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「泣き虫ハァちゃん」

「泣き虫ハァちゃん」(河合隼雄/新潮文庫)

→河合隼雄先生の遺作となった自伝的小説とのこと(帯やPRによる)。
これは自伝的小説ではなく、自伝的童話ではないかとも思うが、まあどうでもいい。
遺作のため完結はしていない。
自伝が途中で途切れるというのは、人生そのもののようでおもしろい。
完結する人生などないのである。
どの人生も、どんな偉大な人生も、途中で不本意なままに途切れる。

作品が小説として、あるいは童話として質が高いのかどうかはわからない。
おそらく童話コンテストなどに応募していたら落選したのは疑いえないが、
ひかえよみなのもの、この本は河合先生がお書きになったものだぞえ。
わたしも尊敬する河合先生の本だからということで感じ入る部分があった。

河合先生はとにかく涙もろかったのである。
心理療法の事例報告をしながら、わんわん泣き出すことも少なくなかったようである。
おなじく、事例を聞きながら涙をぽろぽろ流されることもあったそうだ。
だから、「泣き虫ハァちゃん」なのだろう。
泣き虫になったいわれとして紹介されている幼児期のエピソードが興味深い。
幼少時、ハァちゃんの弟が2歳で死んでしまった。
このあとお母さんは仏壇をまえにして泣き暮らしたというが、
そのときおそばで一緒に泣いていたのがハァちゃんだったというのだ。
どれほど母は子に慰められたか。

次のエピソードもおもむき深い。
小学生のときからハァちゃんはとにかく要領がよかったという。
本当のことを書けと教員から指導された遠足の作文で調子よく嘘を書き、
まさにその箇所を先生からべた褒めされたというのだから。
自分はあまりに要領がよすぎるのではないかと悩むハァちゃんであった。
このハァちゃんの悩みは、
おそらく作者である老人河合隼雄の抱いていたものとおなじだったのではないか。
とにかく河合先生は要領がいいのである。
この先生がどうしてか心理療法家になり、要領が悪く苦しんでいるクライアントを多く救った。
わたしも救われつつあるひとりである。

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