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「ココロの止まり木」

「ココロの止まり木」(河合隼雄/朝日文庫)

→「週刊朝日」連載エッセイ。最晩年の著作である。
運命の力というものを、これでもかと思い知らされることが人生で多い。
人間の無力のまえに絶望的になり、何度も投げやりな気分に落ち込んだ。
運命の力に打ちのめされると河合隼雄さんの言葉にすがりつく。
以下は、ギリシア悲劇「オイディプス王」鑑賞後の感想である。

「現在は科学技術の発展によって、人間は極めて便利で快適な生活を享受できる。
自分の意志と努力によって相当なことが可能になる。
にもかかわらず、運命によって不幸に陥る人も多くある。
私のような心理療法家は運命の力の強さを感じさせられることが多いが、
自分の運命を引き受けて生きる人の姿に輝きを感じさせられる体験もする。
自分の意志や努力を大切にして生きるのは素晴らしいが、
運命の力を感じ取りつつ生きることによって、笙(しょう)の微妙な和音のように、
人生の味が深くなるように思うのである」(P42)


「運命によって不幸に陥」った人は河合隼雄の心理療法を経ることで、
「自分の運命を引き受けて生きる」人になる。
結果として、当人の「人生の味が深くなる」――。
いったい河合さんは心理療法でなにをしているのだろう。

「精神科医の中井久夫の言葉に、病に対する「最大の処方は、希望である」という、
私の好きな言葉がある。確かに、何のかのと言うよりは、
揺るぎのない希望をもって人に接するのが、
われわれ心理療法家の最大の役割ではないかと思う。
とはいっても、「希望つぶし」の名人のような方々とお会いすることが多いので、
こちらも大変である。そんなときに、私は自分がどれほど多くの、
希望に至る心の回路をもっているかが勝負どころかと思ったりする。
ひとつやふたつつぶされても、大丈夫なのだ」(P139)


心理療法家はひたすら希望しているとのこと。
運命の力で不幸になった人のそばに、希望するだれかがいたら、当人は立ち直れる。
どちらかといえばわたしは希望つぶしの名人のほうである。
どうしたら「希望に至る心の回路」が増えるのだろう。
河合さんはシェイクスピア劇を見た感想として、回路が増えたと書いている。
「ペリクリーズ」で「起こりえないこと」が連続して起こっているのを見たという。
たしかに舞台では「あんなにうまくいきゃーしないよ」ということが多く生じる。
人は芝居を見たあとしばらくしたら「現実は……」と落胆するだろう。
ここで「希望に至る心の回路」は通常なら閉じてしまう。
どうして河合さんの回路は閉鎖しないで増加するばかりなのだろう。

「先に「起こりえない」などと書いたが、考えてみると、
心理療法のなかで、立ち直っていった人たちは、
すべて「起こりえないこと」を経験している、と言っていいことに気がつくのだ。
言うならば、「起こりえないこと」は「必ず起こる」のである」(P138)


氏のこの確信の強さに引かれて(騙されて)本をたくさん読んでいるのかもしれない。
さて、「人生の味が深くなる」とはどういうことか。
これに関連するエッセイが本書にある。
言うまでもないが、河合さんの心理療法にくるような人はみな不幸である。
どうにかして幸福になりたいと思っている。そのお手伝いをするのが心理療法家だ。
しだいに河合さんは幸福とはなにかわからなくなってきたという。

「こんな仕事を長く続けているうちに、いったい「幸福」とは何か、
だんだんとわからなくなってきた。というのは、一般に「幸福」というと、
お金がたくさんあって、仕事がバリバリできて、自分の好きなことがどんどんできる、
というようなイメージを抱かれるのではなかろうか。
アメリカのパーティなどに行くと、そんな典型的な人にお目にかかれる。
すべてに自信にあふれている、ということはよく伝わってくるが、
「安心」のほうはサッパリなのである。傍らにいると、
なんとなくこちらまでそわそわしたり、時にはイライラしてくる。
最後には、「立派なものですな。しかし、あなたそれで人生ほんまにおもろいの」
などと言いたくなってくる」(P81)


なるほど、「幸福」はマクドナルドのハンバーガーのように大味なところがある。
「幸福」は、細かい味をケチャップで真っ赤にしてしまうような強引さがある。
「人生の味が深くなる」というとき、
それは「幸福」から一歩離れた立場からの視線が重要になってくるような気がする。
河合さんは「安心」の思想を仏教から知ったという。
そういえば、日本最大の例の仏教団体、
その構成員はみな「安心」から程遠いのではないか。
「お金がたくさんあって、仕事がバリバリできて、自分の好きなことがどんどんできる」
これを目指しているのが多くの創価学会員のように見受けられる。
目的は、とにかく勝つこと、がむしゃらに得ること。勝利! 獲得!
もしかしたら仏教的な「安心」は、負けること、失うことがポイントなのかもしれない。
敗北や喪失が「人生の味が深くなる」のと、あるいはなにか関係しているのかもしれない。

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