる。
一方の照手姫もすんでのところで殺されるのをまぬかれ、
娼婦として売られていく(とはいえ、雑用係で身体は売らないのだが)。
売春宿で働く清純な照手姫は、亡きをぐりの供養として、
業病にかかった障害者に慈悲をかける。旅の移動を手伝ってやる。
観客はその奇形のものこそほかならぬをぐりであることを知っているが、
照手姫は知らずに人助けをするところにドラマチックな魅力があるのだろう。
(いわゆる、すれ違いというやつである)
のちに湯の峰温泉でもとの姿に戻ったをぐりが出世して照手姫と再会を果たす。
かつての暗殺者に仕返しを忘れないのは、いかにも説経節といったところか。

をぐりが地獄から戻された場所が時宗総本山、藤沢の遊行寺(清浄光寺)。
まえに時宗開祖の一遍上人への関心から行ったことがあるので懐かしかった。
ここから熊野までをぐりは多数の遊行者によって運ばれていく。
熊野にもむかし行ったことがあるため、距離感覚がわかりおもしろかった。
説経節は現世での苦難をやたら強調するようなところがある。
そのあげくの幸運、出世、結婚、さらには仇(かたき)への執拗な復讐である。
いかに下層民が世を恨んでいたか、切なくも幸いを望んでいたかがよくわかる。
ちなみに説経節を全国に広めたのは最下層民である。
観客よりもさらに身分の低い、漂泊する芸能者たちが説経節の担い手であった。
彼らは日本中を旅した一遍上人を開祖とする時宗集団の末裔であるとされている。

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