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「クリスマス・キャロル」

「クリスマス・キャロル」(ディケンズ/池央耿訳/光文社古典新訳文庫)

→これまた恥ずかしい読書をしてしまった。
かの名作をこの歳まで一度も読んだことがないというのは恥になるのではないか。
言い訳めいたことを書くと、「本の山」をはじめたのは、
世界文学、日本文学の名作を読みあさり、関心が演劇に移ったころ。
なにが言いたいのかと申しますと、いちおう名作はかなり読んでいるつもり。
しかし、なかには「クリスマス・キャロル」のような穴もあるわけでして。

内容は守銭奴のスクルージがクリスマスに自分の死ぬ夢を見たことがきっかけで、
美しい人間愛に目覚め、それまでの態度を一変させる。
つまり、クリスマスを境として偏屈な老人が人に優しく親切になる話である。
まあ本当ならスクルージはふたたび人間の底知れぬ性悪に傷つき、
哀しいかな、またもとの冷血漢に戻るのだろうが、そこは名作文学らしい嘘なのだろう。
悪い人がいい人になって、めでたしめでたしというわけで、こちらも感動した。
「クリスマス・キャロル」を読んで数日はきれいな心でいられるくらい、
まだこちらもすれていないようで我が事ながら安心した。
身もふたもないことを言うと、単なる世間知らずなだけなのだろうが。

しかし、改心するまえのスクルージは笑える。
そうなのだ、だれにも親切でみなから愛される老人は、文学の主人公たりえない。
癇癪もちの冷笑家スクルージは、
あたかも中島義道氏や小谷野敦氏、それから我輩のようである。
なかなかのナイスガイということだ。すばらしい描写がいくつかある。
まず彼、いや我われの好む動作はなにか。せせら笑う!

「へっ」スクルージはせせら笑った。「くだらない!」(P15)

ちなみに、ここで「くだらない!」と彼が見下しているのはクリスマスだ。

クリスマスはくだらない!

ご同感という人がいましたら、おめでとう。あなたも我われの仲間、スクルージだ。
貧乏人への寄付を求められたら、なんと言えばいいか。

「だったら、さっさと死ねばいい」
「余分な人口が減って、世のためというもんだ」
「どうなろうと私の知ったことではない」
「私にはかかわりあいのないことだ」(P23)


うんうんと首肯しているあなた、おめでとう、あなたも今日からスクルージだ!
人が逢いにきたらなんと言えばいいのか。

「はてさて」スクルージは持ち前の冷笑を孕(はら)んで言った。
「何ぞ、私に用でもあるのか?」(P34)


あなたはまだスクルージほど老いていないと言うかもしれない。
なら、若き日のスクルージの描写をお目にかけよう。
ここは本書のなかでいちばん素敵な描写だと思う。

「その顔はまだぎすぎすした後年の皺を刻まず、
知謀と強欲の滑(ぬめ)りが浮きはじめるところだった。
猜疑と我執を宿してせわしなく動く目は、
心に根を降ろした怨念の木が
やがて枝葉を広げて落とすであろう影を予兆していた」(P71)


心に根を降ろした怨念の木!

実にうまい表現だよな、くすくす。
世界中の人びとが「クリスマス・キャロル」を読んで感動するということは、
もしかしたらみんな心にスクルージを宿しているのかもしれない。
だれもが「心に根を降ろした怨念の木」を内に有しているのではないかしら。
だから、「クリスマス・キャロル」という美しいフィクションに救われるのだろう。
よし、今年は邪心を「クリスマス・キャロル」を読むことで浄化した。
いまのところクリスマスに予定は入っていない。
今年は改心したスクルージのように街へ繰り出し、
往来で逢う幸せそうな家族やカップルに向かってメリー・クリスマス!
そう快活に笑顔で挨拶することにしよう。本当だ。まず手始めに――。

諸君、メリー・クリスマスだ!

COMMENT

イナ URL @
12/09 06:09
僕はこの本をいただいたことがありました. 優秀な生徒さんの一人からです。去年のバレンタインだった気がします。同じ舞台に立ったこともありました。このところ僕の心は腐ってます。若く溌剌とした気持ちで夢を与えるような仕事がしたいです。ちゃんと読まないといけないですね(>_<)
Yonda? URL @
12/11 13:46
イナさんへ. 

教え子がいるなんて、すごい人なんですね、イナせんせえ♪ 「夢を与える」は大嫌いな言葉です。平成の文豪、綿矢りさ氏もそのようで同名の小説があります。心が腐っている。いいじゃないですか。そのほうがよほどいいものを書けるし濃淡のある演技ができるでしょう。わたしは老成した断念しきった気持で人様にごまかしを与えるような仕事がしたいです。それから、もらった本を読まないというのは極めて人間的な正しい行為だと思います。わたしなら読みますが。

質問ではないのでご返答は不要です。また議論は時間の無駄と考え嫌っております。思うところがございましたら、どうかご自身のブログにお書きになってください☆








 

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